2話 二人
「クリスマスに授業とかあり得ないだろ。」
轟が向こうの方で他の男子と話しているのが聞こえる。しかし柏原にとってそんなことはどうだってよかった。問題は隣でおしとやかに座っている三輪さんである。昨晩は自分がサンタクロースだと大声で叫んだ後、箱のような乗り物に乗って夜空へ消えて行ってしまった。その三輪さんが翌朝には何もなかったかのように平然と隣に座っているのである。もしやあれも夢だったのか。柏原は一人で様々な憶測を立てながら三輪の方をちらちら見る。
「おはー。」
いつの間にか轟がこちらに来ていた。いつもにやにやしている奴ではあるが、今日はいつもに増してにやけている。轟はふいに振り返って三輪の方を一瞥するとひそひそ声で柏原に
話しかけた。
「お前、好きなの?」
「ばか、そんなわけないだろ。」
「だってお前、いつも三輪ちゃんの方ばかり見てるじゃん。ばればれだぜ。」
「違うってば。」
「まあまあ、応援してるから。」
そう言って親指を突き上げると轟はまた別の男子の所へ向かって行った。好きとかそういう問題じゃないんだよな・・・。サンタクロースにはいい歳をした爺さんというイメージしか無かった。まさか隣にいる三輪さんが。いや、そんなはずはない。やっぱりあれは夢だったん・・・。
「あの。」
柏原はぎょっとした。さっきまで何も喋っていなかった三輪が急に柏原に向かって言葉を発したからである。
「え、な、何?」
何だろうか。昨晩の件か?それともさっきの鉄平との会話が聞こえてたのか。柏原は顔を強張らせながら答えた。
「昨晩のこと、覚えてますか?」
やっぱり。やっぱりあれは夢じゃなかったんだ。柏原は確信した。今目の前にいる三輪さんは本当にサンタクロースかどうかはともかく、昨晩確かに俺に向かって自分がサンタクロースであると宣言したのだ。
「う、うん。」
「あれ、皆には秘密でお願いしますね、」
「う、うん。」
気不味い空気が二人の間に流れた。自称サンタクロースの女子高生とその姿を目撃してしまった男子高校生。轟鉄平ただ一人が遠くから笑みを浮かべてその二人のことを見つめていたのであった。