其の部、ようやく始まったものなり 3ページ
「とりあえず、説明して欲しい」
灯が溜息をつく様に言った。その前で、おっとりとした人が座っている。どこかの面接か。
「説明?あの、ここ文芸部ですよね?」
少し困った様な表情をして、俺を見る。正直、俺を見られても困ります。
「確かにここは文芸部だが……まさかお前、入部希望者か?」
灯が聞くと、彼女は文芸部と分かって安心したようで、
「はい。一年三組、木茎葉 香織と言います」
と笑顔で言った。てか、同じ一年生なんだ…落ち着いているし、話し方とか丁寧だから、歳上と思ってた。
一方、灯も入部希望者と分かって、香織さんを受け入れたようだ。
「そうか、ならば歓迎しよう。山陰君、今日は凄いぞ。なんせ新入部員が二人入ったのだから」
「二人?」
さっき灯が連れていたあの子だろうか。そういやどこに行ったんだ?
「紗良、自己紹介してくれ」
すると、机の影からぴょこっと、灯が連れてきた少女が顔を出した。そんなとこにいたのか。
「一年五組、原田 紗良。この部、入る」
そう言って腕を組む紗良。ぶらっきぼうにしてるのではなく、子供が大人の真似をしている様に見えるのは何故だろう?
「ところで灯。お前原田さんと知り合いなのか?」
俺が聞くと、灯は眉をわずかに動かした。そして少し俯いて、顔をあげた。
「ああ、紗良とは同じクラスでな、いつも楽しく笑っているのに部活に入ってないと言うから、誘ったんだ」
そうい言われて、俺は紗良を見た。いや、紗良といきなり呼び捨てなのはやっぱりどうなのかな…まぁいいか、心の中でだし。
「後一人で文芸部は正式な同好会になれる。だがその前に、せっかく入って来てくれた二人を歓迎する。山陰。そこの棚から菓子を取り出せ」
そう言われて俺は棚に近づく。すると上段の方に、見た事ある袋が見つかった。
「灯、お前部室に菓子持ち込んでいたのか?」
俺は、菓子を棚から取り出しながら、灯に聞いた。
「時々な、本を読み疲れた時などにつまんでいる」
灯はそう答えながら、香織さんから入部届けを受け取っていた。そういや俺の時も入部届けを集めていたが、顧問のいない文芸部は、一体誰に提出するのだろうか?
「お菓子、美味しそう」
机の上に菓子袋を広げると、紗良が目を輝かせて言った。菓子が好きなのだろう。早速スナック菓子の封を開けている。香織さんも、お菓子に興味を示している様だ。
「勢いが良いな。ところで山陰、部の活動ってどんな事を書けばいいんだ?」
「はい?」
俺は素っ頓狂な声をあげて灯を見た。
「ほら、ここに活動内容とその目的と書いてあるのだが、よく考えたら何を書けばいいのか……どうすればいいと思う?」
と言って灯は俺に 新規部活動制作報告書 と書かれたを見せる。
「お前、この前文芸部は本を読んだり書いたりする部だって言ってたじゃんか」
俺がそう言うと、灯は
「それだけでは…」
と、少し不安そうな顔をする。俺は頭をかいて、
「じゃあ俺が適当に書いておくから、その紙くれよ」
と言って灯の手から紙を奪い取った。灯はハッとして、俺の方を見たが、何も言えなかった。何故かと言えば、灯が口を開こうとした時、紗良が
「お菓子、無いの?無くなった」
と言って来て、話が途切れたからである。
「「はい?」」
俺と灯は、驚いて机の上を見る。
全部で五袋ぐらいあった菓子は、全て空。ただのプラスチックゴミになっていた。
キーンコーンカーンコーン
その時、下校時刻を告げるチャイムが、学校全体に鳴り響いた。
俺と灯は、ただただポカーんとした表情で、固まっていた。