其の五
基礎実技について簡単に説明するならば法術士として必要な技術のことだ。
大きく分けて3つ。
法力への転換、術の行使、『歪み』の矯正。
この三つができて初めて法術士の足り得る。
だからこの三つは一年の頃からずっとやっている。
学校の試験との違いは求められるレベルが高いことだけだ。
とは言っても僕らが通う法術士学校は国内でも有数の名門校、落第者は容赦なく留年、ひどい場合は退学もあり得る。
五年生にもなれば資格を取って在学中から働き始める人も居るぐらいだ。
四年生の段階でもかなり高い合格基準が設定されている。
だからそこまで大きな差はないはずだ。
実際、法力転換は特に問題なく終わった。他の人たちの様子と見比べてもかなり良い出来だった。
この分なら筆記の分を取り返せるかもしれない。
そう考えていたら前方の試験場で歓声があがっていた。
たしかあそこは法具の使用した術の試験場だ。
法術士は自分の力だけでも法術を使えるけれど基本的に術のサポートをする道具を使用する。それが法具だ。
その中でも広く使われているのが結界ロープ、霊符、法力剣の三つで、これが使いこなせればそれだけで大抵の『歪み』は修復できる。
当然学校でもこの三つを中心に教えている。
「なあ見たか? さっきの女の子、一本のローブで五体の目標をそれぞれ別の結界に同時に捕らえていたぞ」
「それよりあっちの子の方がすごいぞ。六枚の霊符を同時に発動させて完璧に制御していたぞ」
「それにすごい可愛かった」
「こっちも美少女だった」
うん、世の中すごい人たちがいるんだな。
僕なんか同時に張れる結界は二つまでだし、霊符だって三枚も発動させれば暴走する。
どんな人かなと思って覗いてみるとイルゼとリムルだった。
うん、実は薄々そうなんじゃないかとは思っていた。
イルゼは結界術だけなら学年でも抜きん出ているし、リムルは学年で一二を争う優秀者だ。
ついでに言うならば学年で誰が一番強いかと言う話になると真っ先にあがるのがセロンだ。
僕も普通よりは上の実力はあるつもりだが、彼らを見ているととてもではないが優秀だとは言い難い。
だから詳しくは知らないけれど陰でいろいろ言われてるのは知っている。
きっとおまけだとかミソッカスだとか言われているのだろう。
時々嫌なものを見るような目で見られていることがあるから間違いないだろう。
「試験票見せて」
「はい」
言いたいことはわかる。僕自身班の中で一人だけ浮いているとは思っている。
リムルもイルゼも綺麗だし、セロンも男女問わず人気がある。
「使う術式は自由、展開した法力剣で目標を攻撃。その際の法力値や対象への干渉力を測定する」
渡された柄だけの剣を握りしめ、使う術式を紡ぎ法力を込める。
柄から延びた刃にさらに法力をそそぎ込む。
リムルたちは人気もので僕は違う。実際イルゼの代わりに班を抜けた彼は二人の行動についていけずいなくなった。
三人とも僕のことをフォローしてくれているから今のところ何とかついていけているけれど、いつ僕も限界が来るかわからない。
それならば早めに距離をあけてしまってもいいのかもしれない。
けれどそれは嫌だった。
ならどうするか?
そんなことは決まっている。
「はっ!」
法力を込めれば込めただけ威力があがる法力剣に、限界まで法力をこめて切っ先を目標に突き刺す。
轟音が響く。高められた威力に目標が耐えられずに砕けた。
一度に法力を消耗したため足がふらつくがそれに見合うだけの結果は残せた。
これなら高得点が期待できるだろう。
「あっ?」
後ろを振り返ったら目をつり上げたリムルと目が合った。
うん、間違いなく怒っている。
リムルが前に進むと前に人が気圧されたように横に避ける。
思わずよけてしまうほどの怒りのオーラを纏ったリムルは僕の襟を両手で掴んで引き寄せた。
僕とリムルの顔がほんの数センチのところまで近づいてこんな状況にも関わらずドキッとした。
「……あんた、今使ったわね」
「……はい」
静かな声音に思わず目をそらす。
どうしよう、思っていた以上に怒っている。
「あんたね圧縮充填燃焼術式なんて技を基礎実技の試験で使うな。そもそもそんな一気に法力を消費して残りの試験はどうするの!? 仮に終わっていたとしても明日の試験に影響を残すようなまねをするな。あんた合格する気あるの!?」
「は、はい!」
もちろん僕だってこれが無茶なことだってわかっている。
けれどリムルたちといたいから、おまけではなく仲間としていたいから、そのためには多少背伸びして、無理をしなければならないから。
だから僕はがんばるんだ。