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7 魔獣豚の爪あと

 昼食時、何だか外が騒がしくなっていた。


 私はメイを連れると庭に行って見た。


 庭にはセバスチャンに連れられてやってきた村人が野営の準備をするために集まっていた。

 セバスチャンが私に気づくと村人の代表を連れて歩いてきた。


「お嬢様、こちらが村人代表のハンスです。」

 かなり若い男の子がきた。

 村の代表は普通、年配の人がなるのだけど私はセバスチャンを見やる。


 セバスチャンは何も言わず首を横に振った。


『助からなかったようだ。それじゃあ今ここにいるのが生き残った村人全員。』 


「えっと、ハンスと言います。お嬢様。」

所々敗れた上着を着こんだ青年が疲れた様子で挨拶をしてきた。

「何か足りないものはないかしら?」


「いえ、今のところは大丈夫です。それどころか食料まで分けていただけるなんて、本当に、本当にありがとうございます。」

ハンスは帽子と手元に下げている布製の袋を握りしめて頭を下げた。


「ハンス、その首に下がっている布は?」

「はい、これは村で狩猟に出る時に必ず身に着けるお守りです。」


「他の村人も持っているの?」


「はい、先祖代々から村に住んでいるものは全員持っています。今回助かった村人はもちろん全員です。俺、死んじまったじいさんによく言われてたんです。狩猟に出る時はあぶないから持って行けって。うるせいなっていつも思っていたんですが、いざ助かって見るとやっぱり爺さんが正しかったんだってわかりました。もう今更何を言っても遅いんですけど・・・。」

ハンスは鼻をぐじって鳴らすと俯いてしまった。


「そう。」

私は何も言えず黙っているとハンスはお辞儀をすると、野営の準備をしている村人の所に戻っていった。

 セバスチャンも暗くなる前に彼らの準備を手伝うために、一礼するとすぐに村人の元に向かった。

 私は村人をもう一度見た。

 老人は一人もおらず子供もゼロだ。


 残っているのは運よくご先祖様の肖像画を持って狩猟に出ていた若い狩人たちと数名の女性。


『あまり考えたくはないが老人は体力の関係で逃げ遅れ、子供は魔獣豚に食・・・。 』


「お嬢様、おじょうさま!!どうしました。」

 メイが心配して声をかけてくれた。


 私は暗い記憶を振り払うと屋敷に戻ることにした。

「戻りましょう、メイ。」


「はい、お嬢様。」


 屋敷に入るとメリンダが待っていた。

 もう一人の男が目覚めて私に会いたいと言っているそうだ。

 思わず特大の溜息が漏れる。

 何だか今は非常にその件は関わりたくない。

 だが行かないわけにもいかない・・・か。


 私はメリンダに夕食後に会うと言う伝言を残し、調べ物をするためにご先祖様が残してくれた書斎に向かった。


 正面玄関にある肖像画の真下のドアを開けて中に入る。

 メイは清掃道具を片付けましょうかと言ってくれたが、逆にこの部屋の存在を知らない人には、一見ただの清掃道具入れとしか見えず、何だか都合がよさそうだ。

私はメイにそのままにしておくように言った。

 すぐに引き戸を開けて中に入ると真っ直ぐ書棚に向かった。


 アイ様から引き継いだ記憶によると確かこの辺りに”魔獣豚”に関する資料があったはずだ。


 「あった。」

 えっと、なになに。


『特徴:家畜の豚が魔物に襲われ、生まれたのが魔獣豚である。数百年単位で多量に発生する、ただし、原因は不明。』


 えっ、魔獣豚って魔獣と豚の混血児なの!

 

『食べ物:雑食であるが、特に人間の子供は大好物である。』


 やっぱり。 


『習性:昼間食べ物を探し、夜はあまり移動しない。動くものがあれば追いかけて食べる。』


 なるほど。


『弱点:仲間意識が希薄なため食料が少ないと共食いを始める。寒さに弱い。』


 最後に挿絵があった。


 私たちが襲われた魔獣豚と同じだった。


 トントン


「お嬢様、お茶をお持ちしました。」

 引き戸の外から声がかかった。


「ありがとう、入ってきてちょうだい。」

 私の”入って”の言葉に反応して、引き戸が横にスライドされる。


 さすがアイ様、なんとも憎い演出だ。

 どうやら異世界にあった、”自動ドア”とやらの魔術版だそうだ。


 メイは湯気が立っているコーヒーをクッキーと一緒に持ってきてくれた。


「調べ物は進みましたか、お嬢様。」

「ええ、一応はね。そういえばメリンダから二人について何か聞いている?」


「えっ、はい。」

 何だかメイの顔が赤い。

「申し訳ありません。お嬢様、その、ちょっと・・いえ何でもありません。」

 メイの態度がおかしい。


「えっ、もしかして、あの二人のうちのどちらかが好きなの。なーんてね。」

「なんでわかったんですか?」

 私は椅子から、ずり落ちそうになった。

「メッ、メイの好みって、・・・いったいどっちなの?」

 あまりのことに声がどもってしまう。


「そんなお嬢様、大きな声で。もちろんブライアン様です。」

 メイはさりげなく宣言した。

 とりあえず我が家の鬼門ではないことがわかりホッとする。

 私はメイが持ってきてくれた熱いお茶とクッキーを食べて一息入れた。


「それで、メイ。二人のことをメリンダはどう言っていたの?」

「はい、ブライアン様が目が覚めた時にお嬢様のことを説明していたようですが、とりたてて声を荒げて怒っている様子は見られなかったとのことです。」

「そう、では夕食後に会っても修羅場ってことはないわよね。」


 ああ、でも何だかいやーな予感しかしないのはなぜなの?


 私は溜息をついてコーヒーを飲み干した。 

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