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24 結婚式

 夕食の時間になってやっとケインが屋敷に戻ってきた。


 だいぶ疲れていたようだが夕食はきちんと食べている。


 私はいつケインが真実を話してくれるかと彼の様子をうかがいながら、夕食を食べた。


 一応、話しやすいようにとさり気なく昨日の仕事について聞いてみるがケインからは、

「ちょっと、忙しかっただけですよ。」という言葉が返ってきただけだった。


 私に真実を話す気はまったくないようだ。


 私はそんなに弱い人間ではないのだが、ケインにそのことを納得させるのは難しそうだ。


 結局、ケインはその後も反体制派の残党狩りなどがあり、ほとんど屋敷には戻って来なかった。

 週末に私と夕食を一緒に食べるためだけに帰ってくるのがやっとのようだった。


 私はといえば今まであれほど熱烈にケインに求愛されていたのがほぼ放置状態となり、本当だったらホッとするはずが、逆にケインに会いたくて仕方がなかった。


 こうなって初めて気がついたのだが、私はとっくにケインを好きになっていたようだ。


 ということで、私はアイ様にならってお弁当を作るべく、料理長を説得して厨房を借り、料理を作らせてもらった。


 そして、それをメイに頼んで、わざわざ王宮に泊り込んでいるケインに差し入れた。


 このお弁当はご先祖のアイ様直伝の異世界料理を再現した愛妻弁当というものだ。

 重要なことは必ず、ピンクでハートマークを付けること。


『はい、私はしっかりアイ様の極意は順守しております。』


 アイ様曰く、恋人は胃袋を掴むのが一番だ!


 なので、私はアイ様の言葉に従いメイにいろいろ教えてもらいながら、異世界の料理のレシピも活用して、毎日創意工夫して作っている。


 その効果か、王宮にお弁当を届けると必ずメイがケインから手紙をもらってきてくれる。


 手紙には反体制派のことは相変わらず何も書かれていないが、

  ”愛しています、レイチェル。”

 という愛の告白と美しい花が必ず添えられてくる。


 何だか直球で、求愛されるよりも心にグッときてしまう。


 そうこうしているうちに、信じられないが自分の結婚式になっていた。


 そして今、私は朝からメイとメイドさん達総出で、ウエディングドレスを着付けられている。


 実は仮縫の時ふと思って、この世界には珍しい肩出しタイプのウエディングドレスにしてもらったのだ。


 最初は仕立屋も渋っていたのだが、私の提示した異世界のウエディングドレスを縫いあげてみると、総レース仕様の豪華なものだったのもあり、妖艶さよりもむしろ洗練された清楚な感じに仕上がった。


 喜んだ仕立屋は私にデザイン料を払うので、これを量産化したいと申込んできた。


 当たりだ。


 本当はアイ様の異世界デザインなので、私がデザインしたわけではないのだが、メガネの量産化やアイ様の異世界知識を使った、これからの新製品の商品化の数々に使えるお金はいくらでもほしい。


 だから、今後の事も考えて、デザイン料とブランド化を視野にいれた商品化ならOKすると交渉した。


 向こうは最初渋っていたが、量産化すると、単価が安くなる分、利益もあまり見込めないのが現実である。


 なら、いっそ貴族向けの高級品のみ、バカ高い値段で売って、高い利益を貰う方がお得なのだという私の案に最終的に応じてくれた。


 ちなみに利益配分は私が7で仕立屋が3となった。 


 その仕返しか、仕立屋の推したブランド名は”レイチェル”だった。


 私はこれに強硬に反対したが、今日私が第一号のウエディングドレスを着るので、人々の記憶に残りやすいという仕立屋の説得に負け、最終的にブランド名は”レイチェル”に決定した。


 そんな私が着替え終わると、メイの案内で宰相の父が部屋に入ってきた。


 反体制派の粛清で疲れているせいか、なぜか元気がない。


「お父様、どうかしましたか?」

 思わず心配そうな声で問いかけてしまった。


「いや、なんでもない。

 お前の母親も今のレイチェルの姿を見たかっただろうなと思っただけだ。」


『お父様、心配いりませんわ。セバスチャンに頼んで、結婚式の様子は記憶のクリスタルに蓄積して、後でメリンダに直接届けてもらう予定です。』

 さすがに今はそう言えず、心の中で思った。


 宰相の父は、私をもう一度まぶしそうに見ると、腕を差し出して私をエスコートする。


 私は父の腕に手を添えると、ケインが待つ王宮併設の教会に向け、通路を歩き始めた。


「レイチェル、お前は今、幸せか?」


 唐突な父の言葉に一瞬驚くが素直に答えた。

「はい、幸せです。」

 私は父を見て微笑んだ。


「そうか。」

 宰相の父はそういうと、ただ黙って歩き続けた。


 通路の最後には、扉を警護する兵士がいた。

 父は兵士に合図して、扉を開けさせた。


 一歩中に足を踏み入れると、王族とケインの両親が私を待っていた。


 ちょっと緊張する。


 そう思って通路の先を見ると、そこにはケインが見えた。

 騎士の正装に公爵家の紋章が縫い付けられたマントを羽織って、そこに立っている。

 

 ケインの姿は後ろにある教会の祭壇と重なり合って、まるで大天使降臨の絵図をみているようだ。


 私は父の腕から手を離すと差し出されたケインの手をとる。


 祭壇前では王宮の系譜図を管理する文官と教会の大魔法師が”公爵家継承届け”と”婚姻届け”を持って待っていた。


 私とケインは、それぞれにサインを済ますと、後ろで待っていた王と王妃に祝福の言葉をもらい、ケインの両親に挨拶すると通路を戻り、舞踏会会場に向う。

 

 婚姻は思った以上に呆気なく完了した。

 

 途中、ケインは急に立ち止まると上から私を見下ろす。


「ケイン様。」


「もう敬称なしで呼んでください、レイチェル。」

 そう言うと急に屈みこんで私の肩に強くキスをする。


 私は真っ赤になって立ち止まってしまった。

「なっ、なっ、なんでっ・・・・・。」

 久方ぶりのケインの求愛行為にトマトのように赤くなった。


 ケインはそんな私を嬉しそうに見つめると、

「もう時間がなかったので今回は許しますが、そんな素肌を見せるような格好は、今後一切禁止です。」


 そう言うと動けない私を抱き上げ、歩き出しながら囁いた。

「愛しています、レイチェル。」


「ケインさ・・、いえケイン。私も愛しています。」 

 私の告白を聞きながら歩くとケインは扉の前に立つ。


 扉の前にいた使用人はケインに気がついて、慌てて舞踏会会場の扉を開いた。


 ケインが一歩中に足を踏み入れると貴族たちが一斉に振り向いた。


 私は我に返って、降ろしてくれるように囁いたが、ケインには聞こえないふりで無視された。


 ケインは私を抱いたまま、肩にはついたキスマークを見せつけるように会場中を挨拶回りした。


 私はケインに断りなく、ドレスのデザインを変更することは、今後絶対しないので腕から降ろして貰うように懇願して、後半からはやっとケインの腕から今度は彼の横になれた。

 ただし腰はしっかりと抱かれたままで、歩くことと耳元で囁かれた。

 抱っこよりは改善されたはず・・・?

 でもなぜか周囲の視線は痛かった。


 余談ではあるが、結婚式後、キスマークを付けられたまま、会場中を回ったのが功を奏したのか、仕立屋と私の異世界デザインで作り出す”レイチェル”ブランドは、王都一の売上を記録し、莫大な利益を私にもたらしてくれた。


 特に”レイチェル”ブランドのウエディングドレスは、政略結婚でも相手に溺愛されると、仕立てが間に合わないほど引っ張りだことなった。

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