其の部、ようやく始まったものなり 2ページ
授業が全て終わると、再び誠人が問いただして来た。こいつは俺の答えに納得してない様で、いい加減しつこい。
「だから、どうやって日之道さんに取り入ったんだよ」
「しらねぇよ。扉開けたら入部させられたんだから」
「どうやって入部させられる程親しくなったんだ?」
さっきからこんなんがずっと続いてる。ああ、ウザい。もうやめてくれ。そう思った時だった。
廊下の方が騒がしいと思ったら、話題の中心人物、日之道 灯が顔を出した。
「山陰君はいるか?」
灯は教室の入り口に立ち、俺を呼んだ。
そして俺に集まる視線。この凍てつく吹雪の様な視線が、誠人の言っていた事の裏付けに思える。
俺が近づいていくと、灯は微笑み、
「私は今日少しよるとこがあるから、部室の鍵を渡しておこう」
そう言って俺に鍵を投げた。よるところ?どこかに用事があるのか?あと今私って言わなかったか?
とにかく俺は鍵を受け取り、背中に刺さる目線から逃れる為に、真っ直ぐ部室に向かう事にした。
部室について、俺は何もする事が無かった。文芸部と言っても、この部屋には本が一冊も無い。俺には灯が来るまで何をしようか悩み抜いた挙句、椅子に座ってただじーっと待つ事にした。
椅子に座りながら、俺は改めて部室を見渡してみる。入り口は、古めかしい、校長室として使われていそうな扉。だが部屋全体はそんなに広くは無く、大体六畳程度だろうか。いや、もう少し広いか。
部屋に置かれている物は、意外と数のある会議用の長机。パイプ椅子も、部屋に広げられていないだけで、壁に沢山もたれている。
そして壁際に、この部室内で最も目立つ、こちらもまた古めかしい、大きな木製の棚がある。灯がに何をいれているのかは知らないが、どの引き出しを覗いてみても原稿用紙や部活動に必要な物しか詰まっていないんだろう。きっと
俺が椅子に座ってただぼーっとしている時だった。不意に、部室のドアをノックする音が聞こえた。灯が用事とやらを終えて来たのだろうか?そう思って扉を開けると、そこには、いかにもおっとりとした女性が、柔らかな笑みを浮かべていた。
「こんにちは、文芸部に入りたいのですが」
肩を超えている程度のセミロングの髪を揺らしながら、その人は言った。
「あの…?」
俺がしばらく動けないでいたので、その人は、困った様な顔をして、俺を見てくる。
「あ。すみません。どうぞ中に。」
我にかえった俺は廊下で立たせてはマズイと思って、彼女を中に招き入れた。その人は「はい。」と笑顔で言って、中に足を踏み入れる。そして俺が差しだした椅子に座ると、
「ポスターを見たんです」
と言って来た。ポスターとはビラの事だろう。…あんなもんで本当に人が来るんだなー。なんて感心していると、
「山陰君。遅くなってすまな…」
灯がやって来た。俺はこの入部希望者の事を話そうと灯の方を見て、固まった。
何故か、それは灯の横に、短く、でも綺麗な髪をした女の子がいたからだ。
灯も固まっていた。俺しかいないと思っていた部室に、穏やかそうな人がいたのだから。
完全にフリーズした俺達。
「こんにちは。」
「こ、こんにちは…」
そんな中、入部希望者達は、お互いにあいさつをしていた。