雷神様の怠惰な一日
会話分のみのお話となっております。
「雷神様ー!雷神様ー!」
「……」
「雷神様!!雷神様ってば!!起きてください!」
「…んだよもう。うるせぇな」
「雷神様、仕事してください!!もう夏も後半なのに、今年一度も雷落としてないじゃないですか!」
「やだよめんどくさい」
「駄目です!ほらはやく!!」
「ええ~、いいじゃん、明日落とす明日落とす」
「明日は晴れです!雨の神様の予定表、ちゃんと持ってますよね!」
「ああ~…多分そこの冷蔵庫に貼ってると思う」
「まったくもう…って、ないじゃないですか!予定表、冷蔵庫にありませんよ!」
「え、うそ?まじ?」
「まじです!」
「あー…そこのコルク板に貼ってない?」
「連絡網しか貼ってないです!」
「ああ、まじかー……まぁいいや、今度雪の神にもらいに行くわ。あいつ今シーズンオフだろうし」
「そういう問題じゃありません!!」
「うるさいなぁ……じゃあ探してよ、多分その辺に散らばってるから」
「なんで私が探さなくちゃならないんですか!!とにかく、今日の分落としてきてください!!」
「……ほら、あれじゃない?たまには雷のない夏とかも良くない?」
「良くないです!!あ、こら、テレビをつけるな!!」
「んだよ、平和でいいじゃん…あ、ドラえもんやってんじゃん」
「駄目です、そういう仕事なんです!ってかいい年こいて何見てんですか!」
「うわ、お天気ボックスまじ便利じゃん。ほっしいわぁ~」
「こら!現実逃避しないでください!!ほら、はやく雷落としますよ」
「ええ~、停電とかなったらテレビ消えちゃうじゃん」
「雷神がなんの心配してんですか!!おりゃ!」
「あ、消すなよ良いとこなのに!!」
「大体オチは知ってるでしょう!」
「知ってるけどさぁ~」
「ほら、はやく外出て!太鼓叩いてください!」
「やだよ、なんでまたこのくそ暑い時期に」
「積乱雲が出来やすいからです!」
「わかった。冬落とす。冬落とすから」
「冬に雷なんて滅多にないです。ってかそれでも夏に一度も落とさずにいて良いわけないでしょ」
「もう、へそは取り飽きたよ…」
「へそなんかとらなくてもいいです」
「ああもう……分かった分かった、落とす落とす」
「まったく……最初からそうしてください」
「じゃあいくぞ……」
「え」
「ばっかもーーーーーーーんん!!!」
「私に雷落としてどうすんですか!!」
「ああ、だりぃ……まじだりい…」 どん、どん、パチ、パチ
「ほら、もっと強く叩いてください、そんなんじゃ静電気しか起きてません」
「もういいじゃん、それで……」 どん、どん、パチ、パチ
「ダメです!!!ほら、どかんと一発!!」
「……」どん
「雷神様?」
「……」
「雷神様?どうしたんですか、ほら、はやく叩いてください」
「なぁ」
「はい?」
「俺ってさぁ、必要かな?」
「は?」
「いや、雨の神は洪水とかも起こすけど、雨の恵みとかもたらすじゃん?風の神だって竜巻だすけど、涼しくもするじゃんか。で、人間たちに感謝されたりもするだろう」
「まぁ、そうですね」
「でも、俺ってそういうのなくないかな?雷落として、被害だけ出して」
「……」
「なんか、そういうの考えると、やる気ってのも出なくなっちゃうよな」 どん、どん、パチ、パチ
「……」
「……」 どん、パチ
「それでも」
「ん?」
「それでも、必要なんですよ、あなたは。確かに、恵みはもたらさないかもしれません。被害だって出します。それでも、あなたの雷は、時に人々に畏敬の念を与え。時に芸術性の象徴にも成り得る。目に見える恵みではなくとも、人々の心に何かを与えるんです。心を揺さぶることが出来ます。だとすれば、それは決して無駄なことではないですよ」
「……」
「まぁ、それに、かっこいいじゃないですか、なんか。電光石火ともいいますし」
「……」
「ね?」
「…かもな」
「てなわけで、はい、一発お願いします」
「だりぃなぁ……」
「はいはい、一発で良いですから。でかいの一発だけお願いします」
「はぁ…、しゃあねぇか」
「仕事です」
「はいはい……んじゃ、行くぞ?」
「はい」
「……おおおおりゃあああ!!!」
バンッ!!!
ダアーーーーーーーン!!!!
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