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其の八

車に揺られること二時間、街の外門をぬけて途中で休憩を一つ挟みたどり着いた場所は結界ロープに囲まれた古びた建物だった。

そこは結界越しでもはっきりと見えるほど『歪み』が満ちていた。


「これが本当の『歪み』……」


今回の試験で使う『歪み』はレベル5、十段階ある中でも中堅に位置する。

本来ならば一般的な法術士が六人がかりであたる規模の『歪み』だ。

試験内容はこの『歪み』の中で現れるランク3のゴースト−−『歪み』のエネルギーの集合体を複数体単独で倒し『歪み』を矯正することで、この『歪み』そのものを矯正することではない。

そうは言っても結界越しでも感じる『歪み』の圧力はこれまで感じたことがないほどの強い。

みんなか、それとも僕自身のものか唾を呑む音がした。

掌には汗が滲み、否応なしに自分が緊張していることを伝えてくる。


「さて、どんな状態だ?」

にもかかわらずヴァッシュさんは大したことでもなさそうに近づき、結界に穴をあけて中を見た。


「あー、ちと多いな」


ちょっとどころではなかった。

開いた穴から見える範囲いっぱいにモノクロのトラの姿が見えた。

あれ一体一体がランク3のゴーストだ。

それがとてもではないが数え切れないほどたくさんいる。 結界の中に入ったが最後、為すすべもなく喰い殺されることは間違いない。

この光景を前に平然としているのはヴァッシュさんとグルーグさんの二人ぐらいだ。


「少し減らすか」


そればかりかヴァッシュさんは平然と中に踏み込んだ。

そして片手に持った法力剣を無造作に横に振るった。横薙というのもはばかられるような動きであったが結果は凄まじいものだった。

あれほどいたゴーストの大半が砕け散った。


「…………」


正直に言うと何が起きたのか全くわからなかった

僕にわかったのはヴァッシュさんが法力剣を振った瞬間、光刃が消えたことと周りが光ったことだけだ。


「何が起きたの?」


僕は隣にいるリムルとセロンに尋ねた。

リムルは僕たちの中で一番知識があるし、セロンは一番目が良い。


「……振った瞬間光刃が砕けて飛び散った。そんでその欠片が当たったゴーストが消し飛んだ」


こんな小さな欠片でだぜと示してくれたサイズはそれこそ豆粒のような大きさだった。

はたしてそこまで細かい破片で倒せるのだろうか?


「たぶんだけど爆裂術式の応用で威力を上げているんだと思う。

それでもあれだけの威力を出すとなるとどれだけの精緻な術式にどれだけ多くの法力を込めているのかわからないけれどね」


私にはまず無理だというがリムルにできないなら恐らく僕たちの誰にもできない。

これが現役の法術士と半人前の差かと気落ちする僕らの前でヴァッシュさんはさらに二三度同じことをして数を減らしていく。


「自分たちと彼を比べても仕方ありませんよ」


そんな僕たちに声をかけてくれたのはグルーグさんだ。


「彼は一見頼りなさそうですがあれでもレベル8の『歪み』を一人で矯正させられるだけの実力があります」

「……マジかよ」


思わずセロンが呻くがそれも仕方がないことだ。

以前資料で読んだがレベル8となると都市の一つは軽く滅びかねない規模の『歪み』だ。

対処するとなると一個師団相当の人員が必要となる。

それを一人で片付けるのに必要な力はどれほどのものか。


「あー、騙されるなよ。いくら何でも一人でランク8なんか対処できるはずがないだろう」


一通り倒して十分なスペースを確保したヴァッシュさんが結界ロープで安全地帯を区切っている。


「そもそもここ十年ぐらい国内でランク8の『歪み』は発生していないぞ」


えっ、そうなの?

リムルを見ると当然のように肯かれた。

しかしセロンもイルゼも知らなかったようで僕と同じように驚いていた。

良かった、僕だけではなかった。 それを見てリムルが呆れていたけどそれは気にしない方向で。


「じゃあ準備も整ったから試験始めるぞ」

「ま、まだ心の準備が」

「危険だと思ったら結界の中にいろ。

制限時間は一時間、目標は一人でランク3を三体倒すこと」

「さ、三体も!?」

「そのぐらいやって見せろ。スタート!」


こうして試験は始まった。


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