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27 終わりよければ、全てよし

 私の結婚式で、メイに理不尽きわまりないことをした貴族令嬢がいたことを、式が終わってから聞いた。


『ゆるせない。』


 誰がって、まずは自分だ。

 ケインの屋敷のメイドさん達に聞くまで、私はメイの主人であるはずなのにそのことについてまったく気が付かなかった。

 私はいつもメイが傍にいたのにそんなことになっていたなんて考えすらしなかったのだ。

 なので、私は大好きな甘味を願懸けも兼ねて、メイが幸せになるまで封印することにした。

 そして、すぐにメイを貶めた貴族令嬢の個人情報の収集を始めた。


”敵を知ることから、まず始めるべし。”元宰相の父が良く言っていた言葉だ。


 そうそう、なぜ父が元なのかというと、私が結婚したと同時に、父はケインに宰相の座を譲って、田舎の領地に戻ることにしたからだ。

 今は、元とはいえ膨大な量の引継ぎに、二人で王宮に籠っている。


 そんな事情もあり、私はケインとついでに父にもお弁当を作って王宮を訪れ、その帰りにまわりで囁かれている噂話も集めた。

 関係している三人の令嬢のうち、二人の詳細はすぐにわかった。

 なんと王女様のお茶会であったポメラ伯爵令嬢とニアン伯爵令嬢だったからだ。

 ある程度は、メイが王女様のお茶会用に調べてくれたのでわかっている。

 とはいえ、今はあの二人は反体制派粛清のあおりを受け、大手を振って宮殿に行くことも出来ないはずなのに、なぜあの場にいたのだろうか?

 どうやら、それを可能にしたのは、その最後の令嬢の力だったようだ。


 令嬢の名は、セントハウンド子爵令嬢という。

 そして、ハウンド家は王都でも有名な豪商の一族でもある。

 爵位は低いが、その財力は王都でも一二を争うほどだ。

 だが、なんでその子爵令嬢が二人の伯爵令嬢と関係があるのかが、わからなかった。

 どこで、この三人が繋がってくるのか。


 ゆきずまって、この際恥を忍んでミランダに相談しようかと思っていた時、ひょんなことからこの問題は解決した。


 なんとも世の中は、不思議な縁に満ちている。

 私が今手がけているレイチェルブランドのデザイン画を受け取りに来た仕立屋の使用人が、ハウンド財閥で働いたことがあるという。

 彼女の話によると、セントハウンド子爵令嬢の父親が二アン伯爵の異母弟で、母親がポメラ伯爵の奥方の異母姉だそうだ。

 そして、どちらも今回の反体制派の粛清騒ぎで金に困り果て、王都で、一二を争う、自分の異母弟や異母姉に頼った結果のようだ。


「でも彼女の父親は、王都で一二を争う財閥の経営者なのでしょう。

 なら、おおっぴらに反体制派と関係がある人間の味方をすれば、幾ら大財閥とはいえ、自分の足元を救われかねないとは考えないの?」

 私は、思わずお茶を飲みながら呟いていた。

 

 私のデザイン画を受け取りに来ていた使用人は、これに笑って答えてくれた。

「おじょ、いえ奥様。

 普通の貴族令嬢というものは、そんな商売のことは教わりませんわ。

 まして、彼女の家は王都で一二を争うほどの力を持っているんです。

 そんなことで、家がどうにかなるとは露ほども思っていませんし、今回のことでも、伯爵が子爵家に頭を下げて、お金を貰っているわけですから、下手をすると爵位も関係ないと思っているのではないでしょうかね。」


「えっ、そうなの。」

 私は一瞬、信じられないような話に首を傾げた。

『いくらなんでも、そこまで馬鹿な貴族令嬢が存在するとは思えない。』

 私の信じられないという顔に、彼女はおいしいお菓子のお礼だと言って、もう一つ面白い話を教えてくれた。

「そう言えば、最初奥様は、セントハウンド子爵令嬢に恨まれる記憶はないと、おっしゃっていませんでしたか。」

「ええ、そうよ。ハッキリ言って、ポメラ伯爵令嬢とニアン伯爵令嬢になら恨まれるのもわかるのだけど、セントハウンド子爵令嬢のことは、今回の件があるまで全く知らなかったのよ。」

「奥様が原因ではなく、原因はツバァイ公爵様のほうです。」

 彼女はきっぱり言いきった。

「はぁ、ケイン様のせい?それはどういう?」

 ますます私は首を傾げた。

「奥様、昔、ツバァイ公爵様が王都守備隊にいたことはご存知ですか?」


「ええ、一応聞いているわ。それが今回の件にどう関係するのかしら?」


「公爵様が王都守備隊で隊長をしていた頃、ハウンド財閥の馬車が賊に襲われたことがありました。

 その時、公爵様が賊に襲われている馬車を救ってくれたのです。

 お蔭で馬車の御者も中に乗っていた使用人、メイド、令嬢も命拾いしました。」


「それはよかったわ。」

 たぶんその助けた令嬢がセントハウンド子爵令嬢なんだろうと思うが、その話の流れで、どうして私が関わってくるのかがわからなかった。

 私はとにかく彼女に話の先を促した。


「奥様がお察しの通り、助けられた令嬢がセントハウンド子爵令嬢です。普通ならこれで終わりなんですが、セントハウンド子爵令嬢はかなりの”夢見る乙女”なんです。」


「夢見る乙女?」


「はい。セントハウンド子爵令嬢は、公爵様に恋をしてしまいました。そして、そのすぐ後でしょうか。

 公爵様は王都守備隊から辺境の守備隊長になられて、しばらく首都を離れていますよね。」


「ええ、確かにそうね。それがなにか?」

 私の頭の中は、ますます疑問符でいっぱいになった。

「セントハウンド子爵令嬢は、自分の為に公爵様は、王都を離れたと思っているんです。

 そして、自分の為に強力な魔獣を倒して英雄になり、本当なら自分に結婚を申し込んでくれたはずだ、と考えているんですよ。」

 私は脈絡のない彼女の説明に面喰った。

「一体全体、どうすると今の流れでそう言う話になるのかしら。」

 なんだか、話の内容に全くついていけない。


「よく童話で王女様を救った騎士が身分差で結婚出来なくて、一時王女の傍を離れ、英雄になって帰って来る。

 そして、最後は、悪い魔女に邪魔されながらも王女様とハッピーエンドになる話は、ご存知ですか?」


「ええ、もちろん知っているわ。子供用の物語の王道よね。

 でも、先程の話との共通点なら子爵令嬢を救った騎士の部分だけで、身分もケイン様の方が上だし、結婚するなら何もわざわざ王都を離れなくても、彼が望めばすぐに叶ったはずよ。」

「普通ならそう考えますが、セントハウンド子爵令嬢は、”夢見る乙女”なんです。」


「まさか、その話を信じているとか、言わないわよね。」

 私はあまりにも馬鹿げた話に、もう一度、問い直していた。


「奥様が信じられないのも無理ありませんが、セントハウンド子爵令嬢は、本当にそう信じているんです。」

「じゃ、私が魔法を使えるからケイン様を魔法で惑わして、セントハウンド子爵令嬢に申し込むはずだった結婚の申し込みを邪魔したんだと、信じているとか言いたいのかしら?」

 私は自分で言いながらあまりにもバカげた信じられない展開を話した。


「さすが奥様。正解です。」

「はっ、まさか、そんな貴族令嬢は存在しないわ。」

 私はきっぱり宣言した。

「奥様、私はセントハウンド子爵令嬢が襲われた馬車の中にいたメイドの一人ですし、彼女の元専属メイドでしたので間違いありません。」

 彼女はきっぱり言いきった。

 私は彼女がうそを言っているわけはないと思いつつも、再度、念押しで聞いてしまった。

「間違いないの?」

「はい、間違いございません。」

 私はあまりの話に紅茶を持ったまま、しばらく固まった。


 ようやく復活したあと、私は彼女にもう一品、今年の秋ように新作したケーキを出して労った後、彼女に当初の目的通りのデザイン画を渡して、別れた。

 その後、すぐにケインの屋敷のメイドさん達にお茶を片付けてもらうと、しばし思考に耽った。

 こんな、”夢見る乙女”とどうやって戦ったら、いいんだろうか?

 だいぶ考えてから出した結論は、こんな夢見る乙女の思考を理解するのは、自分には無理だと結論を出した。

 そして、結局、父親の財閥関係の仕事を地道に切り崩していく方向で、作戦を考えることにした。

 まだこっちの方が作戦を考えつくことが出来る。

 

 まずは、ポメラ伯爵の領地で採れる”豊満かぼちゃ”に対抗するために、北部領の名産品である”芳醇かぼちゃ”で作ったかぼちゃパイに、かぼちゃのクッキー、それに”芳醇かぼちゃ”の皮が固いのを利用したアイ様の異世界で流行っていたかぼちゃで作ったランプも用意し、王都でこの間オープンした北部領での名産品を直接扱う直営店で展開させる。

 なんで直営店展開にするのかというと、人間”ここにしか売っていないというと買いたくなる”という、異世界でいう、”お客様心理”を取り入れて販売するためだ。


 次に、強力な魔獣によって壊され、店じまいせざるを得なかった建物を買い取って、そこで異世界の喫茶店を模写したものをオープンさせた。

 顧客対象は、王都に住んでいるちょっと小金持ちの中流階級のお嬢様方をメインターゲットにしている。

 このために軽食とケーキ類は、メリンダに毎回メニューを考えてもらい、それを雇ったコックに作ってもらった。

 実は、ここに至るまでにはひと悶着があった。

 メリンダが女性だった為、彼女のメニューを作るのを雇ったコック側が嫌がったのだ。

 おかげでオープン前に、メリンダVS雇ったコックたちによるバトルを小金持ちの中流階級のお嬢様を審判にして、大々的な試食会という形で開催するはめになった。


 結果はメリンダの圧勝となり、この時に行った試食会が宣伝となり、オープン後、すぐに大行列となった。

 ちなみにセバスチャンは知らないが、この圧勝により、メリンダは今や雇われコックたちに、”女神”と呼ばれ、崇められている。

 今ではメリンダが一言いえば、どんな難解なメニューでも、必死になって完成させようと意気込むスペシャル雇われコックチームが出来あがっていた。

 なので、今回の主力商品を北部領で採れた紅茶を中心にした紅茶ケーキに変え、もちろん店でもその場での軽食用と贈物を扱う。

 これらの展開する品は、ハウンド財閥が経営している店の商品とだいぶ被っている。

 いうなれば、こちらの商品が売れれば売れるほど、向こうの商品が売れなくなるはずなのだ。

 売れなければ利益の確保が難しくなり、直ぐには無理でも、ちょっとずつじわじわと、ハウンド財閥の力を削ぐことが出来るだろう。

 それに伴い、我がツバァイ家と北部領が潤うという一石二鳥を狙った作戦だ。

 難点は効果がすぐに出るわけがなく、じわじわとゆっくりとしか効かないという点だ。


『まっ、焦ってもいいことはないか。』

 私がここまで考えた時、外から扉を叩く音がした。


「奥様、リンです。」

「入っていいわよ。」

「失礼します。馬車の準備が整いました、奥様。」

 メイの代わりに来ているリンが声をかけてくれた。 

 メイには今一か月ほど、強制的に休暇をとらせている。

 最初は嫌がって反対したメイだが、私に嫌がらせの事を報告しなかった罰だと言ったら、仕方なく従った。

 私の本音は、メイが休んでいる一か月の間に、件の三人の令嬢に鉄槌を下し、もうメイに手を出させなくさせる予定だったのだが、先程のやり方では、一か月であの大財閥の力をそぐことは出来ないので、セントハウンド子爵令嬢に鉄槌を下すことも出来ない。

 といって焦って事を起こせば、逆にこちらが反撃を食らってしまう。

 仕方ない。

 そんなに短期間で成果は出せないが、その間メイを私の傍から離さなければいいのだし。


「ありがとう、リン。」

 今日はデザイン画のこともあって、ケインと父にはお弁当を届けるのではなく、一緒に王宮で午後のお茶の時間を過ごす予定にしていた。

 今から馬車で出ればちょうどよい。


 私は、セントハウンド子爵令嬢の件は忘れ、リンを伴って、王城に向かった。

 反体制派の件があるので、馬車と馬車を護衛する公爵家の私兵を連れ、王宮を目指す。

 街中も混むことなく、順調に進んだので、午後のお茶の時間少し前には王宮に着いた。


 私とリンが宰相の執務室に向かって歩いていると、前からセントハウンド子爵令嬢が取り巻きの貴族令嬢と貴族の子弟を引き連れてやってきた。

 本当だったら、爵位が下の方が先に譲るべきなのだが、セントハウンド子爵令嬢は逆にわざわざ通路いっぱいに取り巻き達を広げて、私の通行を妨害する。


 リンがあまりの非常識にビックリして、目をパチクリさせている。

 セントハウンド子爵令嬢は、それに全くお構いなく、なんと身分の低いはずの彼女から私に、声をかけてきた。

「御機嫌よう、レイチェル様。」

 それも爵位名もなく、何とも見下した呼び方でだ。


 私の傍にいたリンが逆上のあまり飛び出しそうになったので、私は思わずリンに声をかけた。

「リン。」

「奥様、ですが。」

 リンの気持ちはわかるが今はこちらから仕掛けない方がいい。

 こんな言い方をするということは、向こうは何かしら、こちらの弱みを握っているということだろう。

 でも一体、何の弱みを握られているのだろうか。

「身分を笠にきて、ケイン様を魔法で惑わせて、やりたい放題。

 でも私が来たからには、ハウンド財閥の力と私の”愛の力”で、きっとケイン様を悪い魔女から救って見せますわ。

 さあ、レイチェル様。

 借金の返済を迫られたくなくば、今すぐケイン様から手を引きなさい。」

 セントハウンド子爵令嬢は扇を私に向けて指すと、高らかに宣言した。


「「しゃっきん?」」

 私とリンは二人でハモってしまった。

 そして、二人して顔を見合わせる。


 我が公爵家に借金なんかあっただろうか?


 それもハウンド財閥からの借金なんか、まったく記憶にない。

 私とリンが疑問符いっぱいになっているのに気を良くしたセントハウンド子爵令嬢は、とどめとばかりに高らかに宣言した。

「あなたが素直にケイン様と別れるなら、私が父に言って、ツバァイ家の借金を肩代わりしてあげるわ。」

 そう言って高らかに笑っている。


「何か勘違いをなされているわよ。セントハウンド子爵令嬢。」

 私はとにかくこの勘違い娘に説明するために、気力を振り絞って話しかけた。

「勘違いですって、私は知っているのよ、レイチェル様。

 あなたが仕立屋で働いていたり、王都にお金の為に、店を開かせたりしているのをちゃーんと調べあげたんだから。

 身分ある貴族が借金もないのに、自ら働くなんてありえないわ。」

 セントハウンド子爵令嬢は高らかに宣言した。


 まさかこの子は、私がデザイン画を描いたり、店をプロデュースしたのは、お金がなくて借金を返すために働いていると思っているの。

 そう言えば、確かに王都にいる貴族のご婦人が働いているなど聞いたことはない。

 まさか、それで勘違いしたの。

 なんて”おめでたい頭の持ち主”なのかしら。

 あっ、あの取り巻き連中もか。

 

 私とリンが唖然としていると、なかなか宰相の執務室に来ない私を心配したケインが、こちらへ向かって速足で近づいてきた。

「レイチェル、こんなところで、何をしている。」

 ケインは無表情で、通路に広がっていた貴族の子弟に無言で道を開けさせると、私の傍にきた。

 傍に来た途端に、私を腕に抱き上げて、執務室に連れて行こうとする。

 しかしこの様子を見ていながら、セントハウンド子爵令嬢はケインの前に立ち塞がった。     そればかりではなく、ケインの無言の威圧をさらっと無視すると、目をうるうるさせて宣った。「お可哀想にケイン様。

 今、私がケイン様を悪い魔女の魔法から助けて差し上げます。

 ですから、借金のことは気にせずに私の手をお取り下さい。」


「しゃっきん。」

 ケインはセントハウンド子爵令嬢の言葉に、しばし唖然とした。


 その時、廊下の端から、王女様が侍女たちを引き連れて、現れた。

「まあ、こんな所で、一体何をしているの?」

 王女はそう言って、こちらに近づいてきた。

「相変わらずアツアツね。ツバァイ公爵。」

 私を抱き上げているケインを見て、王女は笑って言った。

 私は王女の言葉で真っ赤になる。

「あら、珍しいわね。セントハウンド子爵令嬢。」

「ご無沙汰しております、王女様。」

 セントハウンド子爵令嬢は深々と王女に頭を下げた。

 王女はセントハウンド子爵令嬢をまじまじ見ると、

「あら、あなたもレイチェルブランドのドレスを着ているのね。

 まあ、だからレイチェルとこんな通路で話していたのかしら。

 でも、抜け駆けはダメよ。

 レイチェルには、まず私の結婚式のドレスをデザインして、もらうんですからね。

 わかっているわね、レイチェル。」

 王女様に急に仕事の依頼をされたが、私は素直に応じた。

 王女様の結婚式のドレスなんて、レイチェルブランドにとって願ってもいない宣伝になる。

 私が王女様と話していると、突然セントハウンド子爵令嬢が話に加わってきた。

「あの王女様。レイチェルブランドって、レイチェル様がドレスを縫っているんですよね。」


「そうなの、レイチェル?」

 王女様が私に質問してきた。


「いえ、さすがに、私にはドレスを裁縫するほどの技術はありませんので、デザイン画のみ提供しています。」


「そうよね。でもデザイン出来るなんて、素敵だわ。私もしてみたいわ。」

 王女は夢見るような目で遠くを見た。

 私は王女に合作しますかと聞いてみた。

「でしたら、王妃様の許可をいただいて、一緒にデザインするのはどうですか。」

 王女の顔が輝いた。

「それは素敵ね、さっそく聞いてみるわ。」

 王女はそう言うと、元来た通路を侍女たちを引き連れて、戻っていく。

 私は王女の出現に、セントハウンド子爵令嬢と対決する気概をくじかれ、ケインに抱かれて、執務室に連行された。

 執務室に着くと、遅かったので心配したらしいケインに、父が見ている目の前なのに膝の上に拘束され、甘いキス攻めに晒された。

 私が悪いわけじゃないのに、なんで私がこんな恥ずかしい目にあうのか。

 非常に理不尽を感じた私は、王女様の結婚式のドレスの件もあるし、レイチェルブランド専用の仕立屋に、セントハウンド子爵令嬢のドレスの注文を断るように依頼した。


 それからしばらくして、また私のデザイン画を受け取りに、この間の使用人が公爵家にやってきた。


 私が直営店の新作ケーキをこの使用人に出して味の感想を聞いていると、彼女はいきなり違う話をし始めた。

「流石、奥様ですね。あのセントハウンド子爵令嬢をやりこめるなんて。」

「一体、なんの話を指しているの?」

「まあ、とぼけないで下さい。奥様がセントハウンド子爵令嬢からのドレスの注文を断るように言った件ですよ。」

「あっ、そう言えば、そんな事をした覚えがあるわね。

だけどなんで、それがセントハウンド子爵令嬢をやり込めたことになるの?」

「それはもちろん、今の王宮で開かれる舞踏会での貴族の流行がレイチェルブランドのドレスを着ているかどうかなのですから。

 注文を断られたセントハウンド子爵令嬢は、舞踏会や王宮に行きたいのに、レイチェルブランドのドレスが手に入らなくて、地団駄を踏んでいるそうですよ。」

「えっ、でも別に仕立屋なんて、他にいくらでもあるでしょうに。」

「まあ、奥様何をいうんですか。

 レイチェルブランドは、我が仕立屋でしか扱っていないんですから、他の仕立屋では出来ませんよ。」

「そうだったわね。」


 なんだが理解出来ないが知らないうちにセントハウンド子爵令嬢を足止め出来ていたようだ。

 これでメイが私の所に戻って来ても、この間のようなことは起きないだろう。


 でも”夢見る乙女”の思考って、どうなっているの?

 永遠に私には理解出来ないわ。

 

 この事件があったのは、メイがブライアンに結婚を申し込まれる、数日前の出来事だった。

ここまでお読みくださり、ありがとうございます。

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