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8 鬼門

 メイが持ってきてくれたお茶を飲んだ後、書棚で当時の魔獣豚の分布図を捜す。


 「あった。」

 これが七百年前にあった魔獣繁殖期の分布図ね。

 アイ様がこちらの世界に落ちた時に持っていた色鉛筆で、魔獣の種類ごとに詳細な地図が書かれていた。


 色が濃いほど力の強い魔獣が繁殖した後になっているが、それがなぜだか魔獣豚の繁殖地域だけ特に魔力の強い魔獣が集中して生息している。


「なんだかへんね。他の地域では魔獣が重複するようなことがないのに。」


 アイ様も疑問に思っていたのか、分布図の隅に不明の文字が書き込まれていた。

 早めに理由を解明した方がよさそうね。


「お嬢様。」

 メイに声をかけられた。


 気がつくと部屋は薄暗くなりもう夕食の時間になっていたようだ。


「今行くわ。」

 私は書棚に分布図を戻し、夕食に向かう為に部屋を後にした。


 私が食事が用意されたテーブルに着くとすぐにセバスチャンがあたたかな食事を持って来てくれた。

「ありがとう。さすがメリンダね。それで村人の様子は?」

 私は食事をしながらセバスチャンに村人の様子を聞く。

 何とか野営の準備も終え、食事も十分行き渡ったようだ。


「セバスチャン、村人の方が落ち着いたら、すぐに魔獣豚の行方を調べてほしいのだけど。」

「畏まりました。そういえばお嬢様。」

 セバスチャンが食後の珈琲を入れ、メリンダ特性のデザートを切り分けながら聞いてきた。

「何かしら。」

 私はセバスチャンが切ってくれたケーキを味わいながら多分二人のことだろうなと思いながらも再度問い返した。

「あの二人、今後どのように対処されますか?」


『二人に会う事を知っていて、わざわざ聞いてくるなんていじわるよね。ホント。』


 私はもう一口メリンダ特製のデザートを食べてから二人に対してそうするかを話した。

「もう一人の人物から会いたいと言われたので夕食後に会います。でも、私も一人で対応するつもりはないので、セバスチャンとメリンダの二人にも同席してもらうつもりよ。」

 私は二人に目線で問う。


「「畏まりした。」」

 セバスチャンがホッとした表情を一瞬浮かべてから肯定の礼を返してきた。


 セバスチャン、まさか私がメイと二人だけで会うんじゃないかとか思っていないわよね。

 いくら私でもそんな非常識なことはしないわよ。

(一回目にそうしたのは彼らが暴れているよな音が聞こえてきたからだし。)


「お・・お嬢様、わたしは?」

 メイが心配そうに問いかけてきた。

「ええ、メイも同席してね。」

 メイを見ると心なしかうれしそうだ。


 そんなに好みの男に会えるのはうれしいものなのだろうか。

 親が親だったので私の恋愛感情はいまだに壊れたままなので永遠に理解はできないだろう。


 小説や舞踏会で会う人間からよく聞く好きとか愛とか言う感情が昔からわからない。


「そういえばメリンダ、二人の食事は?」


「申し訳ありません。お腹が空いたとのことでしたので、先にお運びしました。すでに済まされています。」


「そう、まだ回復途中だし食欲はある方が早く回復するでしょう。では行きましょうか。」

 私はコーヒーを飲み干すと食事の席を立った。


 セバスチャンが先導して二人が休んでいる寝室のドアを開けた。


「どうぞ、お嬢様。」

 私が部屋の中に入ると裸の男二人がベッドの上から私の方を向いた。


 なんかすごい場面だ。


 あんまり広くないベッドにいる二人の裸の男って、誰得。

 それも良く見れば二人とも外見がすこぶるいい。

 一人は赤い髪のかなりがっしりした筋骨隆々タイプで、もう一人は銀髪で絞り込んだ筋肉を持った人物だ。

 赤髪が頬に傷がある鋭い顔だが、それがかえって男の美しい造形になじんでいる。


 もう一人の我が家の鬼門男の顔は、天使も裸足で逃げだすんじゃないかというくらいの美しさだ。

 この兄に弟が似ているならば、確かに母の好みド・ストライクと言えよう。


 私は思わずセバスチャンを見た。

 そう言えばどんな理由でこの男たちを裸のままにしているのだろうか。


 整った造作の二人が裸で並んでいるとなんだかあやしい雰囲気が渦巻く。

 私は気を取り直して咳払いすると話を始めた。


「体調はどうですか?」

 とりあえず無難な話題からいこう。


 男たちを見ると私の顔を銀髪のケインがポカーンと見ている。


「すこぶる順調に回復しています。」

 ブライアンが答えながらケインの脇腹を小突く。

 ブライアンが強く小突いたおかげでケインにかかっていた毛布が腰のきわどい所まで肌蹴てしまった。


 思わず私とメイはガン見してしまう。

 ゴッホン

 セバスチャンの咳払いでハッとした所でメリンダから睨まれた。

 慌てて二人して視線を外した。


 我に返ったケインが毛布を引き上げると、メリンダから”もう大丈夫です”との一言があり、視線を戻した。


「大変失礼いたしました。俺の名はケイン・バイス・シュタット・アインハルトといいます。この別荘の傍にある砦で隊長をしています。今回は危ない所を助けていただき、

(チラッと私を見て、視線を私に合わすと)本当にありがとう。」

 花がほころぶような満面の笑みを向けられた。


 なんでかとなりでブライアンがケインの様子に眼を剥いていた。


 しかし、メイと私は二人して思わず赤面してしまう。


 なんてことだ。

 男にほとんど興味、いや、はっきり言って眼中にない私の顔を赤らめさせるなんて、侮れないやつだ。


「ところで助けてただいた上に恐縮なのですが、出来れば着れる服を貸していただければ、すぐにでも砦の方に帰りたいと思っているのですが。」

 私はケインの申し出に一瞬ぎくりとした。

 ここは早い内に現状を知る方がいいだろう。


 私は後に控えていたセバスチャンに視線を向けた。


 セバスチャンはうなづくと

「僭越ながらいくつかの約束ごとをお守りいただけましたら、服の方はすぐに手配させていただきます。」


「「約束ごと?」」


 セバスチャンは鋭い顔で二人を睨むと、

「当別荘には未婚の女性がおりますので、むやみやたらに別荘内を歩かれますことはご容赦ください。」


「「もちろん(むろん)だ。」」

「それと別荘内に滞在しているときは武器の携帯は許可できません。」


「「わかった。」」

 二人はホッとしたようだ。

 どんな無理難題を言われるか危ぶんだのだろうか。


 それにしても、裸にしていた理由が未婚のメイと私の事を考えてのことだったとは思わなかった。


 まっ裸にしていれば貴族階級の彼らのことだから、勝手に出歩くこともないだろうし、武器も隠し持つことは出来ない。

 ツバァイ家の使用人にとっては不意さえつかれなければ、いくら強い武人とは言え、遅れはとらないか。

 私が考え事をしているうちにセバスチャンが砦の状況について説明を始めた。


「それと先程行っておられました砦の方ですが、残念ながら魔獣豚の暴走した進行にあたり、現在跡形もなく・・・。私が確認できましたところ瓦礫しか残っておりません。」

 二人がごくりと唾を飲んだ。


「大変信じがたい結果と思われますので、明日にでも確認に行かれるのであれば、私がご案内いたしますがいかがしますか。」


「いや、服さえ貸してもらえば二人で向かうよ。そこまで迷惑はかけられない。」

 ケインはきっぱり言い切った。


「さようでございますか。では道も酷い状態ですので、こちらで携帯食の用意はいたしましょう。」

 セバスチャンの方から携帯食の提供なんて破格の申し出だ。

 何か思惑があるのだろうか。


「大変助かる。ぜひよろしく頼む。」

 ブライアンが嬉しそうに返答していた。 


 セバスチャンは私に視線を向けた。

「お嬢様、他に何か質問されたいことがございますでしょうか。」 

「ええ、一つだけ質問があるわ。」


「「質問ですか?」」


「ええ、あなた方が持っていた布袋について。あれはこの地方のお守りなのだけど、どこで手にいれたのかしら?」


「ああ、あれですか。」

ブライアンが話始めた。


「ちょうど森の偵察に行くときに砦の侍女をしている人に森は危ないからと、隊長と副隊長である俺の分を二つ持っていくようにと渡されたものですよ。そう言えばそちらのセバスチャンさんに聞いたんですがそのおかげで命が助かったようですから、あとでお礼を言って侍女の方に返そうかと思っていたんです。」


「そうでしたか。」

 無言の私の代わりにセバスチャンが返事をした。


「確か生き残った村人たちは全員こちらに避難してきているそうですね。あとで探して見ます。ぜひ、お礼を言わないと。」

 ブライアンは固く決心しているようだが、生き残った村人の中に砦で侍女をしているような人物は見当たらなかった。


 たぶん二人の気を引こうとしてお守りを渡して、最終的にはそれによって二人は助かり、侍女たちはお守りがなかったので助からなかった。

 

 そんなところだろう。

 なんともやりきれない感じがする。

 とは言え、人の運命なんてそんなものだ。


 私はもう聞くこともなくなったので部屋を出ようと踵を返した。 


「あの・・・。」

 扉に向かった私にケインから声がかかった。


 声もなんだか艶があってどう対処すればいいのか困る。


 ブライアンが私に声を掛けたケインをびっくりして見ている。

 

「その、ご迷惑でなければ朝食を一緒に食べたいのですがダメでしょうか。」


「はい?」

 あまりにも予想外の事を言われ、一瞬何を言われたか理解できなかった。


「朝食を一緒にですか?」

「はい、ぜひ。」

「わかりました。そうですね。こちらの別荘にはあまり使用人もいませんし、その方が合理的でしょう。」


「メリンダ。」

「はい、そのように手配させいただきます。」


 私はメリンダの肯定の返答を聞いた後、これ以上何も言われないようにすぐに部屋を出た。


 それにしてもなんで一緒に食事することを自分で了承したのだろうか。

 考えても答えは出なかった。

 とにかく疲れた。


 今日は休もう。


 セバスチャンたちにも休むように言うと私は自分の寝室に向かった。

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