再会までの腹ごしらえ
長い長い新幹線での移動時間が終わり、ついに東京に到着した。俺はその間田中のオタ話を聞きながら寝ていたので、そこまで長く感じなかったが。
「いやー。ついに着きましたね!東京!」
田中がそう言うと、俺も同調して続けた。
「そうだな。ところで聞いてなかったけど、コンサートって何時からなの?」
俺は腕時計の時間が昼の11時を過ぎていることに気づき、質問した。
「15時からです。早めに現地に行っておきたいですけど、そんなにここから離れてないんで、まずは昼飯食ってから向かいましょう!」
今回のプランは田中に任せているため、俺はそれに付いていくだけだった。
「じゃあ昼はネットで調べた人気のラーメン屋に行くんで早速行きましょう!」
もう既に鼻息の荒い田中を横目で見ながらラーメン屋に向けて歩き出した。
その道中で田中が俺に質問してきた。
「ところで、先輩は゛Sweet micoa゛の誰のことが好きですか?」
思わぬ質問に俺は動揺した。ここで麻衣ちゃんと答えていいのか。そう答えたらなぜ麻衣ちゃんが好きなのかの理由も答えないといけないと思ったからだ。だが、口は思いとは裏腹に先に言葉を出していた。
「麻衣ちゃんだな。」
しまった!っと思ったが田中はあまり興味なさそうに会話を続けた。
「へぇー麻衣ちゃんですか?確かにちょー美人で可愛いですもんねー。でも、千早希ちゃんには叶わないですけど。」
こいつは聞いておきながら興味がみじんもないのか。そんなことを思っている間に田中が行きたかったラーメン屋に到着した。
「よし!着いた!ここはかなり旨いらしいんで地味に楽しみにしてたんですよねー。」
そう言いながら、店の暖簾をくぐり、店の中に入りカウンターの席に二人仲良く腰をおろした。
店はまだ12時になっていないというのに人が多く、テーブル席が既に埋まっていたためカウンター席になった。
「先輩、麻衣ちゃんと知り合いなんですか?」
ラーメンの注文を終えた田中がいきなり聞いてきた。
「え、な、何でそう思ったの?」
俺は思わず噛みながら答えた。
「課長が言ってたんですよ。前にうちの会社に゛Sweet micoa゛が来た時に、先輩がぼそっと麻衣ちゃんがどうとか一人言言ってたって。」
しまった...課長に一人言を聞かれてたのか。恥ずかしさが一気に体の中を駆け巡ったが、俺は観念したように田中に話した。麻衣ちゃんが俺の小・中学校の同級生だったこと。会社に来た時に向こうがこっちを覚えていたこと。そんな話をしていると田中が興奮したように話し出した。
「先輩!今の話が本当なら...相当羨ましいっす!何で黙ってたんですか!」
俺は田中の勢いにちょっと困惑した。
「先輩!これはチャンスです!実はコンサートの席は会場の前から二番目の列なんです!そこだったら麻衣ちゃんの目にも絶対に入ります!同級生が来ていることを麻衣ちゃんが知ったら、コンサートが終わりに挨拶が出来るかもしれない!゛もう一度間近で゛Sweet micoa゛に会えるかもしれない!よし!頑張りましょう!先輩!千早希ちゃんにも会える!」
田中が暑く語っていて俺は何の突っ込みも出来なかった。そんなライブ終わりにローカルアイドルとは言え、簡単には会えないし話せないだろう。だが、興奮している田中の夢を崩すのはやめようと思った。そんなこんなでラーメンも出来上がり、カウンターのテーブルの上に置かれた。俺はラーメンを一口食べながら考えていた。
だけど、もし、麻衣ちゃんが気づいてくれたら...俺はあり得ないとは思いつつ、麻衣ちゃんと仲良く喋っている妄想をしながら、ラーメンをかきこんでいた。