私が魔物になった理由
Side:ミハエル・ヴェラ・ボルドリーニ
目を覚ますと、そこは見たこともない様式の個室だった。
木で出来た細長い個室には窓があり、外は何も見えないがありえないスピードで動いていることが判る。
我が国で最も早く駆ける駿馬でもここまでのスピードは出せまい。
個室は、大人二人ずつが向かい合わせで腰掛けるような作りの椅子らしきものが並び、それが人一人通れるくらいの細い廊下を挟んで両側に並んでいた。
個室の前後の端には廊下に合わせた細い扉があり、覗き窓から伺えるに扉の向こうにはまた同じような個室が続いているようだ。
己のいる個室だけでも馬が引くには大きすぎるだろうに、こんな巨大なものを一体何が動かしているのか、ミハエルは首を捻るばかりだった。
ふと、目前を見れば、王である父と王妃である母――といっても私の生母は幼い頃鬼籍に入っているので目の前の女性とは血は繋がっていない――が落ち着き払った様相で寄り添っている。
横を見れば、漸く十を過ぎたばかりの異母妹が不思議そうにきょろきょろと周囲を見回していた。
どうやら彼女も見慣れぬ様相に戸惑っているらしい。
私も妹も普通に座っているのだが、腕が触れ合うほど椅子は狭い。
正面に座る父の膝も、少し動けば私の膝に届きそうな場所にあった。
不意に、幼い頃父に抱かれて遠乗りをした記憶を思い出す。
あれはまだ母が生きていた頃だったか、もうぼんやりとしか思い出せない母が、少し心配そうに馬車の窓からこちらを見ていたことを覚えている。
見上げれば、大きな父の身体と強い意思を宿した瞳。
その頃既に王子として育てられていた私は、元来の気質も相俟っていつか父のように堂々と皆を導ける人間になろうと、幼心に思った。
それは、生母である母が死ぬ間際に残した「父上様を良く倣い、支え、己を啓きなさい」という言葉で更に強固なものとなり、第一王子として父を支える傍ら可能な限りを学びながら、父王の築き上げてきたものを未来へ繋ぐことで現実の形として作り上げてきた。
我が国は代々、第一王子が王位継承権第一位の座につき、母の位は関係なく上から順に第二王子、第三王子と続く。
しかし、どういうわけか父の代にはなかなか王子が生まれず、一つ違いにあたるたった一人の兄王子も私が物心つく前に病に倒れた。
父王の実弟であるクランベルニ大公も、私が九つの頃だったか国境警備の視察の折、不幸な事故で亡くなった。
それからというもの王家には男児が生まれず、二十年もの間、父の代は王女ばかり十数名の状態が続いていた。
予てより状況を憂えていた王や重臣たちは、長女であるこの身を王子として仕立て上げていたが、やはりその憂いは的中し、私が成人を迎えると同時に王太子として立つことが決定したのだ。
王は未だ現役だったので、それも王子が生まれるまでの中継ぎの立太子なのだけれども。
しかし、折角立てた中継ぎも、国自体が滅んでしまっては意味が無い。
そう、我が国は滅んだ。
こうしてこの意味のわからない個室で目覚める寸前の記憶だ。
近年勢力を伸ばしてきた隣国に攻め落とされ、一族郎党根絶やしにされたのだ。
薄汚れた鎖に繋がれ、騎士と思しき巨体の掲げる剣ごしに見えたのは、所々から黒煙が立ち上り焼け崩れた王城で、今際の際に見る景色の何と虚しいことかと状況に似合わず笑いがこみ上げてきたのを覚えている。
私は、私たちは死んだのだ。
我らの暮らした王城と、共に戦った自軍の兵士たちの屍を前に、まるで見せしめのように高座に並べられて次々と首を刎ねられた。
今となりに座している妹も、斜め向かいに淑女然として座る王妃も。
王である父は最後に残されたのか、私が事切れる寸前まで生きていたのだが、同じように鎖に繋がれていたので同様の結末を迎えたのだろう。
それなのに、これは一体どういうことなのだろう。
ガタンゴトンとリズムよく揺れる個室に居心地の悪さを感じながら、先に目覚めていた父王に声をかけようと口を開いたところでそれは現れた。
「この度はご愁傷様でした。」
足音も無く現れたそれは、いつの間にか窓向かいの細い廊下に立っていた。
ひょろりと長い老人が、見知らぬ服を着てこちらを見下ろしている。
紺色の衣装はどこか薄汚れており、立てた襟が僅かに曲がっていた。
目深に被ったおかしな形をした帽子の所為か、目元を見ることはできない。
「私は、この第三境界鉄道の車掌を務めております、カナイと申します。」
どうぞよろしくお願いいたします。
そう言って頭を下げた老人は、ぐるりと私たちを見回し口だけでにっこりと笑ってみせた。
「皆様、おそらく状況がいまいち解っておられないとは思いますので、これから少々ご説明させていただきますね。」
どうやらこの老人は私たちの置かれた状況を知っているようだ。
目の前に視線を向ければ、父もこちらを見ていたようで、小さく頷くのが見えた。
老人の言葉を鵜呑みにする気は無いが、どんなものでも情報は集めたい。
「結論から言いますと、あなた方はつい今しがたお亡くなりになりました。」
その言葉に顔色を変えたのは王妃と妹だ。
それぞれが顔を青くし、悲痛な色を浮かべている。
しかし、私としてはあれだけ死の記憶がはっきりとあるだけに、妙に納得してしまったというのが本音だ。
カナイとやらの話はなおも続く。
「この第三境界鉄道は、そちらの暦で言いますと10月3日に亡くなられた死者の魂を、輪廻の輪を辿りながらそれぞれの人生に合わせた冥府に運ぶ役割を担っております。」
怪訝な表情を読み取られたのだろう、カナイがひょいと眉を上げる。
「あぁ、こちらのお客様は文明レベルが5段階のお客様でしたね。」
これは失礼しました、とカナイは軽く頭を下げた。
「第三境界鉄道とは、皆様のいらっしゃるこの乗り物を指し、これらは輪廻の輪と呼ばれる道を辿りながら自動で動いております。」
冥府の世はお解かりですか?と尋ねられ、父がゆっくりと頷いた。
「まぁ、この鉄道の何たるかを理解せずとも何不自由はございませんので、話をさせていただく上での言葉の意味だけご理解ください。」
とはいうものの、これだけ大きなものが人の手無しで動いているとは、驚きである。
「当鉄道は、この先しばらくの時間を置きまして、各駅に停車いたします。」
駅という言葉の説明を軽く入れたカナイが説明を続ける。
「皆様お一人ずつ停車駅は違いますが、どこかしら必ずお降りになる駅がございます。そこが皆様の冥府であり、次の人生への新たな扉となります。」
「どこで降りろというの?」
狼狽した王妃が、震える声で尋ねる。
「それは私には判りませんが、これまで乗車された皆様は自ずと悟られ降車されます。」
「そんな…。」
王妃が狼狽えるのも仕方ないだろう。
それでは何をどうしたら良いのやら全く解らない。
「みんなバラバラになるの?」
今度は妹が弱弱しく声を上げた。
「そうですね。今まで同時に降車された方は存じ上げませんので、それは確かでしょう。」
「嫌よ!私、お兄様と離れたくないわ!」
「クリス…。」
一回り下の妹であるクリスティアーナは、どういうわけか実母である王妃よりも私に懐いていた。
損得無しに清らな心で我が身を慕ってくれる義母妹に、私は何度も癒され救われてきたし、本当に感謝している。
今回、この小さな妹が醜い戦の犠牲となったことが最も残念でならない。
縋りつくように私の腕に手を回した妹を、しっかりと抱き返した。
その様子を見ていた王妃の目が一瞬剣呑な光を宿す。
すぐに消えたその光は、私以外に気付く者はいなかった。
「各々未練は多々あると思います。ですので、皆様の駅に着くまでのお時間、悔いの無いようゆっくりと話されませ。ここは既に現世の柵から解かれた場。何を気遣うこともないでしょう。」
ゆっくりと順番に私たちの視線を捉えたカナイの眼と私のそれがぶつかる。
視線といっても、カナイの眼は殆ど帽子に隠れているので見えはしないのだが、この老人の視線には何か無視できないような、引き込まれるような力を感じた。
ゆっくりとお辞儀をしたカナイが足音を立てずに去っていく。
呼び止める者は誰もいなかった。
「お兄様。」
カナイが去ってどれほどの時間が経ったのだろう。
不意に声をかけたのは妹だった。
「何だ、クリス。」
「私たちは、…その…死んだのでしょうか?」
きゅ、と寄った眉が痛々しい。
その事実を言うには辛すぎる年齢だと解っているものの、この賢い妹には誤魔化しがきかないことを、これまで共に過ごしてきた中で理解していた。
「…そうだな。私の記憶が正しければ、そうなのだろう。」
私が死んだ時点で生きていたのは、父王だけだった。
なので、妹や王妃が事切れる瞬間を、残念ながら私ははっきりと見ている。
私の言葉を受け小さく震えた妹を、守れなかった無念と不甲斐ない自分への怒りを押し殺して抱きしめた。
「クリスティアーナ、すまない。」
私の言葉に、妹がはじかれたように顔を上げる。
「何故お兄様が謝るのです!…悪いのはっ…あの国ですっ!!」
ぎゅう、とクリスティアーナが私にしがみつく腕に力をこめた。
「自分の土地で満足していればいいものを、欲を出して我が国にまで手を出すなんて…あんな戦、何の意味があったのです!?」
とうとう、大きな瞳からぼろぼろと涙が零れ落ちた。
たまらず小さな頭ごと抱え込むように抱きなおすと、クリスティアーナは生前聞いたこともないような子供じみた声を上げてわんわんと泣き始めた。
彼女を抱え込んだ胸元がじんわりと熱く湿る。
クリスティアーナはひっくひっくとしゃくりあげ、悔しさを詰りの言葉に乗せて泣き続けた。
私は彼女が落ち着くまで、抱きしめることしかできなかった。
「お見苦しいところをお見せしました。」
私の腕の中で無言のまま縋りついていた妹が、身動ぎして小さく言った。
わんわんと泣き続け、少し掠れたその声は、どこかばつが悪そうに私の耳に届く。
泣きっ面を見られるのが恥ずかしいのか、言葉とは裏腹に顔を上げる気は無いようだ。
もとより離す気も無かったので彼女の好きにさせていたのだが、不意に小さくお兄様と呼ばれて目線を下げた。
見れば僅かに妹が顔を上げている。
私の胸と腕の隙間から見える彼女の眼は、涙で潤み真っ赤に染まっていた。
その様子に小さく笑みを浮かべて、言葉の先を促すように片手で髪を梳けば、戸惑いながらも妹が口を開く。
「私、ずっとお兄様にお願いしたいことがあったの。」
「何だ?今の私にできることなら何でも叶えよう。」
それこそ、最期の願いだ、聞かずにはおれまい。
もう既に、私の中にはカナイの言葉を疑う余地はなく、私たちが死者であることは明白だった。
「私、私ね…。」
「うん?」
どこか期待をこめた視線がひたとこちらを見上げる。
「私、お兄様のこと…お姉様ってお呼びしたい。私の一番好きな姉上様ですもの、いつかきちんとお呼びしたかったの!」
思わぬ願いに、一瞬思考が止まる。
妹には、秘密にしていたことだ。
一体どういう経緯でそれを知ったのか、もしくは、誰かの入れ知恵か。
はまりかけた為政者としての思念を、小さく息を吐くことで切り捨てる。
そんなこと、今更考えたところでそれこそ後の祭りだ。
不安げな瞳で私を見上げる妹に、にっこりと微笑みかけた私は、それまできっちりと束ねていた髪に片手を伸ばし、縛り付けていた髪紐を解いた。
不思議なことに、死ぬ間際ぼろぼろだった甲冑は、常日頃着ることの多かった王族男児の正装へと変わっていた。
勿論、どこも破れておらず、小奇麗に整えられている。
いつも使っていた髪紐を解けば、編むのに苦労すると侍女が嘆いていた真っ直ぐな黒髪が肩を撫でた。
軽く首をふるって髪を慣らす。
その様子をじっと見守っていた妹の頬を両手でふんわりと包んだ。
「クリスティアーナ、今まで黙っていてごめんね。」
かけた声は幾分高い。
いつも意識して低くしていた声を、いつ以来だろう、久しぶりに元来のものに戻した。
私の手に包まれた妹の顔に、興奮からか朱がさし、くしゃりと泣き笑いのような表情が浮かぶ。
「…っ…ぇさまっ…」
「あぁ。」
「おね…おねぇさまっ…お姉さまぁ!!」
再びぼろぼろと涙を零し始めた妹は、私の手を逃れてそのまま腕の中に逆戻りした。
「お姉さま!!ずっと、ずっとお慕いしておりました!皆が私から離れる中、お姉さまだけが私の傍らで微笑んでいてくれた!上手く話せず、友もいない私に…いつもいろんなお話をしてくれたお姉さまが、私の心の拠り所でした!!」
賢いとはいえまだ幼い妹が、大人の醜い権力争いに心を痛めていたことを知っている。
この優しい妹は、私を唯一の味方と思っていてくれているが、もっと私に力があればそれらは無用の負担だったのだ。
私が妹に向ける愛には、いつも少しの罪悪感が含まれていた。
「私の大事なクリスティアーナ。お前のおかげで、私は王子として頑張れた。私が何度クリスの笑顔に救われたことか…ありがとう。」
思いをこめてきつく抱きしめれば、クリスティアーナも渾身の力をこめてしがみつく。
王女としての振る舞いも、周囲への体面も、全てを忘れて思いのたけをぶつけ合った。
損得勘定ばかりの大人たちに囲まれて、それでも自分を無償で愛してくれる人がいるというのは本当にありがたいことだ。
私は大事な妹に、全ての思いを伝えるため、伏せていたその顔にそっと両手を当てて彼女の顔を持ち上げ、きらきらと涙で煌く瞳を見据えて口を開いた。
「愛しているよ、クリスティアーナ。これまでも、これからも。」
「愛しています、私の大好きなミハエル…いえ、ヴェラお姉様。」
ふんわりと花が綻ぶように妹が笑みを浮かべた瞬間、ポンポロロロンと不思議な音が流れた。
――間もなく停車いたします。少々揺れますので、完全に停車するまで座席に座ってお待ちください。
その後響いたのは、どこか篭ったカナイの声だ。
「あぁ…きっと、私の駅だわ。」
そう呟いたのは、腕の中の妹だった。
「…あれはあのような顔で笑う娘だったのか。」
少しの苦味を含んだ声が、感慨深げに呟いた。
背筋を真っ直ぐに伸ばして堂々と降りた妹を見ていた私は、ぽつりと届いた父王の言葉に引き寄せられるように視線を向けた。
窓から見える妹の姿をじっと見つめる父は、彼こそ生前見せることの無かったような穏やかな顔で目を細めている。
私はそれに何を言うこともなくしばらく無言で眺めていたが、個室が動き始めたのだろう、大きな揺れを境に窓の外に見えていた妹の姿が遠ざかり始めた。
彼女はこちらをしっかりと見つめたまま、ゆったりと手を振り満足げに微笑んでいる。
彼女が降車する折、静かに立ち上がり残した言葉を思い出した。
――お父様、お母様、お姉様。クリスティアーナは幸せでした。
良き旅路を。
そういって静かにお辞儀した妹は、まるで光の化身そのもののように温かな雰囲気を醸し出していた。
おそらく父も、私と同じような気持ちなのだろう。
十、といえばまだまだ子供。
妹の生は、たったの十年で終わりを告げた。
私たちが愛する妹のために祈ることは唯一つ。
「…来世では、どうか幸せに、“大人”になれるよう。」
重く呟く父の声に、私も静かに目を閉じた。
「父上、上の妹たちはどうなったのでしょう?」
思えば、一族郎党捕らえられたはずである。
私の妹はクリスティアーナだけではない。
クリスは王家の末姫だが、私と彼女の間には三人の姉妹がいた。
それぞれ母親が違い、また本人たちも王太子の宮に近づこうとしなかったため、クリスティアーナほど親しくは無いのだけれど。
「他の者は…シャリエ伯爵が手配してくれた。」
「シャリエ伯爵…というと、南の?」
王がゆっくりと頷く。
シャリエ伯爵とは、母国を滅ぼした帝国の南側に位置する辺境の国の一貴族である。
「敵国の伯爵が何故…。」
「今だからこそ言えるが、シャリエ伯爵とは旧知の仲でな。元々はデュリオの遊学先の知己なのだよ。」
ふう、と何かを思い出すように大きく息を吐いた父が何の風景も写さない窓に目を向ける。
「寡黙だが、とても慈悲深い男で、此度の戦のことも心を痛めていたらしい。三人とも名を捨て血を忘れることを条件に、安全な場所へ手引きしてくれた。」
クリスティアーナだけは無理だったが。
そう残念そうに呟いた父が、痛みを湛えた瞳をひたと私に向ける。
「…お前もだ、ミハエル。」
「……。」
「王女のままであれば、こんな死に方をせずとも済んだであろうに。クリスティアーナは正妃の子ゆえ道連れになってしまったが、お前の母は…。」
「お止め下さい、父上。私は己の生き方に悔いなどございません。」
「しかし。」
「たとえ王女として生きていようと、私は自ら剣を取ったでしょう。元々そういう性格なのです。」
確かに、この地位も環境も、物心つく頃より周りに与えられたものだったが、それでなくとも自分の性格は解っている。
ドレスを纏い、口を噤んで、茶を楽しみながら花を愛でるような生活など、耐え切れるものではなかっただろう。
それを考えれば、初めから剣を授けられたことは、私にとってむしろ幸運なことだと思えた。
何の偽りもなくありのままを告げれば、王は表情を変えぬまま、それでも僅かに目を赤くし、固く閉じた。
「すまない。」
謝る必要は無いと言っているのに、それでも謝罪の言葉を告げる父に、私は苦笑を浮かべるしかない。
「すまない、ミハエル。」
「父上、どうかお顔をお上げください。」
頭まで下げ始めた父に慌てて声をかけるが、父は一向に顔を伏せたままだった。
膝の上で握り締められている大きな拳がぶるぶると震えている。
父は、賢王である。
後の世に語り継がれる功績も、末代まで畏怖される戦果も残さなかった王ではあるが、私は父王を語れと言われれば迷いなくそう答えるだろう。
寝ても覚めても民を想い、一言一句の責を忘れず常に周囲に耳を傾け、自らに問い自らを律していた父は、確かに賢王であり私の目標であった。
そんな父が、最後の最後まで自らは勿論、私やクリスティアーナの命乞いをしなかったのは、ひとえに民のために他ならない。
国に降りかかる災禍は、王の首だけでは収まらなかった。
王と王太子、王妃とその実子。
国の象徴である最も濃い血族を絶つことで、国の滅亡と共にこの戦禍は終わりを告げた。
残った民は、帝国の属国に吸収され、名を変えながらも生きながらえる。
それが、王である父に残された、最後の道だった。
これが何の肩書きも無いただの父親ならば、娘と妻の助命のためだけに動けただろう。
あの手この手で戦禍を掻い潜り、どうにか抜け穴を探し出し、娘だけでも亡命させたのかもしれない。
父はそういう性格だし、それだけの気概を持っている。
だからこそ、父よりも王という立場をとった、というよりも父であり王であることができなかった自分を責めているのだろう。
しかし、私にしてみれば、父のとった行動は正しいものであり、悔いることなどではない。
王でありながら父であることなど人間には到底無理なことであるし、私たちは王家の人間なのだ。
節制はしていたとはいえ、常日頃から市井の民よりもずっといい暮らしをしてきた分、彼らのために生きて死ぬことは当然の義務である。
中には、くだらぬ欲で義務も責任も忘れた阿呆な貴族もいるのが、頭の痛い話ではあるのだが。
それでも、王族は王族として生きて死ぬ、それが私の進むべき道であり誇りなのだ。
クリスティアーナもそう理解していたし、納得していた。
今更、父が頭を下げることではない。
「寧ろ、私こそ結局何の役にも立てず、情けない限りです。」
そう告げれば、ゆっくりと顔を上げた父が、悲しげな笑みを浮かべて首を横に振った。
「お前は、よく私を支えてくれた。本当に感謝している。お前だけじゃない、私は多くのものに支えられ、王としての道を迷わず歩くことができた。が…。」
父の笑顔が暗くかげる。
「結局は、皆が守ってきたものを、守れずに終わってしまった。帰る故郷の名を奪われ、支配される道を民に残してしまった。」
「いいえ、父上。」
これ以上、続けて欲しくなくて、私は父の言葉を遮るように告げた。
「父上は民に未来を残されたではないですか。我らを支えてくれた民はとても強い。名を奪われ、巨木に支配されようと、未来を見据え子を残し種を繁栄させることができましょう。」
人は想いを残し、想いは歴史を残す。
たとえ国が崩れようと、全ての根底である人があれば、彼らの心に刻まれた歴史が父の想いを残してくれる。
此度の戦で逸早く降伏した父を、帝国は見下し嘲り忘れ去るだろう。
しかし、民の土地を焼くよりも自らの首を差し出した王は、きっと民の心に残る。
私の父は、それだけの偉業を成したのだ。
「私は父上を誇りに思います。」
どうかこの想いが伝わるよう願いをこめてそう告げる。
次の瞬間父の顔に浮かんだのは、末の妹が最後に見せた温かな笑みだった。
一人、また一人と個室から人が去っていく。
生まれてこの方、背ばかりを見ていた父王も、先ほど私と王妃に感謝と別れを告げ、降りた。
残ったのは私と、王妃。
「母上様。」
先ほどまで無言で王を見つめていた王妃が、ぴくりと肩を揺らす。
飴玉のようなとろみを持っていた視線が、私を捉えた途端熱を無くした。
「死んでまで、そなたに母と呼ばれる筋合いは無い。」
予想通りの冷たい言葉に、私は驚くこともなく静かに彼女を見つめる。
王妃は、私を嫌っていた。
いや、それは既に憎しみとも言えるかもしれない。
王や娘の前では決して出さなかったその感情は、それでも若輩の私が気付くほどに苛烈なものだった。
原因は、解らない。
私が何をしたとも思えず、また記憶になく、結局死ぬまでどうすることもできなかった。
先ほどまでの温かな空間が、一気に凍りつく。
「…王妃、お互い既に生を終え、世の柵からも放たれました。この際、腹を割ってお話し頂けませんか?」
「お前に何を話せと?」
「何故、そうまで私を厭うているのです?」
しばらく見下すように私を睨みつけていた王妃が、突然くっと喉を鳴らして笑い始めた。
「ふ、ふふ…くくくくっ…何故そなたを嫌うのか、だと?」
「えぇ、私がお嫌いなのでしょう?」
「自意識過剰の青二才め。私はそなたを嫌うておるのではない、ただそなたが邪魔なのだ。」
「…邪魔、と申しますと。私の地位でしょうか?」
「王の血を引く王太子など、この国にいらぬ。ましてや、民を欺き臣を抑えて女を王太子に立てるなど…愚かな国王め、それほどまでに血を残したいか。」
父に向けられた罵りの言葉に思わず眉を顰める。
それに、王の血を引く王太子をいらぬとは。
「王妃、口が過ぎます。」
「ほほ、世の柵から放たれたと申したのはそなたであろう?思ったことを述べて何が悪い?」
「死者へ向ける言葉ではありません。ましてや、これから旅立つ者の言葉でもありません。」
「うるさい!!黙れ紛い物!!」
びしりと浴びせられた言葉は、私のことを良く思わない臣が、影で使っていた言葉である。
彼らに示唆していたのは、王妃なのかもしれない。
もしくは、彼らが王妃を操っていたのか。
「残念ながら、貴女がどう思おうと私が王太子であった事実は変わりません。」
とはいうものの、死の間際身形を暴かれた際、私が女であることとこれに至った経緯を告げたので、それこそ私を紛い物扱いした奴らは諸手を挙げて喜んだのだろうけれども。
王妃は先に死んだので、知らないのだろう。
一応少しは悔しいから、言われるまで私からは言わないぞ。
「貴方は、私が女の身で王太子に立ったことがご不満なのですか?」
「当然じゃ。折角世継ぎが皆死んだに、何故女を男に仕立て上げてまで席を埋める。」
「何故、と申されましても。世継ぎがおらねば国が傾く。ただでさえ不幸が続き、辺境の地ですら国の未来に不安を抱いていたのです。たとえ中継ぎでお飾りの王太子だろうと、必要なことでした。」
「それが愚かと言うておるのだ!そなたさえ、そなたさえ出て来なんだら、我が弟が立ったというのに!!」
「お待ちください。」
何だそれは、初耳だ。
「どういうことです、私はそのようなこと聞いておりません。」
「ほ、当り前であろ?言うておらぬからの。」
「宰相はご存知だったのですか?」
「知らぬ。」
「では王は?」
「知らぬな。」
「では王妃陛下の妄想か?」
そう告げた途端、王妃の顔に朱が走り、ぎっと私を睨み付けた王妃は手に握り締めていた扇を椅子にたたきつけた。
「無礼者め!!口を慎め!!」
鼓膜を引っかくような金切り声に、僅かに目を細める。
「慎む口などございません。既に我が身は鬼籍に入っておりますれば。」
先ほど、世の柵云々の話で礼儀を無視したのはそちらだろう。
そんな意思をこめて王妃を見据えれば、彼女は悔しげに唇を噛み締めていた。
毒々しい口紅の赤がやけに目に付く。
ぶるぶると、怒りに握り締めた手を震わせていた王妃が、不意に嫌な笑みを浮かべた。
一対の瞳がぎらりと鈍く光る。
「まぁよいわ。いくら咆えたところで、国は滅びた。今更何を言うても後の祭りじゃ。」
僅かばかり歪んだ扇が嫌な音を立てた。
「まことの冥土の土産じゃ。そなたに面白い話をしてやろう。」
突然、余裕を取り戻した王妃に、私は警戒を強めた。
それにしても、死してまでこんな思いをするとは。
無言で応える私を鼻で笑った王妃がゆっくりと口を開いた。
「まず、そなたの兄だがな、私が殺した。」
「なっ!?」
突然の告白に頭が真っ白になりかける。
「あの男、事ある毎に私に口答えして、果ては私の邪魔をしようとしたゆえな。」
この女は、何を言っているのだ。
「飯炊きの女を懐柔して、夕餉に少しずつ毒を混ぜた。誰も毒に気付かず、本人すら“重い病”だと思い込んでおったわ。」
「…毒見役がいたはずだ。」
「少しずつと言うたろ?毒見役なんぞ、折を見て交代させたわ。」
つまりは、一度では効果のでない毒を使い、毒見役に効果が出る前に役につく者を換え上手く誤魔化したということか。
しかし、長期の毒も考えて、毒見役はそう簡単には換えないはずだ。
私の疑問を読んだのだろう、王妃がにんまりと見せ付けるように笑った。
「毒見役が毒で死ぬことなど、そう珍しいことでもあるまい?」
折を見て、殺していたのか。
「…なんという、ことを…貴女はご自分が何をしたのかお解かりか!?」
「解っておるわ。十二分にな。」
「なんという人だ…。」
一体何人が、こんなくだらないことの犠牲になったのか。
沸き起こる怒りのまま、ぎりぎりと唇を噛み締める。
「ほほ、この程度でそのように取り乱しては、王太子の名が泣きますぞえ。」
「この程度!?貴女は、人の命をこの程度と言うのか!!」
「おかしな話だの。生まれてこの方、そなたのために何人が死んだ?」
「私と貴女は違う!貴方は彼らの死を背負う気など一切無いではないか!!」
「ほほ、死んだことに変わりはないわ。」
元々王妃に対して良い感情などなかったが、ここまで壊れていたとは。
私は憤然と王妃を睨み付けた。
しかし、当の本人は私の怒りなどどこ吹く風で、涼しい顔で笑みすら浮かべている。
「ならば、これはどうだ?」
ゆっくりと身を乗り出した王妃が、私を挑発するように顔を近づけてねっとりと笑った。
きょろり、と彼女の瞳が猫のように光った気がした。
「此度の戦。和睦の使者を殺したは私よ。」
今度こそ、頭が真っ白になった。
帝国との開戦は、絶対に避けるべき道だった。
国の規模然り軍事力も桁違いの帝国に、小国である我が国が勝てるはずもなく。
無駄に抵抗することで、民や土地を傷つけることを恐れた父は、早々に属国になるべく皇帝に使者をたてた。
帝国側から提示された条約は呆れ返るほど傍若無人であちらの益ばかりを考えたものだったが、外交官の努力の末、最終的には幾分和らいだものとなった。
ここまでは、良かったのだ。
反対するものは確かにいたが、王も私もこれが最も犠牲の出ない道だと信じていた。
しかしある事件を境に、国の運命は破滅の道へと逸れることとなる。
全ては条約の誓書を確認に帝国の使者が我が国に訪れたことから始まった。
おそらく威圧の意味もあったのだろう、こちらの予想より少しばかり地位の高い者を帝国は使者として寄越した。
ここで機嫌を損ねられてはこれまでの努力が水の泡である。
私たちは尽くせる限りの手を尽くして歓迎した、が。
あろうことか王宮付警備兵が、件の使者を城の敷地内で切り捨てたのである。
昼の日向に人目も憚らず成された凶行は瞬く間に帝国まで届き、我が国は弁明の余地どころか事実解明のための調査を充分にする暇もなく、帝国から報復の宣戦布告を受けたのだ。
その瞬間、おそらく父は死を覚悟したのだろう。
あとはもう、どれだけ民に傷を残さず終止符を打てるか奔走するしかなかった。
それまで民のことだけを想い、堅実に政を進めてきた父はどれほど悔しかっただろうか。
数多の感情を押し殺した背を見る度に、どれだけの臣が心を痛めただろうか。
国を、王を守ろうと、一体どれだけの兵士たちが死んだ?
巻き込まれた民もいただろう、家族を亡くした民はどれほどの悲しみを背負ったのか。
生き残った者たちにも、これから支配される未来がくるというのに。
そのうえ、
「…クリスティアーナは…」
呻くような言葉は怒りのあまり震えていたかもしれない。
「クリスティアーナは貴女の実の娘!!それは、あの娘を死に追いやったと同義なのですよ!?」
見捨てたというのか、実の娘を。
あんなに美しく清らな心を持つ娘を、何故。
身体が熱い、燃えるようだ。
私の怒りに答えたのは、嘲笑も顕な声だった。
「あんな娘、どうでもよいわ。」
「なっ…」
「腹を痛めて生んでやったというのに、母を蔑ろにし、言うこと一つ守れず、果ては紛い物の巾着に成り下がった。」
王妃の顔に浮かぶのは、嫌悪の表情。
これが実の娘へ向ける表情だろうか?
「…貴女は、それでも母親か…?」
呆然と呟けば、女はさも馬鹿にしたようにくっくと笑い続ける。
「ほほ、おかしなことを。あの娘がこの腹から出てきた時点で、何をせずとも母親じゃ。私こそあの娘を引き戻して問うてやりたいわ。」
鼻で笑った王妃の声が一段と低くなる。
「お前はまことに私の娘か、とな。」
「黙れっっっ!!!」
クリスティアーナの、別れのときに浮かべた笑顔が不意に過ぎる。
途端、カッと頭に血が上った。
「たとえ死者といえど、貴女は絶対許せないっ!!」
往生際に、何をしているのかと思う。
先に逝った父と妹に比べ、何と愚かな争いをしているのか、とも。
生まれてよりの教育の賜物だろう、ここまで憤りながらもどこか冷静に我が身を見つめる客観的な感想だ。
仮にも親子、最後の最後で醜いことこの上ない。
しかしそれでも、ドロドロと混ざり合った感情が私の中で湧き起こる怒りを助長し、肉体は完全に支配されていた。
熱に浮かされたようにのそりと立ち上がり、過去の宣言通り永の相棒と成った腰のサーベルをしゃらりと抜き構える。
死ぬ間際、血と油に塗れて輝きを失っていた相棒が、不思議なことに以前の輝きを取り戻していた。
いや、同じではなく、何となくだがどこか妖しげな鋭さを見せている。
「お客様。」
不意に、真横から声がかかった。
この声はカナイか。
しかし私は目の前の憎い女から視線を逸らす気は全く無い。
無反応の私を気にせず、カナイは更に続けた。
「お客様、どうか剣をお納めください。」
「……。」
「先ほど申しました通り、ここは現世の柵から解かれた場。逆を申しますと、理に守られず魂が一時的に無防備になった状態でございます。」
全く反応を返さない私に、カナイが小さく息を吐く。
「今この状態で、現世で言う“殺める”という行動をとられますと、お客様が人道を外れお客様の世界の理から外れることになります。」
構うものか。
「人道を外れ世界の理からも外れれば、人に生まれかわることはおろか、このまま輪廻の輪に沿うこともできません。」
「それは良い!そなた次は家畜にでもなるが良いわ。」
ほほほ、と王妃の声が頭蓋の奥の神経を逆撫でる。
「前言を、撤回しようぞミハエル。私はやはり、そなたが嫌いじゃ!」
「奇遇です。私もたった今、貴女が憎くなりました。」
目の端に、警告のような赤い点滅がちらりと見えた。
しかし、私はそれを無視して、振り上げた相棒を迷わず振り下ろした。
真っ赤に染まる視界の中、あぁ、と残念そうな吐息混じりのカナイの声が聞こえた。
あつい、あつい、あつい!!!
体中が燃えるような、しかし身体の芯だけは凍りつくような痛みにとらわれ、私はもがく様に地面を這いずり回った。
「…っ…がっ!!あぁああぁああああ゛っあ!!!」
周りに何があるのかも、生き物の気配があるのかも全く認識できない。
ただ、己の獣のような声だけが頭にわんわんと響き、それすらも痛みを伴い私を苛む。
「ぐあっあっあがあぁぁあああぁっ!!」
見開いた目からは涙腺が崩壊したかのような涙がぼろぼろと零れ落ち、口からは顎が外れた獣のようにだらだらと涎が伝った。
しかし、私にはそれを拭う余裕は無い。
身体の奥の奥から髪の一筋まで、細胞の一つ一つが爆発するような感覚に、永遠とも思える時間に耐えながらも次第に私の意識は闇に沈んでいった。
あの、不思議な個室に乗り込み、別れと復讐を経てどれだけの時間が経ったのかは判らない。
私が気付いたのは、どことも知れぬ森の奥深くだった。
鬱蒼と茂る森は闇を纏い、空を求めて見上げるも生い茂る木々に阻まれ光を臨むことはできない。
それでも、完全に遮られることはないのだろう、辺りはぼんやりと濃厚な緑色の光に包まれていた。
苔生した大地の感触がふわりと伝わり、呆然と座り込む己の身体を見下ろす。
「…なんで、はだか…。」
思わず呟いた声はひしゃげたように掠れていた。
それとともに、異常な喉の渇きを覚え、無意識に喉のあたりをさする。
「…みず。」
とにかく、自分の格好がどうでもよくなるくらい喉が渇いていた。
くん、と嗅覚を研ぎ澄ませばふわりと惹かれる甘い匂いに気付く。
これは水のにおいだろうか?
何であるにしろ、自分が求めるものに違いない。
私は本能のまま立ち上がり、ふらつく足で匂いを辿った。
結論から言えば、匂いの元はすぐに見つかった。
ただし、その発生源は水の匂いではなく巨大な獣だったのだが。
獣の背後には求めていたはずの水、小さめの水源がこぽこぽと気泡とともに透明度の高い清水を湛えている。
しかしどういうことか、それまで水を求めていたはずの私の本能は水源へと向けられることはなく、こちらを見据える獣へと真っ直ぐ向けられていた。
――ぐるぅるるるるる…
低い、警戒の声だろう、獣がこちらを睨み付けながらじりじりと後退している。
どう見ても私の数倍はある獣は、まるで毛長牛のような様相をしていた。
角は鋭く、凹凸のある螺旋模様を描きながら二又の槍のように斜め上へと伸びている。
口からはこれまた鋭利な牙が上下ににょきりと生え、蹄があるべき足の先からは、牛にあるまじき鋭い爪が大地を抉っていた。
王太子として剣を磨き合気も嗜んではいたが、流石に自分の倍以上もある化け物に真っ向からぶつかる度胸は無い、はずだった。
どうしてだろう、不思議なことに今の私は恐怖も焦りも感じていない。
ただ、心にあるのは渇きを告げる本能だけである。
対して、気のせいなのだろうか、目の前の化け物は私に恐怖を感じているように思えた。
じっと目の前の獣を見る。
既に私の目にはそれが獲物と認識されており、その身体から立ち上る熱までも視覚できそうなほどだ…などと思っていたら、だんだんとうっすらではあるが獣の身体に走る赤い流れが見えてきた。
はっきりとそれを認識した瞬間、私の喉がごくりと鳴る。
その音が聞こえたのだろうか、それとも何か不穏な気配を察知したのだろうか、赤い流れの脈動が早まるのを感じた。
その瞬間、目の辺りに熱が灯り、本能的に地面を蹴った。
じゅる、じゅるるるるる。
恥も外聞も捨て――といっても、気にするような人間はこの場にはいないのだが――行儀の悪い水音を立てながら、無心にそれを啜る。
座り込めば私の身体などすっぽりと影に包んでしまう巨体の首のあたりに顔を埋めて、私は獣の肉に、というよりも太い血管にいつの間にか発達していた犬歯を突き刺し溢れる血を啜っていた。
獣は既に事切れ、ぴくりともせず横たわっている。
私の周りには血を啜りやすいようにと毟り取った獣の首付近の毛があちらこちらに散らばっていた。
ちらりと目に入る私の胸も腕も真っ赤に染まり、解いたまま無造作に流していた髪にもべっとりと血に塗れ私の肌に赤い筋を垂らしながら纏わりついている。
生前、血の臭気が人一倍苦手だった私は、しかし今現在辺りに充満する濃い匂いに食欲すら感じていた。
次第に膨れる腹に充足感を覚えつつも、それと同時に戻ってくる正気が頭の隅で自分の異常さに警笛を鳴らす。
それでも、私の牙は、口は、獣の血の最後の一滴まで零すまいと“食事”を止めることはなかった。
獣の巨体がカラカラに干からび、既に巨体といえなくなるまで萎んだ頃。
漸く私の腹は満足したらしく、私は大きく息を吸い込みながら顔を上げた。
ぷはっと、まるで水から顔を上げたときのように空を仰ぐ。
そのまま真っ赤な腕でべとつく顔をぐいと拭い、ふと視線をずらした先の水源に目を向けた。
「…気持ち悪い。」
身体のどこもかしこも血に塗れ、既に乾き始めた部分は皮膚の引きつる感触が不快だ。
私は下肢に力を入れ、立ち上がる。
今度はふらつくこともなく、しっかりと大地を踏みしめ歩くことができた。
そのまま泉の傍まで歩き、ほとりに座り込み水面を覗き込む。
「…酷いな。」
鏡のような水面が映したのは、頬も鼻も真っ赤に染まった浅ましい己の姿だった。
次の瞬間、私は無意識に頭から水面に顔を突っ込んでいた。
全身の血を拭うには、大変な労力を要した。
不幸中の幸いといえるかは判らないが、服を着ていなかったことで幾分手間は掛からなかったのだが。
不思議なことに、これだけ血を流したにも関わらず、泉の水は濁る気配すら見せず透明度を保っている。
一通り身体を清め一息ついた私は、自分の身体を確認するためにもう一度水面に顔を映した。
水際からひょっこりと顔を出したのは、長年付き合ってきた見覚えのある私の顔だ。
しかし、何か違和を感じしばらく見つめていた私は、驚きにあっと声を上げそうになった。
目の色が、変わっている。
これは比喩ではなく、そのままの意味である。
過去、幾度となく鏡の中で見てきたその瞳は、何の変哲も無い一般的な茶色をしていたはずである。
父譲りのその瞳は今、水面の中で真っ赤に輝いていた。
赤目など、見たことが無い。
いや、白化固体という全身の色が抜け落ちて瞳だけ赤っぽい種というものもあるが、それこそ私の記憶の中で目にしたことは無かったし、ここまで赤い瞳などありえるのだろうか。
それに、彼らは肌も髪も白かったが、私の髪はもとの黒髪だ。
ただ、肌の色は生前、記憶の中のものよりもずっと白くなっていた。
私は王太子として生活していたため、剣の訓練や視察などで日に焼けることが多かった。
なので、こんな北方の姫のような白い肌ではなく、もっと健康的な小麦色とまではいかないがそれなりに焼けた肌をしていたのだ。
呆然と己の顔に手を這わせていた私は、半開きの口から覗くそれに更に目を丸くする。
自然体にしては赤すぎる唇から覗くのは、先ほどまで獣に突き刺さっていた小さくも鋭い牙だった。
――人道を外れ世界の理から外れることになります。
そう告げたカナイの声が、不意に耳を掠めた。
そういうことか、とどこか諦めにも似た感情が胸を占める。
父上様、クリスティアーナ、こんな愚かな娘を姉を見て、優しい二人はどう思うだろう。
どうやら私は伝説上の化け物、所謂吸血鬼というものになってしまったようだ。
Side:バルド
土煙を上げながら、八騎が全速力で駆け抜ける。
どの馬も足腰が太く、岩山に住む獣のような体躯をしていた。
それらを駆るのは統一性の無い無造作な防具を着た鬼気迫る男たちである。
誰も彼もがなめし皮やら毛皮を纏っているので、その様相はまさに盗賊だ。
彼らは、形は違えど全体的に赤っぽい衣を纏っていたので、遠くから見ると一つの赤い塊のように見えた。
「飛ばすぞ!遅れるなよ!!」
一際体躯の大きい先頭の男が咆えるように言えば、背後に続く男たちから雄叫びのような声が上がった。
背後には彼らの倍以上の人数の軽装備の騎士たちが、同じように土煙を上げながら猛追し、辺り一帯に地鳴りのような音が響いていた。
両者の間はかなりの間隔が開いていたものの、背後の騎士の集団は軽装備のためか先頭の赤い塊よりも僅かに速く、先ほどからじりじりと距離をつめている。
先頭の男――バルド大きく舌打ちをすると、前方の遠目に見える黒々とした影に目を向けた。
「クラウス、森に入るぞ!」
「なっ!?正気かっ!?」
バルドの斜め後ろにぴったりと添って駆けていた男が、信じられないとばかりに喚く。
クラウスと呼ばれたその男は、バルドの最も信の置ける存在であり参謀としても重宝されていた。
多少性格に難ありだが、とても頭が良く面倒見のいい男だ。
「このままじゃ追いつかれる。流石にあの数は捌けねぇ!!」
バルドの言葉に、ちらりと背後を振り返ったクラウスが眉を顰めて小さく唸る。
「…仕方ない、わかりました。森に入ったら四方を固めます。」
「まずは奴らを振り切んねぇとな。」
「問題ありません。彼らは森には入らない。」
博識の彼が言うならそうなのだろう。
クラウスの言葉に大きく頷いたバルドは、そのまま馬首を森へと向けた。
思惑通り、森の中に入った途端、背後の騎士たちは歩みを止めた。
念のため彼らの気配が途切れるまで森の中を進み続けたが、既に馬のいななきすら聞こえない。
漸く安全と判断したバルドは、全ての馬が集まれる空間まで来ると手綱を緩めて馬を止めた。
どんよりと暗い森の空気に警戒を怠ることなく背後を振り返る。
「全員無事か?」
見れば彼の後に続き足を止めた七人が、しっかりとバルドを見て頷いた。
しかしそれも一瞬のことで、バルドがさっと周囲に視線を回せば、それに倣うように彼らが動く。
誰もが自分の役割を理解しているのだろう、それぞれが前後左右、上下にまで目が行き届くよう固まりながらも警戒の目を周囲に向けた。
「取り合えず、森を出ねぇとな。」
追跡者の問題は片付いた。
しかし、次はこの明らかに危険の渦巻く森から抜け出なければならない。
騎士を確実に振り切るためかなりの距離を馬で駆けた。
思惑通り追っ手を振り切ったものの、バルドたちはかなり森の奥へと入り込んでしまったようだ。
生い茂る木々の葉で、既に太陽の光は臨めない。
森に入る直前まで、じりじりと肌を焼いていた日の光が嘘のようだ。
ぼんやりと明るいため夜ではないのは明らかだったが、正確な時間が判らないのはかなりの痛手だ。
一応魔法の使える者はいるものの、果たしてどれほどの役に立つか。
久しぶりに感じた死の気配を払うように、大きな動作で馬首を返したバルドが森の奥へと足を進めた。
バルドが率いるこの一団は帝国周辺を荒らしまわる有名な盗賊である。
帝国のあちらこちらに拠点を隠し、それぞれの隊長がそれぞれの兵隊を率いて活動する彼らは、総じて赤の義賊と呼ばれていた。
主に金品や奴隷を運ぶ商隊や貴族の馬車を襲う彼らは、実は平民の間で密かな支持を得ている。
彼らの獲物は、所謂市民の敵とも言える悪徳商人やら重税を強いる領主とその関係者など、圧制を強いる権力者だったりするので、市民の中にはまるで自分たちの敵討ちをしてくれているような彼らに好感を持つ者が多いのだ。
逆に資産のある貴族や商人には蛇蝎のごとく嫌われているのだが。
賊は賊なので、大声で激励の声を上げることはできないものの、市民の中に彼らの情報を売ったり通報したりするものは殆どいなかった。
帝国側としてはとんでもない状況なので、被害国はこぞって彼らを捉えようと力を注いでいたのだが、行動力もあり個々の戦闘力が軒並み高い彼らを捕まえるには、相当の労力が必要だった。
これまで数人の下っ端を捕らえたことはあっても、赤の義賊を壊滅に追いやるまでには至っていないのだ。
今回、赤の義賊の頭目であるバルドがここまで追い詰められたのは、いくつかの不幸な偶然が重なったためとしかいえない。
バルドという男はあらゆる意味で追われる男だった。
「畜生!!今度は何だ!?」
横合いから飛び出してきた獰猛な爪をひらりと避け、バルドは本日何度目か判らない舌打ちを漏らす。
ここまで自分たちを運んでくれた馬は既になく、今は自分たちの足で走り抜けるしかなかった。
未だ八人揃っていることが奇跡のような状態だ。
あれから、バルドたち一行はしばらく森を進み、方位磁針を片手にどうにかこうにか森を抜けようと奮闘してきたが、苔生した湿地に差し掛かったあたりで虎程の大きさの狼の群れに襲われ苦戦していた。
狼の群れは巨体に似合わずとても俊敏で、頭も良ければチームワークも侮れない。
先ほどからクラウス等魔術師を中心に防御系の魔法を駆使しながらバルドを先頭に一頭ずつ捌いているものの、体力がつきてきたのだろう負傷者が増え始めている。
回復系の魔法を得意とするニコが、率先して重傷を負ったものから治療しているが、その魔力がどこまでもつかも問題だ。
絶体絶命とは、まさにこのことだった。
不意に、バルドの視界に白い影が過ぎる。
ふんわりと柔らかい光を放つそれは、殺伐とした血の臭気漂うこの場には相応しくなく、バルドは思わずそちらに目を向けた。
――きゅぅうう
小さな小さな鳴き声は、その白い何かから放たれたもので。
ふわふわとまるで毛玉のようだが、よく見ればそれは乳白色の細長いイタチだった。
まん丸の目がじいっとバルドを見つめ、白い毛皮がぷるぷると恐怖に震えている。
と、その背後に弾き飛ばされたのだろう、狼の一匹がイタチの背後に転がってきた。
しかし狼は一瞬にして起き上がり、不幸にも白い毛皮を視界に捉える。
毒々しい色合いの歯茎と鋭利な牙を剥き出しにした狼が、ついでとばかりに飛び掛った。
「ちぃっ!!」
「バルド!いけないっ!!」
思わず飛び出したバルドの背後から、焦ったようなクラウスの声が聞こえる。
しかし無意識に飛び出していたバルドに引き返すような余裕は無かった。
ガキィンという硬質な音が、バルドの大きめの剣と狼の鋭い牙の間から弾けた。
ぎりぎりと牽制し合いながら、間近に迫った獣の目を睨み付ける。
「バルドっ!!!」
と、再びクラウスの声が悲鳴のように聞こえた。
それと同時に、バルドの斜め後ろから他の一頭が飛び掛る。
彼自身もすぐそれに気づいたのだが、ほんの少し遅すぎた。
瞬間的に剣を捨て、目の前の狼に渾身の蹴りを入れながら真横に身を返す。
ぎらりと光ったのは、狼の牙か瞳か。
バルドは無意識に顔の前で腕を交差させ頭をかばった。
「…ぐっ!!」
次の瞬間、左腕に激痛が走る。
バルドの太い腕を、狼の牙が貫いていた。
「バルドっ!!…っ…オリバー!防壁はいい、頭を頼む!!」
クラウスが大きく舌打ちし、防護壁のために展開していた魔力の出力を更に上げながら、同じように魔力を放出していた男に声をかける。
その声を聞いた男は一瞬迷いながらも、すぐに言葉に従い地面を蹴った。
「頭!!」
腕に食らいつく狼を、片手と脚で必死に抑えながら、地面に倒れこむバルドに駆け寄る。
オリバーと呼ばれた男は腰のダガーを抜き取り、そのままバルドに食らいつく狼の首筋を狙って突き刺した。
短い断末魔の雄叫びと共に、涎をばら撒きながら口を開いた狼がもんどり打って地面に転がる。
オリバーは狼に視線を定めたまま、素早くバルドの右手を取ると、自分よりも一回りも体格のいいバルドを引っ張り起こした。
「生きてますかい?」
「…あぁ、何とかな。」
軽口を叩きながらも、オリバーの顔は若干蒼い。
見れば、バルドの腕には二つの大穴が開き、噛み付かれたまま動かれたのだろう、傷は抉ったようにぐちゃぐちゃで、骨まで見えていた。
どくどくと流れる血がバルドの足元まで濡らしている。
「ここは俺が。頭はいったんニコのとこへ。」
「そうも言ってられねぇみてぇだぜ。」
失血のためだろう、オリバーよりも顔を青くしたバルドが、皮肉な笑みを浮かべながら転がった剣を拾う。
背中合わせに周囲を睨み饐える二人の周りには、新たに四頭の狼が迫っていた。
「畜生、こんなところで…。」
唸るように漏れ出た声はひどく掠れて弱弱しい。
右手で剣を構えてはいるが、負傷した左手はぴくりとも動かず、左の腕はだらりと垂れ下がったままだった。
万事、休すか。
誰もがそう思い、それでも足掻こうと剣を持つ手に力を入れた瞬間、先ほどのイタチの高い声が森に響いた。
「こんなところにいたのか、ノーラ。」
静かな声が響いた。
たった今まで繰り広げられていた血みどろの戦闘が嘘のように静まりかえる。
人間どころか、狼までもぴたりと動きを止め、その声のした方へと首を返していた。
じわり、と足元の苔を湿らせて、声の主が歩み寄る。
誰も彼もが水を打ったように静まる中、彼らの足元を白い物体がちょろちょろと走りぬけた。
それは器用に足の間をすり抜け、そのままの勢いでその人の脚を駆け上る。
そのまま腕を伝い、真っ直ぐな黒髪をくぐりぬけくるりと肩を渡ると、すべらかな項を跨いで白い頬目掛けてひょっこりと顔を出した。
それは先ほどバルドが見た白いイタチだ。
すっとイタチの前に差し出された指をふんふんと嗅いだイタチは、すぐさま顔を上げて何かを訴えるように見つめた。
「お前を苛めた愚か者はどれだ?」
女性にしては低めだが、男性にしては高めの声が静かに問う。
しばらくじっとイタチと見詰め合っていたその人は、心得たようににんまりと笑うと、狼と人間が入り混じる壮絶とも言える戦闘の場に目を向けた。
ごくり、と誰かの喉が鳴る。
長い黒髪が縁取る白い面の双眼が、この場に散るどの赤よりも紅く輝いていた。
「てめぇ…何者だ?」
真っ先に正気に戻ったのはバルドだった。
しかし、それの異様さに気圧されたのか、じりと僅かに後ずさる。
無意識の行動なのだろう、それを見抜いた乱入者は小さく笑みを浮かべると口を開いた。
「貴方に用は無い。いや、ノーラを助けてくれたのだから用が無いこともないが、今はそいつらだ。」
すっと紅い瞳が細まり、視線が場に散らばった狼を捉える。
途端、先ほどまで優勢に立っていたはずの狼たちが、尾を震わせて後ずさり始めた。
既にバルドたちは彼らの眼中に無く、一頭一頭が突然の乱入者に身体を向け、毛を逆立てて警戒している。
「狼どもめ、私の匂いにすら気付かなかったか。」
一歩、また一歩と乱入者が近づくたびに、狼たちが後ずさる。
「今すぐ去れば良し、これ以上手を出すようなら…。」
言葉と同時に歩みが止まった瞬間、その細い身体からぶわりと何かが放たれた。
まるで衝撃波のような不可視の何かが、空気を震わせながらその場に広がる。
その瞬間、じりじりと後退していた狼たちが、高い悲鳴を上げて一斉に踵を返した。
呆然と立つ人間たちに目もくれず、一目散に森の奥へと消えていく。
バルドたち赤い義賊の一行は、ただただ目を丸くしてそれらを見送った。
「ノーラが世話になった。」
いつのまにか近くまで歩み寄っていた乱入者――近くで見たらどうやら女のようだ――が、バルドを見据えて軽く頭を下げた。
その声にはっと身動ぎした男たちは、まるで金縛りが解けたかのように動き始める。
「…いや、こちらこそ助かった。」
得体は知れないが、どうやら女に害意は無いらしい。
バルドたちは警戒を続けながらも、取り合えず武器を下げた。
女の視線がすっと下がり、未だ血の溢れ続けるバルドの腕を見つめる。
それを追ったバルドの視線が己の腕の惨状を捉え、嫌そうに眉を顰めた。
「そのままでは死ぬ。」
きっぱりと言い切った女に、バルドの背後でクラウスが弾かれたように顔を上げる。
「ニコ!早く頭の怪我を!!」
「いい、私が治そう。」
焦ったようなクラウスの声を遮ったのは、静かに佇む黒髪の女だ。
「治せるのか?」
「このくらいであれば問題ない。が、取り合えず止血するからここは離れた方がいい。」
安全な場所に案内する。
そう呟いた女に、バルドは眉を顰めた。
女のお陰で一難は去ったが、ここは何が起こるかわからない場所である。
これだけ血の匂いをばら撒いたのだ、もっと大型の獣が現れても不思議ではない。
「そうか、ありがたい。おい、聞いたかてめぇら!動けるもんは怪我した奴担げ!移動するぞ!!」
前半は女に向けて、後半は背後の仲間に向けて支持を飛ばしたバルドは迷うことなく女に腕を差し出した。
女はそっとその腕を両の手で包む。
すると熱と痛みで間隔の麻痺したバルドの腕をほんわりと温かな熱が包んだ。
「俺はバルド、お前は?」
「私は…ヴェラ。取り合えずここまでだ、行くぞ。」
見れば、先ほどまで酷い有様だったバルドの腕が、元通りの肌を見せていた。
黒髪の女、ヴェラに連れられて辿りついたのは、木々の合間からいたるところに光の筋が落ちる綺麗な湖の畔だった。
まるで鏡のような湖面の周りには、先ほどの場所よりもずっと柔らかく萌黄色の苔の絨毯が広がっている。
警戒しつつもぞろぞろとヴェラに続いた一行は、そのあまりの神秘的な風景に誰もが息を呑んでいた。
「ここなら安全だ。」
そう言って湖畔に立ったヴェラがゆっくりとこちらを振り返る。
謝意を述べるバルドに対し、明らかな警戒を滲ませたクラウスが周囲を警戒しながら女を見据えた。
「水際は、大きな獣が集まります。」
「おい。」
棘を隠しもしないクラウスの言葉に、眉を顰めたのはバルドだった。
クラウスにしてみれば、こんなところに突然現れ、狼の群れを一睨みで追い払った女に信頼など置けるはずもない。
常日頃、バルドが直感で動いていることを解ってはいるものの、今回は口を挟まないわけにはいかなかった。
しかし、そんなクラウスの言葉にも、ヴェラは特に気にすることなく平然と彼らを見据えている。
「通常はな。しかし、ここは大丈夫だ。」
短い言葉で返すヴェラの言葉には、その根拠すら含まれてなかったが、さも当然とばかりに答える女の言葉にクラウスは眉を顰めた。
「何故です。」
その問いには答える気が無いのだろう。
小さく笑った女は踵を返して水際に腰を下ろした。
「バルド、本当に信じて大丈夫なのか?」
少し女から離れた位置で、それぞれ周囲に目を配れる配置で座り込んだ面々を見ながらクラウスがバルドに声をかける。
声を落としたその問いに、バルドの顔が怪訝に歪んだ。
「大丈夫だろ?攻撃する気も無いようだし、治療までしてくれたし。」
あっけらかんと告げられた言葉に、拍子抜けしたクラウスが呆れたように肩を落とす。
「ったく…俺は知らんぞ。」
バルドだけと話すとき、もしくは感情が昂ったときにだけ出るクラウスの荒い口調に、バルドはふっと笑みを浮かべた。
「あぁ、多分大丈夫だ。俺の勘を信じろ。」
確かにバルドの勘は恐ろしいほど当たる。
こういうときの彼の勘を信じて損をしたことは無かった。
どこか納得のいかなそうな、それでも口を閉じたクラウスにバルドは小さく笑う。
ふと、ヴェラと名乗った女を見れば、彼女は無防備に靴を脱ぎ、水に足を浸していた。
改めて、突然現れた不思議な女に目を向ける。
黒い髪はそう珍しいものではないが、あんなにサラサラと絹糸のように流れる髪を見たのは初めてだ。
その肌も、まるで象牙のようにすべらかで美しく、暗い森の中では淡く光っているようにも見えた。
長い手足はすらりと伸び、身を包む衣はこんな森の中では違和感すら覚えるほどの気品のある騎士服である。
異国のもののようなので、バルドの知るどの国のものとも形は違うが、全体的に黒で纏められていた。
そして、極めつけはその瞳。
真っ赤に輝くルビーのような瞳は、色彩の少ない彼女の身体の中で、一際目立ち印象付ける。
いったい彼女は何者なのだろうか。
身なりを整え、仲間の傷の治療を終えたクラウスが再び声をかけるまで、バルドは無心にヴェラの背を眺めていた。
Side:ヴェラ
吸血鬼として目覚めた私の認識は、それまでの常識が嘘のように一変した。
まず、生前才能の欠片もないと言われた魔法についてだが、今の私の身には溢れんばかりの魔力で満ちている。
それらを私は本能で理解しているのだろう、時が経つごとに魔法を駆使し、不便な森で様々なことが可能になった。
私が身に纏う服も、魔力の糸で紡ぎ出したものである。破ければすぐに修復されるし、機能性も優れている。
勿論、着脱も自由だ。
まぁ、それができるようになるまで殆ど裸の状態だったのだけれども。
次に基本的な活動時間が夜になった。
王太子として生活していたときは、まるでからくり人形のように規則正しく生活していた私が、今ではすっかり夜型人間である。いや、人間ですらないのだから、夜行性と言った方が正しいか。
その所為か私の目は闇に特化し、獣が目視できないほどの真っ暗闇でも、不思議なことにこの赤い瞳は全てを捉えた。
夜目が利くどころの話ではないが、この暗い森ではありがたい能力だろう。
しかし、良いことばかりではない。
吸血鬼に変わり、苦手になってしまったものもあった。
これは、目覚めた当初ふらふらと森を彷徨っていたときのことなのだが、どこをどう歩き何を間違ってしまったのか、私は森の外れの場所まで出てきてしまった。
久しぶりに見る陽の光に嬉しくなり、思わず木陰の下から出た瞬間、皮膚に溶けた蝋を垂らされたような間隔に陥ったのだ。
慌てて日陰に引っ込んだものの、しっかりと太陽の光を浴びた腕には真っ赤な痣ができていた。
どうやらめっきり太陽の光に弱くなってしまったようだ。
一晩眠ればすっかり良くなっていたので、色々と試してみた。
一番よろしくないのは朝日のようで、あの時は蝋どころではなく、火種自体を押し付けられたかのような痛みに、思わず一人で悲鳴を上げてしまったものだ。
反対に、木の葉越しの光だとか、分厚い雲の空の下とかならば多少のだるさは感じるものの普通に過ごすことができるらしい。
そして、最も変わった点といえばやはり食事だろう。
初めの本能が示すとおり、私の主食は生き物の血液に変わった。
これには相当堪えた。
何せ、元はただの人間で、生まれてこの方の記憶が残っているのである。
最初の一回はあまりの飢えに、本能の赴くまま殆ど無意識に動いていたため、躊躇無く捕食できたのだが、冷静になればそうもいかない。
吸血鬼といえば人間の血という図式が頭の中にあったが、どうやら獣の血でも問題ないらしく、その点では不幸中の幸いともいえるのだろうが、それでも慣れるまでかなりの回数と精神力を有した。
主食というだけあって、他にも生き物の精気も糧に成り得るのだが、やはり血ほどの満腹感は得られなかった。
誰しも飢えては生きていけない。
そして、王族として培った愚かなプライドの所為か、さっさと命でも絶てばいいものを、このようなところで意味も遺物も無い自害など、到底受け入れる気になれなかった。
とすれば、あとは本能のまま生きる他ない。
私は必死に狩りを覚え、血を啜ることに慣れた。
そうして、深い深い森の奥、湿地帯の更に奥まった岩場に魔力で作った居を構え、新しい生と言っていいのかは解らないが、とにかく第二の人生を歩み始めたのである。
人間としての記憶だけを抱き、人外の者として。
ある日、たまたま見かけた小さなイタチを助けたのは、本当に偶然だった。
狩りの途中、私が止めをさした獣の獲物がノーラだった。
共にいるつもりは無かったが、命の恩人だと勘違いしたのか、それからノーラは私の周りで行動するようになった。
まぁ、私の周りにいるのが一番安全だと判断したのかもしれないが。
そして、私が自分のその能力に気付いたのも、ノーラが私の周りをちょろちょろし始めてからだった。
そう、何となくではあるが、獣の考えていることが解るようになったのだ。
はっきりと言葉で伝わるわけではないが、何と言うか、イメージのようなものがふと頭に伝わるのである。
そんなこんなで、会話も無い中さすがに独りが寂しくなっていた私は、ひょんなことから出会ったイタチにノーラという名前を与え、共に生活するようになった。
私の捕食対象は獣なので、ノーラも一応食べ物として認識されるはずなのだが、今のところ彼女に食欲を感じたことはない。
因みに、ノーラは列記としたレディである。
その大事な友達が、狩りの途中ではぐれてしまったのに気付いたのは、私が獲物を捕らえて食事を終えたときだった。
我ながら、大失態というか、注意力散漫である。
言い訳をすれば、いつもはノーラが金魚の糞よろしくくっついてくるので、特に心配していなかったのだ。
ノーラは弱いとはいえ獣である。
特にイタチは動きも素早く滅多なことでは肉食獣に捕まることは無いだろうが、迷子になるには少々場所が悪かった。
何分、ここは狼――といっては巨大すぎるので、本来何といえばいいのか解らないが――の住処である。
群れで行動する彼らは、とても頭が良く狩りをするのが上手いのだ。
せっかくできた友達を失うわけにはいかない。
私は慌ててノーラの匂いを辿った。
そこにいたのは、血に飢えた狼と、久しぶりに見る人間だった。
ノーラの匂いを辿り行き着いた先は、まさに狼が狩りをしている最中だった。
しかし一方的な狩りとは言い難く、狼の方も何頭かやられているので争いといった方が正しいだろう。
相手は明らかに盗賊といった形をしている。
とにかく、私はノーラを保護するために、誰もが気付くようわざと声を上げて近づいた。
「こんなところにいたのか、ノーラ。」
突然の乱入者に、人も狼も動きを止めた。
獣は気配に敏感で、私が何者であるか本能的に察知したのだろう。
明らかに恐怖を浮かべてこちらを警戒している。
吸血鬼という異形の者に堕ちた私に、この森で勝るものはいない。
私がこの森の食物連鎖の頂点にいることを、彼らは瞬時に理解した。
対して、人間の方はそこまで解っていないようで、人外の者とも気付いていないのだろう、こんな森の深部に身形の良い女、に見えているかどうかは解らないが、人がふらりと現れたのだ。
武器も持たず荷物も持たず、丸腰の状態にも関わらず無傷で。
確かに怪しいことこの上ない。
内心、苦笑を零しながらもすぐに肩まで駆け上がったノーラに事の次第を問うた。
じっとこちらを見つめる丸い眼から、それまでノーラの見ていた情景がふわりと伝わる。
断片的なそれは、完璧とまではいかないが、獣と人間どちらがどういう立場なのかは理解できた。
今現在の私の敵は、どうやら狼たちのようだ。
「てめぇ…何者だ?」
不意にかけられた声に顔を上げれば、人間の中でも身体の大きな男がこちらをにらみつけていた。
それぞれの雰囲気から見て、おそらくこの男がリーダーなのだろう。
しかし、その腕は無残にも大穴が開き真っ赤に染まっていた。
ノーラの記憶に寄れば、その傷を負う原因の一端はノーラにあるらしい。
「貴方に用は無い。いや、ノーラを助けてくれたのだから用が無いこともないが、今はそいつらだ。」
友人の恩は後ほど私が返そう。
とにかく、まずは狼たちを追い払わなければならない。
縄張りを荒らしたのはこちらなので命まで取る気は無いが、ここは自ら引いてもらおう。
「狼どもめ、私の匂いにすら気付かなかったか。」
多少の威圧を込めて睨み付ければ、私の一歩と同時に狼たちが一歩後退する。
「今すぐ去れば良し、これ以上手を出すようなら…。」
追い討ちをかけるように魔力を増幅し、彼らに向けて容赦なく放った。
途端、狼たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
その後多少のやり取りを経て、私は彼らを近くにある湖に案内した。
バルドと名乗った男以外明らかに警戒してるが、まぁ仕方の無いことだ。
「水際は、大きな獣が集まります。」
「おい。」
常にバルドの傍に付き従っていた男が、少々とは言えない棘を孕んだ言葉を投げかける。
全ては警戒から来る言葉、引いては仲間を思う気持ちが言わせているのだろう、バルドは嗜めるように声をかけたが、私はむしろ好ましい思いで答えた。
「通常はな。しかし、ここは大丈夫だ。」
この湖は私の縄張り。
ここに通うようになってからというもの、私の魔力の痕跡と残り香のせいか、滅多な動物は近づかない。
この森の中でここほど安全な場所は無かった。
まぁ、私が許した者にとっては、なのだが。
この者たちは見た目無法者のようだが、彼らの頭目と思しきものが小さなイタチを救おうとしたのだ。そう悪い者たちではないと私は判断した。
あの頃、私の周りで人の失脚に手を拱いて待ち構えていた貴族どもよりも余程いい。
私に言葉を投げかけた男は、未だ納得してはいないようだが、私はそれ以上答える気はなかったのでさっさと踵を返して背を向けた。
それから、偶然の出会いで知り合った男たちは、しっかりと血やら泥やらの汚れを落とすと、各々戸惑いながらも私に名を告げ感謝の意を示した。
彼らは赤の義賊と呼ばれる集団だそうで、各地に散らばる盗賊団の一角だそうだ。
口調は荒々しい面々だが、その見た目に似合わず生真面目な態度に、内心笑ったのは秘密である。
「ここから北を真っ直ぐ抜ければ、国境の砦に向かう道に出る。」
おそらく、このまま彼らの勘だけで森を抜けるのは不可能だ。
この森は帝国の馬鹿どもが手を出せないほど深く、異常な進化を遂げた獣や魔力を持つ魔獣も多い。
装備の無い少数の人間が森を抜けるのは不可能だと思われた。
「おい!」
声を上げたのは、突然の私の行動を見たバルドだ。
私は鋭くした爪で自分の指を切りつけ、ぷくりと溢れた血液を反対側の手に落とす。
一瞬私の手を離れたその血は、丸い結晶となってころりと掌に転がった。
「バルド。」
「おう?」
その様子を訝しげに見ていた面々に苦笑しつつ、紅い塊をバルドに差し出す。
つられるようにそれを受け止めたバルドが、真珠ほどの大きさのそれを大きな掌で転がしながら首を傾げていた。
「私の血は、この森のどの獣よりも強い。それを持っていれば、大抵の獣は近寄ってこない。」
「へえ!便利だな、もらっていいのか?」
「構わないが…それだけか?」
血が宝石のように固まるなど、明らかに人ではないと解るだろうに。
戸惑いもなくそう答えて血の塊を握りこむ男に、こちらが驚くばかりである。
事ある毎に警戒を促していた男――クラウスというらしい――すら、既に諦めたのか、自分の武器を確認しながら呆れたように溜め息をついていた。
「他に何かあるのか?」
質問を質問で返され、言葉につまった私は、何でもないと首を横に振るしかなかった。
顔を見た当初はあれほど警戒していた男が、今ではすっかり状況を受け入れている。
大物なのか、それとも余程の大馬鹿者なのか。
こんな気のいい奴らが頭目と慕っているのだ、おそらくその両方なのだろう。
「森を出たら、それは不要の長物。火にくべて燃やせ。」
邪魔にはならないだろうが、特に必要の無いものだし、人外の血など持ち歩いても気持ちのいいものではないだろう。
魔力の混じる結晶体なので、多少の衝撃にはびくともしない私の血の結晶だが、私自身が火に弱いからか、普通の炎にくべれば一瞬で灰になる。
まぁ好きにすればいい程度の気持ちで渡したものだし、実際どうでもいいのだが。
そう説明すれば、バルドは少し悩むような素振りを見せつつ口を開いた。
「捨てなくてもいいのか?」
「好きにしろ。」
「そうか。わかった。」
ぎゅっと握りこんだそれを、どこから取り出したのか、図体に似合わない小さな巾着にしまいこんだバルドは、大事そうに胸のポケットへとしまった。
これで、対獣や魔獣に関しては問題ないだろう。
「気をつけて。」
方位磁針を片手に背を向けた男たちにそう声をかければ、彼らは口々に感謝を述べながら颯爽と場を後にした。
きゅう、と首元で小さな声を上げながら、ノーラがするりと尾を揺らす。
「そうだな、帰るか。」
久々に見た人間たちは、荒っぽい男たちだったものの、好感の持てる者たちだった。
先ほどまでの喧騒を思い少しの寂しさを感じながらも、誤魔化すようにノーラを一撫でした私は、踵を返して根城へと足を向けた。
それがおよそ三日前のことなのだが。
「何だこの肉、すっげぇ美味ぇぞ!!」
「…どうしてこうなった?」
私の根城でがっつくように焼いた肉を頬張るのは、今朝方例の湖に沐浴に出たところ何故か居合わせたバルドである。
きらきらと目を輝かせて感動するのはいいが、この男はここがどこだか解っているのだろうか。
「おい、何でここにいる?」
先ほどから何度か繰り返した問いを、再度投げかける。
綺麗に骨だけとなった残骸を行儀悪く舐りながら、無精髭を油で光らせた男がこちらを見上げた。
「会いに来た。」
きっぱりとそれだけ言い放ち、カランと骨を放って皿に盛ってある次の肉をがしっと掴む。
再び始まる壮絶な食事に、己の“最初の食事”を思い出し思わず眉を顰めた。
「だから、何故だ?」
胸やけに似た感覚を誤魔化すように更に問う。
「会いたかったから。」
「……。」
これが、膝を突き合わせ手に手を取って囁かれた言葉なら、幾分気分も変わるのだろうが。
いかんせん、骨付き肉にかぶりつき油を滴らせながら言われても、である。
言葉の割りに情緒の欠片もない男に、私は大きな溜め息を零した。
まぁ、そのうち飽きて帰るだろう。
幸い、ここには盗賊の好きな金銀財宝も宝石も無く、男の好奇心を満たすような話題も情報も何も無い。
あまりに居座るようならば、私の正体を明かし嚇して追い払うのも手かもしれない。
そう高を括った私は、再びわざとらしく大きな溜め息を吐くと、そろそろ空っぽになる男の皿に食料を追加すべく席を立った。
このとき、全てを安易に楽観し男の好きにさせたことを、後に私は激しく後悔することになる。
ちょっとした設定(短編に書ききれなかったものが含まれます)
■ミハエル・ヴェラ・ボルドリーニ ♀ 享年21 168cm
某王国第一王子、王となるべく男として育てられたが列記とした女性。王太子として立ち戴冠式まであとわずかというところで王妃の企みにより国は滅亡、王家の血筋として処刑される。
勝気で明るく前向き、責任とか義務をしっかり弁えたちょっと頑固で面倒くさい性格をしているが、情の厚い世話焼き。
生前:黒髪ストレート(母似)茶眼(父似)日焼け気味の肌(日頃の鍛錬の産物)
魔物時:黒髪ストレート赤眼色白、尖った耳、牙が特徴。食事は動物の血でも大丈夫なのでたまに狩りをしている。魔力高い方が美味し。
【赤の義賊】
拠点ごとにそれぞれが動き回る義賊団。主に金持ち狙い。
頭目―直属の兵隊(7人)
―各隊長(1~7)―それぞれの兵隊
■バルド ♂ 36歳 197cm
本名アレクシス・バルディン・ザカ・グライアス。
グライアス侯爵家の長男として生まれたものの、妾腹だったため相続権を早々に辞退して家を出た。その後も正妻から命を狙われ続け、16のときとうとう殺されかけたところを当時の赤の義賊頭目に拾われ義賊団に入る。その時に自らの名も家名も捨て“バルド”として生きることを決意する。それから20年、現在は三代目赤の義賊頭目として精力的に活動中。元々大雑把で豪胆な性格から貴族よりもこっちの方が性に合っていた模様。
ごわごわ茶髪オオカミヘアー空色の眼、日焼け肌筋骨隆々ムキムキマッチョの髭オヤジ
■クラウス・ハーク ♂ 35歳 174cm
参謀、おかん、苦労症。普段はですます調だが感情が昂ると口が悪くなる。バルドの幼馴染、なので侯爵家時代からの仲で、ずっと面倒見てきた。頭が良く手回しやら謀が得意。他人にとことんまで厳しいが身内にはドロドロに優しい。でもドS的愛情表現なのでなかなか理解してもらえない。幼い頃から猪突猛進なバルドに苦労させられてきた模様。
キラキラブロンド(濃いめ)のゆるいウェーブを一つに束ねた髪、緑交じりのグレーの瞳、スレンダーの細マッチョ、上位魔術師
■マルク ♂ 18歳 双子兄 細マッチョちび 魔術師165cm
■マルコ ♂ 18歳 双子弟 ゴリマッチョ 特攻178cm
■ウード ♂ 41歳 ご意見番 ゴリマッチョ身長2m超え
■トルゲ ♂ 31歳 ざる、のんべ、ビールっ腹
■オリバー ♂ 29歳 タラシ 普通のマッチョ 上位魔術師
■ニコ ♂ 14歳 だいたい雑用 もやし弓専門 上位魔術師(回復専門)