テレビ番組のインタビュー
「はぁ、はぁ、はぁ、なんとか間に合った…」
会社の時計は7時55分を指していた。会社の駐車場から猛ダッシュで会社に入り、すぐにタイムカードを切った。ギリギリだ!
「遅いっすよ~先輩(笑)」
息切れしている俺の背中から軽い声がした。振り向くと、一年下の後輩で今年入社した田中が立っていた。
「また夜中に酒飲みすぎて寝坊したんでしょ?ほどほどにしないとダメですよ~(笑)」
田中は俺に向かって軽く笑いながら話をしてきた。
「ちげーよ。寝坊じゃねーよ。ちょっと家を出るのが遅かっただけだよ。大体、いつも俺よりも出勤が遅いお前がなんで今日は早いんだよ?」
田中は新入社員だが、いつも遅刻ギリギリ、またはたまに遅刻をするいわゆる今どきのチャラ男と言われるような奴だ。
そんな奴をなぜうちの会社の人事部は採用したのか未だに理解に苦しむ…。だが、会社のおばちゃん達からは田中のキャラが意外に好評らしく愛されているらしい…。
「先輩、忘れたんですか!今日は待ちに待った ゛Sweet micoa゛ がうちに取材に来る日ですよ!」
「あぁ、完全に忘れてた…」
゛Sweet micoa゛とは俺が住んでいるこの町から生まれた、いわゆるローカルアイドルだ。町を盛り上げるため2年前から地元の特産品や名所を紹介するために活動を開始して、シングルCDも三枚出している。その人気は徐々に上がっていき、今やこの町だけではなく、全国にもファンがいるほどだ。その証拠に今度は全国放送のゴールデン番組にも呼ばれたらしく、市長が嬉しそうに地元の新聞に語っていた。
市長が嬉しそうに語っている新聞を読んで、それだけ人気なことを知ったのだが…
「それにしても、先輩!゛Sweet micoa゛に興味が無さすぎでしょ!」
そう、俺はこのローカルアイドルのことを全く知らないのだ。というよりも、アイドルというもの自体に全く興味を持たないまま育って来たため、何がそんなに凄くて後輩がはしゃいでいるのかが分からない。大体、お前はチャラ男なのになぜアイドルが大好きなんだ。それもテレビによく出るメジャーアイドルではなく、地元のローカルアイドルが大好きなんて、キャラに合ってないぞとツッコミをいれたくなる。
「朝も電話したのに出なかったでしょ!せっかくいいこと教えてあげようとしたのに!」
「あぁ、あれお前だったのか(笑)。悪い悪い。それでいいことって?」
「そうですよ!先輩が課長と一緒に゛Sweet micoa゛にインタビューされることになったらしいですよ!」
「は?インタビューは課長が答えるって決まってたじゃん?なんでよ?」
「課長だけじゃなくて、若い奴もインタビューで映しておかないと、来年以降のうちの会社の新入社員が集まって来ないだろう?って社長が言ってたらしいっす。」
マジかよ…そりゃあおじさん、おばさんが映るよりも若い奴を映したほうが新入社員の集まりも変わるだろうけど、なんてったっていやだ!
なぜなら今回のインタビューは、地元の夕方のテレビ番組のワンコーナーなのだが、うちの会社のかまぼこがけっこう人気で、地元の特産品のかまぼこの中でもかなり知名度が上がってるとのことで決まったインタビューだ。だが、夕方の地元のテレビに出るということは、家族や友達に観られるということだ。あまり人前に出ることが得意ではない俺にとっては、かなり…いや、めちゃくちゃ難易度が高いことなのだ!
「お前が出ればいいじゃねーか!」
「俺だって出たかったっすよ!インタビューされたかったっすよ!でも、課長がお前はチャラすぎるから、会社の信用がなくなるって泣」
そう言いながら、凄く落ち込んでいる後輩をみて、ちょっと笑ってしまったが、これはかなりまずい状況だ!今のうちに隠れておこうかな…
「ガチャ」事務所のドアが開き、ドアの向こうからかなり急いでいる課長が出てきた。
「おおー!ここにいたか!早く玄関に来い!゛Sweet micoa゛がもう来てるぞ!」
「あ、課長…実はで…」
俺の話を全く聞かず、課長は俺の腕を引っ張りながら会社の玄関へと走り始めた。
俺はただ引っ張られるままに、会社の玄関へと無理矢理連れていかれるのだった。