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おかしな王様とアンドロイドと謎のオブジェクト

「王さま、有難う」

「おお。御前崎瑠奈。おや、形見透も。それに功永ヤナタといったか。しかも、これはまた、珍しい客人だ」

 瑠奈の声で巨大なベッドの上で寝転んでいた王さまは頭だけを起こすと、腕を枕にして横向きに三人と一つの姿を一瞥して声を上げた。ヤナタは周囲を見回す。高級そうな寝具とふかふかふわふわのベッドが中心に一つ。それから囲むように広大な空間。ヤナタたちがいる本棚に、おもちゃ棚、食器棚、靴棚、鉢棚、クローゼット、鏡棚、神棚、それから何か分からない不思議な棚が並んでいる。

「王さま、あの人のこと怒ったの」

「おお、御前崎瑠奈。どうだ。ようやくあやつのことを見つけたのかな。余は怒っている。怒っているとも。何せ、もう三百年日は姿を現しておらぬからな。あやつ」

「違う、違う」

 小さな王さまは腕枕で崩れていた体勢をそのまま崩して、ベッドの上できしむ音を立てて転がった。そのまま天井に向かって仰向けに寝転がる。視線だけを移して否定の声を上げている瑠奈からヤナタの後ろで控えるホノカに向ける。

「それより。N型アンドロイドだな。そやつ。久方振りよ。あやつ以来だ。名は」

「ホノカと名づけられました。ヤナタ。おかしなことです。ホノカ、ここでも機能不全を感じます」

 ホノカは小さな王さまに向かって返信の作業を行うと、前方のヤナタに声をかけて状況の報告を行った。王さまの視線はその様子をとらえるとどこか強烈な色を帯びてヤナタを射すくめた。

「ホノカ。この宮殿では人として振舞われよ。それが許された場所なのだから」

「どうすれば、良いでしょう」

「あやつにも同じように聞かれた。だが、お主はどうもあやつほどの変幻も思考もないようだ。逆にいいのかもしれぬ。ホノカよ。どうするかをこの宮殿では考えるのだ。それだけで構わない。ヤナタよ。お主もここでは所有を持って振舞わぬようにな」

 小さな王さまはそういうと頭を持ち上げてベッドから起き上がると手を添えて首を回してみる。退屈そうにあくびとともに大きく伸びをする。ヤナタは慌ててうなずいて、ホノカは理解するように処理時間をかけてうなずいた。

「え。あ、はい」

「ホノカ。了解しました」

 透は王さまの寝室の書庫を初めて眺めたようだった。書棚に並べられた書物を静かに手にとっては表紙から数ページを眺めてみては元の棚へと戻してみる。瑠奈はそんな透の腕をつかむと、

「駄目。ここのは私が調べているの」

 そう言って透に向かってはにかんでみせる。王さまも鷹揚にうなずくと透のことを指差しながら眉をしかめる。

「形見透よ。ここは一応、世の私室なのだ。触れるならば許可を取られよ」

「では、許可を」

「却下する」

 会話が続くうちに、なのだろう。ヤナタは手を上げると王さまに向かって問いかける。眉毛をなでて眉間のしわを摘み取るように手を動かすヤナタは目元を歪めさせると視線を歪めた。

「王さま。先ほどの会話でホノカの前に来たというあやつ、ですけど。それ、NH未認証系アンドロイドの、ハツルという名前ではありませんか」

 小さな王さまはベッドから降りたその足で飛び上がって消えると相当の距離があったクローゼットの側に現れて、頭にティアラを乗せた後、広大なマントを取り出して羽織りだす。振り向きざまにヤナタを指差しながらマントを調える。声が張り上げられる

「やはりそのようなことをたずねるのか。功永ヤナタ。我はもっと異なるものをたずねられるだろうと思っていたぞ」

「え。あの。例えば」

 ヤナタは王さまの声に負けないように声を張り上げてそうたずねる。事実、他にたずねることといったら、確かにもっと異なることだったし、そのようなことはたずねる意味がないとヤナタは思っていたのだ。王さまは靴棚から一足の輝くガラスの靴を取り抱いてみたが、首をひねって奥に戻すと、革靴を取り出して、その後スポーツシューズを取り出して履いてみる。

「例えば、水のこととかだな」

 ヤナタは蒼白になるとうつむいた。静かにその様子までも眺めずにして気づいているであろう王さまはようやく結んでいた紐を止めて靴を履き終えた。

「功永ヤナタよ。そなたの無礼はなかなかのものだ。だが、我が今述べたことについては後で分かるだろうし、お主にはだいぶ応えたようだから許しておこう。答えよう。ハツル。そうだ。確かにその名を聞いたことがある。だが、あやつのことはそれ以上言えぬ。そのことを調べているものは既に他にいるのだから」

「無礼、ですか」

「無礼だとも。王さまには王さまに対するように振舞うのだ。ここは宮殿なのだ。本当のことは言ってはいけぬところだ。傲慢なものには傲慢と言ってはならぬし、沈黙のみのわずらわしいものに対してもわずらわしいなどとは言ってはならぬのだ」

 透は首を振る。うなずいて縮こまるヤナタに対して口を開く。

「嘘よ。王さまらしいことを口にしているだけなの。気にしないで」

 瑠奈はヤナタの落ち込みように眉をひそめると、傾けた髪の毛をカッターブラウスに流れさせるままにかきむしった。ちょっと小さな王さまに鋭い目を向けて声を落とした。

「王さま、いじめるのはさ。良くなくない」

「うむ。だがな。あやつのことはあまり語ってほしくないのだ。ときが来れば自ずとすすむことだからな」

「王さま」

 ヤナタは蒼白な顔のまま小さな王さまに向かい合った。その首の上に乗っかった小さなお顔の大きな部分を占める綺麗に開いた目を見つめて続きを口にした。

「一つだけ。ハツルは幸せなのですか」

「愚問だ。幸せは常にある。しかしとらえることは容易ではない」

 小さな王さまはヤナタの問いに向かってそう答えて笑うと自身の私室を静かに眺める。やがておもちゃ棚から一つの小さな模型を取り出した。しげしげと模型を眺めると、それから、瑠奈の、透の、ヤナタの、そしてホノカの側に現れた。

「御前崎瑠奈。次のオブジェクトを貸与しよう。たまにはここの支配の元から逃れた上で、かの者が構築した通りに歩んでみると良いだろう」

「いいの。王さま」

「構わぬ」

 小さな模型だ。整然と整った街並みの模型。その模型を敷き詰められた板ごと丸めてしまう小さな王さまは、その手に残った綺麗なガラス玉のようなものを背伸びして瑠奈に向かい手渡した。

「形見透よ。お主は、どうなのか。御前崎瑠奈は目的を持っている。いずれは至るだろう。形見透。あの男は、」

「王さま、私、あなたさまのことを殺してしまいたいと考えるかも知れません」

 形見透は静かにそう言うと伸ばした腕で王さまのマントをつかんで引っ張って、引っ張ってみる。王さまのほうは電車のドアに挟まったものを抜こうとするように、自慢のマントを引っ張り返しながら言葉を返してくる。

「そうだろう。私もお主がときにそう思うだろうことは知っている。我もときにそう思うのだから」

 マントをつかむ腕を振りほどいた王さまは透としばらく睨みあった後、ホノカに向かい一考した後に優雅な目礼とともにその腕を取って歩き出す。

「みよ。形見透。これもお主のせいであろうな。私室で初対面の客人をもてなすとは、我も無粋なことをした。王たるものらしくない」

「馬鹿。王さまは馬鹿でいらっしゃる。いい。ホノカ、私と行くの」

「ね、どうしちゃったの。透」

 形見透は御前崎瑠奈の制止を振り切って王さまがエスコートするホノカの腕をつかみとった。その広大な寝室の扉に向かって歩き出す。立ち尽くすヤナタは沈黙とともにその様子を眺めていた。何かを思い出したかのように血の気を失っていたのだが、何も言わずに静かに背中を追ってゆく。

「おーい。功永ヤナタ。あんたまで元気がないぞ。透も怒っちゃったし。一体、どうしたって言うのよ」

 瑠奈は元気よくそう言うとヤナタの装われた無表情に向かってイヤーパッドを取り出して、それから思いっきりご機嫌のふわふわの笑顔を浮かべてみせる。

「どう。聞く、これ。元気出るよ」

「音楽、だね」

「ええ。私はしばらくこれ、見ているから」

 無表情を装っていたヤナタの顔が崩れ落ちた。そこには思いっきりの笑顔が残っていた。嬉しそうに笑い、イヤーパッドを乗せた瑠奈の右手をしっとりとつかむヤナタは、自身の手に乗ったものをひっくり返したりひっぱったり。瑠奈は小さな王さまから受け取ったガラス玉左手でヤナタに示して見せると眺め始め、期待に溢れるよう大きく見開いた目で何処からか入り込んでいる光の乱反射に見とれていた。

「どう使うの、これ」

「耳に当てるの。あんたの気分次第、お気にの曲が流れてくるから」

 ヤナタはイヤーパッドを耳に当てる。流れる曲。リズム。音楽。しばらくそのままに歩む。小さな王さまを先頭に私室の扉を抜けて玉座に向かう。長い距離を小さな王さまは透に連れられているホノカに合わせるようゆるやかに進む。ようやく扉の取っ手に手をかけた小さな王様は手首の回転とともにご機嫌そうに玉座に向かうと、ちょこんと腰掛けた。透は憮然としたままホノカの手を引いたし、瑠奈はガラス玉を静かに眺めていた。ヤナタは扉をくぐるとイヤーパッド外したのだがしばらくの間はひっきりなしに鼻をすすっていた。何度も空気を吸い込んでは吐き出した。ヤナタは何かをともに吸い込むようにその行為を繰り返したのだった。それからようやく視線に気づいたヤナタはイヤーパッドを手の平に乗せて差し出すと手の平の先へ向かって言葉を濁した。

「はい。えっと、ね。いろんな曲と、そして一緒に、忘れているな、って」

「そうだね」

 瑠奈はうなずいてヤナタの手の平からイヤーパッドを受け取るとそれからスカートのポケットに放り込む。

「私は、想像のままに創造するの。だから、透みたいにはいかないけど。時々、こうやって王さまから借りたオブジェクトで探検するんだ。今はたった一人の人のことを追っているの。今日見たでしょ」

「え、ああ。あの戦争の」

「昔のはね。もっと硬くて、小難しくて。私、あまり好きじゃなかったんだ。最初は、王さまがね、暇だったら探してほしい人がいるってそう口にしたの。おかしいかな、私。あの人の名前も知らないの。私が手にしていた本の送呈者だって王様は言った。あの本がたぶん最後のオブジェクトだと私は睨んでいるんだけど。それならこの人のオブジェクトには必ずIHTの表記があるからいいって。私、そう、王さまに答えたの。そうしたら王さまが、探す気があるのなら我が元にたずねくるといいって、そう言ったんだ」

 瑠奈はガラス玉を眺めながらそう言った。力のこもった声だった。長い言葉に耐えられないかのように、手を動かして、ガラス玉を人差し指で押さえると親指で弾き飛ばしてみせる。瑠奈は落下するガラス玉を空中で綺麗に掴み取って見せた。

「私、近くにいる気がしているんだ。オブジェクトの中に隠れているんじゃないような気もしているの。もしかしたら透かなって、そう思うときもあるんだ。どうせ透は答えないだろうから聞いても一緒だけど」

 瑠奈はそう言うと透の元に近づいて行ってホノカを引っ張ろうとするその腕にチョップをかましてみせる。手を振り回して怒る透はホノカを振動させながら引っ張って、揺れるホノカが目を白黒させているのもお構いなし。ヤナタは玉座の小さな王さまを見上げるとわざとらしく拝礼してみる。

「うむ。功永ヤナタ。我はお主のことを良く分かっている。ホノカを所有しようとはしないことだ。お主の創造には困難が伴うだろう。だが、天の川学園初等部創造課Z―404に、」

「王さま。やめてね。専制君主の真似なんか」

 形見透は瑠奈に追いつくとホノカの腕を離した。そして新たにつかまえた者のその額に向かって一発きついのをくらわした。座り込んで額を押さえて何かの文句を口にする瑠奈を無視した透は振り向きざまに王さまにそう口にする。

「君主であるのは辞めぬが専制は抜いても良い。では、N型アンドロイドのホノカよ。汝の先例に則って一つたずねようではないか」

 玉座の小さな王さまは引っ張られた腕の調子を確認しようと回しているホノカを見下ろして言うと、玉座の上でマントをつかみ上げて跳ねさせる。

「ホノカに何かご命令ですか」

「命令ではない。質問だ。ホノカよ。汝、人たらんと欲するか」

「ホノカはN型アンドロイド。C―404―5764―8977番。人とは区別されています」

 小さな王さまは顔をゆがめた。玉座のひじ掛けを人差し指で叩いて短い感覚で怒りを抑えるボタンを押す小さな王さまは大きくため込んでいた息を吐いた。それから透に向き直ると頭上のティアラを少しく付け直す。

「形見透よ。この者の機能はかなり劣るようだ。あやつと比べたら」

「何故、私に」

「お主のほうが功永ヤナタよりは分かっていそうだからだ」

 透はヤナタを一瞥するとホノカへと向き直ってその体の前で結ばれていた手へと触れた後、つかみ上げた手をそのままに小さな王さまに向かって言った。

「私に分かるのはホノカの機能は私たちとともにあるのには十分だということだけです」

「そうだな。形見透。その意味においてはホノカの機能が十分であろうな」

 小さな王さまは頭上のティアラを正すとうなずいた。それから拝礼のままに片足を床に接しさせてうつむく半腰のヤナタを見下ろして問いかける。

「では功永ヤナタ。ホノカを人として扱いたくはないかな」

「え。あの。どういう」

「言葉通りだとも」

「それは、その、今すぐ、ですか」

 ヤナタは話の流れに乗り遅れたかのようにそう呟くと、小さな王さまとホノカを見比べる。透に向かい視線を投げかけ、瑠奈のことまで眺めてみる。とうとう視線を置く先が無くなって不思議な輝きを放つ天井を眺めてしまう。

「功永ヤナタよ。今すぐとは。それは無理だとも。自ずと役割というものがある。あやつが了承しない限りは可能とはならないだろうな」

 瑠奈が声を上げる。

「ね、王さま。あやつって誰」

「御前崎瑠奈よ。この話は透とヤナタとホノカへのものだ。お主の問いは自ずと答えられるときが来るだろう」

 小さな王さまはそう口にすると自ら考え込む。小さな王さまはしばらく口元を閉じていたのだが、その間に瑠奈は透との秘密会談での情報交換を図り、透はどうやらその提案を考えていたようだが、やがて行われた交渉会談の決裂で瑠奈が膨れるころには王さまの閉じられていた口元も開かれる。

「ホノカよ。客人よ。つまりこの話は時期尚早のようだ。王さまとて万能ではない姿をとることもあるだろう。許せ」

 開かれた小さな王さまの口はそういった言葉を吐き出して、その頭は玉座の上で見下ろしながら下げられる。

「ホノカに謝る必要はありません。定められた反応の設定は謝罪に対して謝罪の必要を否定することを要求しているはずです」

 歪められた顔で周囲を見回した小さな王さまは透の顔の中で眼鏡に占有されている部分をはっきりととらえると、睨みつけて口を開いた。

「形見透。お主、こやつに役割を与えたな」

「王さま一体何のことをおっしゃっているのか。私には分かりかねます」

「そうか。ならば仕方あるまい。ホノカ。汝も創造をなさねばならぬ運命に囚われたのやも知れぬ。そうであるならば、我は祝福と遺憾の意をともにして汝に与えよう」

 小さな王さまはそう言って頭を下げた。それから一筋の文字を描いて見せようとした小さな王さまだったが、静かに見上げる形見透の鋭い視線と交わりあうと一考する。その行動を取りやめた小さな王さまは視線の先を漂わせたまま自らの玉座の上で一文字だけを描いてため息をついた。

「あの、王さま」

 ゆるやかな拝礼とともに声を上げたのは瑠奈だった。小さな王さまは拝礼の後には寛容であるらしい。ため息とともに現れていた憂鬱を吐き出すと破顔一笑、嬉しそうに問い返した。

「何かな。御前崎瑠奈」

「私たちそろそろ、帰ろうかと思うんだけど」

「む。まあ、それが良かろう。我にできることは今のところはないようだ。ではな。また来られよ。形見透。無茶はほどほどにな」

 瑠奈の発言に小さな王さまがそういうと玉座が遠ざかり始めた。ヤナタがそのことに気がついたときには玉座の間は既に扉と化しており、そのまま、歩み来たあのおかしな道を通り過ぎ、それから王宮の外へと放り出されたときまでの時間はといえば瞬き一回分だった。

「王の謁に感謝されるといい。あ、瑠奈。透。お疲れ様」

「あ、お疲れね。ルル」

「お疲れ」

 踊り子スタイルの派手な服装にヤナタの目は相変わらずに泳ぐ。ルルは社交辞令を済ますとホノカのことを指差して形見透に話しかけた。

「誰、その子」

「N型アンドロイドのホノカ」

「アンドロイド。あー、あれ以来ね」

「ねー、透。あれって何」

「瑠奈は知らなくていいの」

 ルルは透の答えに笑いながら眉をひそめるという複雑な顔をしてそう言った。それからルルは透と瑠奈のやり取りを横目に沙羅紗をはためかせながらホノカに近づいた。綺麗な笑顔を見せてくれる。

「よろしく。ホノカ」

「ホノカ了解しました。お名前をよろしくお願いします」

「ルルよ。ね、透。どうかしら。この子のほうが少し弱いみたいね」

 透は瑠奈が食い下がるのを長らくはぐらかしていたのだが、ルルの問いかけに直面して口調を濁す。瑠奈の問いかけを背にしたまま振り返る透は、ルルを見て少し口ごもる。渋い押し殺したアルトで返答する。

「ルル。弱い強いは存在しない」

「そうね。でもあれと同じようなことは起こしそうも無いわ」

「それは、そう」

 うなずく透はルルに向かって頭を下げる。瑠奈の腕とホノカの腕を取って歩き出す。考え込んでいたヤナタに向かって声をかける。

「帰るわ。挨拶を」

 ヤナタは思考の波が途切れてしまうのを残念がっている様子を見せたが、直ぐに言葉が示す挨拶の対象に向かい合う。

「それじゃあ、ルルさん」

「ね、透。もー。じゃね、ルル」

「ルル。またの機会を」

「ルル。敬称を省くことお許しを。ではホノカ、失礼します」

「はーい。それでは、愛しき我が君主、小さな王さまの楽園にして煉獄への旅路から良き帰路を。ぜひ王宮への再訪を。それじゃ、天の川学園の皆さん」

 ルルは去り行く四つの背中に向かって手を振りつくすと、静かに階段中央から控えて王宮への階段側へと座り込むと瞑目した。

「今日の来訪者は、と。全部か。帰ったみたいね」

 呟いたルルは次なる客の来訪かはたまた王さまの気まぐれかを待つように沈黙とともにある静かな職務に戻ったのだった。

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