表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/31

23 真実

 私たちは王女様と婚約者のサス殿下との会話を終え、舞踏会会場を挨拶回りする。


 隣にケインがいたせいか何ごともなく、時間だけはだいぶかかったが、挨拶を終えることが出来た。


 夜遅くまで緊急時の為に別室で控えていたメイとメイド長、執事長の三人に合流し、私たちは馬車で帰路についた。


 行きは化粧が崩れるとケインの求愛行為から庇ってくれていたメイとメイド長も、帰りの馬車ではもう帰るだけになったので見放された。


 なので、私は今、ケインの膝の上にいる。


 それも向かいに座った三人のなまーあたたかーい目に晒されながら、私はケインの腕の中にいる。


 でも、夜遅くまで頑張って動いたせいか、いつものように疲れから馬車の中で眠ってしまった。


 そのまま疲れて眠ってしまった私を、ケインは寝室まで運んでくれたようだ。

 次の日にメイに起こされ、昨日の出来事を聞かされた。

 私は慌てて、ケインにお礼を言う為に朝食の席に向かった。


 でも、いつも朝食の席にいるはずのケインは、すでに仕事で王宮に出かけた後だった。


 なんだか拍子抜けだ。


 とりあえず私は一人寂しく食事を済ますと屋敷の庭に出た。


 昨日の舞踏会会場で気になっていた宰相の父について考えようと思ったのだ。


 うーん、私は、一体、何を見落としているんだろう。

 こういう時はスタートに戻って考えるのが一番だと、昔、父に教わった。


 何だか悔しいが、宰相をやっているだけあって、こういう時の考え方では、誰よりも父が一番だった。


 では私は父のことの何に引っかかっているのだろうか?


 いや、違う。


 もっと別のことだ。


 そう、母の周りにいた別の人物。

 例えばメリンダ。

 メリンダはいわば母の親友であり、腹心だ。

 なのに、母が死んだ後の態度がおかしい。

 メリンダは、ああ見えて、かなり気性が荒い。

 母が父に殺されたとなれば、しれっとした顔で父を毒殺くらいしそうなのに、その素振りが微塵もなかった。


 それを考えればセバスチャンもだ。

 いくら父が優秀だとはいえ、執事長をしているセバスチャンを出し抜いて、母を死刑に出来るのだろうか?


 何だか嫌な感じがする。


 何かもっと別の事柄が裏で動いているような感じだ。

  

 でもそれをどうやって調べたらいいんだろうか?

 私がセバスチャンやメリンダに問いただして、果たして二人は素直に答えてくれるんだろうか?


 では、仮に他の観点から調べるとして、誰に問いただすのが正解なのか?

 あと可能性があるのは母が襲ったというケイン様の異母弟だが、私には彼に会う方法がわからない。

 それに、自分を襲った相手の娘に普通、会おうとは思わないだろう。


 とすれば、その息子を襲われたケイン様の義理の母親に会って聞くとか?

 一応、私はケイン様と結婚するんだし、繋がり的には義理の娘になる。

 そう考えれば会うのも不自然ではない?


「うーん、ケイン様の義理のお母様って、どんな人なんだろう。」


「ケイン様の義理のお母様ならとても優しい方ですよ。」

 メイがお茶とケーキを持って、私の傍に立っていた。


「えっ、なんで、メイがケイン様の義理のお母様を知っているの?」

 私はあまりにびっくりして、メイにきつく問いかけた。


「あのケイン様の義理のお母様は、父の異母妹に当たる方なんです。

 なので、過去に何回か、直接お会いしたことがあるんです。」


 どういう事だ。

 セバスチャンの異母妹の子供を母が襲った。


 いくら母でも、そんな事をするなんて考えられない。

「何か隠し事をしていない、メイ。」

 私は怖い顔でメイを睨んだ。


「あのーお嬢様。なぜ、そう思うんですか?」

 メイが恐る恐る聞いてくる。


 私は、先程、庭で考えついた事、つまり母が死んだときにセバスチャンやメリンダが何も行動しなかったことを疑問に思ったとメイに伝えた。


 メイは溜息を吐くと、

「お嬢様は反体制派についてご存知ですか?」


 突然、何の関係もなさそうなことを聞かれた。

「月並みなことなら知っているわ。

 たしか現体制の王室を倒して、違う王室の血筋のものを旗印にしようと画策している集団よね。」

 うる覚えながら答える。


「そうです。それではその血筋については、だれがその旗印に近いか、ご存知ですか?」


「いいえ、知らないわ。」


「シュバルツの名を冠するツバァイ家なんです。」

 

「なんですって。」

 私はあまりのことに叫んでいた。

 この事を聞いて、全てが繋がった。


「なっ、なら今回の母の件って、まさか。」


 メイは小さく頷いた。


『だから、父は母を修道院ではなく処刑にしたんだ。反体制派の旗印に母が利用されないために。』

 

 でも、待って。


 セバスチャンやメリンダの母が死んだときの態度はこれに矛盾している。

 なら、どう考えれば二人の態度が矛盾しないか。

 例えば、母が表向きは死んでいても、実際に死んでいなければ二人の行動に説明がつく。


 そう言えば、今回強力な魔獣調査も馬を天馬に変える魔法具がありながら、あの二人にしては調査に時間がかかり過ぎだ。


 それに、いつもなら小鳩便ではなく王都にすぐ戻って、直接私に報告する。

 でも今回はそれがなかった。 


  例えば、強力な魔獣調査のついでに、母の様子を確認に行っていた為、王都に戻る時間が遅れたと考えると納得がいく。


  それに、ケインは何日か前に、将軍が結婚に反対して騒ぎ、最終的に許可が下りた時、将軍しか許していないのに”これで私の両親からも祝福されて”って表現を使っていた。

  最初は、死んでしまったケインのお母様のことをいったのかと思ったけど、これもセバスチャンがらみで、最初からケインのお義母様は反対しないってわかっていたから、そう表現したんだとしたら。


『つまり、ケインもこの件を知っていた!!』

 

 私はここまで考えがまとまった所で、メイにもう一度聞いた。

「メイ、ケイン様は今日、王宮のどちらに向かったの?」


 メイはうれしそうに笑うと、

「結婚の準備もあり、宰相様のところに行かれています。」


「そう、わかったわ。

 後で、ケイン様が宰相様を訪問した最終結果(反体制派をどこまで処罰できたのか)を知りたいので、教えてもらえるかしら?」


「はい、分かり次第、お知らせします。」

 メイはケーキを切り分け、紅茶と一緒にテーブルにセットしてくれた。


 私がメイに事情を聞いている頃、宰相の父とケインは、王宮にいる反体制派の貴族を一気に捕縛するため、近衛騎士を指揮し、密かに捕縛の罠を張っていた。


 そして、ケインの父である将軍と副将軍、ブライアン達の王国軍は、王宮の外にある反体制派の貴族の屋敷を秘密裡に包囲し、王宮にいるケインたちの合図を待っていた。


 夕刻、王宮の反体制派の貴族捕縛と同時に、王宮の外にいる反体制派の貴族屋敷もケインたちの合図とともに、一斉に検挙された。


 一方、ケインの屋敷で待っているレイチェルには、執事長から”仕事が長引いているので、今日は一緒に夕食をとることが出来ない”と伝言が届いた。


 レイチェルは心配しながらも一人で夕食を済ますと、部屋に引き上げた。


 部屋でレイチェルの支度を手伝ってくれていたメイに私は聞いていた。

「ねえ、メイ。

 何で私に教えてくれたの。

 あのままメイが何も言わなかったら、私は今でも気がつかずに、いたかも知れないわ。」


 メイは私の髪を梳かしながら事情を説明してくれた。

「父にレイチェル様から聞かれた時には、真実を教えるように言われています。

 父曰く、エリザベス様が亡くなった後の次の後継者は、レイチェル様ですからと。」


『私はメイの言葉に仰天した。母の次の後継者が私で、今だにこの状況に気づかずにいたら、セバスチャンはどうしたのだろう。』


「ねえ、メイ。

 もし私が今だに、このことに気がつかずににいたら、どうしていたの?」


 メイは困ったような顔をして後、話し始めた。

「もしも今回の捕縛が世間一般に広まるまで気がつかないようなら、公爵家の継承は無理なのではないかと言っていました。」


 どうやら私はギリギリで、なんとかセバスチャンたちから公爵家の継承を認められたようだ。

 私はメイに髪を梳いてもらった後、ケインを心配しながら床についた。


 翌朝、私は目が覚めると同時にメイから”反体制派の貴族の捕縛は成功した”と教えてもらった。


 朝食の席にもケインは現れなかったが、執事長から”夕食までには、帰宅できる”と知らせをもらった。


 私はホッとしながら食事を済ませると、また庭に出て考えごとにふける。


 私の今までの努力は、なんだったのだろう。


 父をギャフンと言わせるどころか逆に父に守ってもらい、今はケインに守ってもらっている。


 もうすぐ大人になる年齢にありながら、今だに、こんな状況なんて。

  

 ああ、やだ。


 すっごく情けない。

 

 私が庭の机に突っ伏して落ち込んでいると、メイが傍にきた。


「お嬢様、これをどうぞ。」

 メイから小鳩便で届いた手紙を渡された。


”レイチェル、メリンダに聞いたわ。

 自力で公爵家の継承を勝ち取るなんて、さすが私の娘ね。

 結婚式には行けないけど、また会えるのを楽しみにしているわ。”


 ほんの三行ほどの短い手紙だった。


 でもその中にあった”自力で”の文字が私に力を与えてくれた。


 まだまだ未熟だけど、頑張って、これから公爵家を盛り立てていくんだ。


 私は改めて心に誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ