その紙、大切なものなり。
どうも、石本です。
前回が夏休みの話だったから、今回から二学期の話かな? と思っていましたが、思いついた話はまだ夏休みです。
これじゃ夏休みが終わるのに一年かかりそう。と密かに不安を抱いています。
そうならないように一生懸命書きますよ。頑張って行こうじゃないか!
耳に届く、軽快にボールが跳ねる音。バッシュが体育館の床を捉える音。沸き立つ歓声。チームの掛け声。必死の応援。青春の物音。
街と街との境目にある保灯花山高校の体育館で行われているバスケットボールの練習試合を、俺は二階から竹内と共に観戦していた。
練習試合と言っても、選手の動きを確認する為に行われるものなので、最終クォーターにもなれば一年生でも試合に出る。
俺と竹内は、その一年生の誠人と和哉の応援にきていた。
応援と言っても、派手に声を張り上げたりはしない。花山南高校の選手に軽い声援を送り、ゴールに入ったら拍手して、サムズアップを取るだけだ。
「そのサムズアップには何か意味があるのか?」
こちら側に得点が入り、再び俺がコートに向かって親指をつきたてていると、隣にいた竹内が不思議そうに訊いてきた。
「別に。ノリでやってるだけだ。一生懸命な爽やかスポーツマンには、笑顔で手を降るより、こっちの方が良いと思っただけだよ」
実際、先輩らしい人達ですらこっちに親指つきたてて来るからな。
「成る程。じゃあ俺だったらどうする?」
竹内はバスケットコートから目を逸らして訊いてきた。
坊主頭を長くしたような黒髪は、そろそろ重力と言う物を感じてきているらしい。少し垂れてきている。
そんな竹内の頭に目を奪われつつも、俺は平坦に返した。
「近くに居るならハイタッチ。遠くに居るなら会釈」
「距離でテンション変わりすぎだろ……じゃあ、お前が最近楽しんでいる文芸部の人達なら?」
「……近くても遠くても、片手を上げる程度かな」
「んな昔のよしみに会ったみたいな反応だな」
昔のよしみ。ねえ。
「そうじゃなくて、あいつらがテンション高くハイタッチしてきそうに無いんだよ。むしろ、そんな事をしてきたら誰かが変装してるんじゃないかと疑う」
香織はハイタッチしようと手を上げても、小さく手を上げるだけだろう。灯は変な物を見るような目で俺を見た後、手の事は無視して話し掛けて来るだろうな。紗良の場合は……ハテナマークを浮かべたような顔をして、手を合わせて来そうだ。
やっぱり、ハイタッチは灯達には無理だな。
そんな事を考えていると、甲高い笛の音が響いた。
「おーおー。負けちまったか。龍夜、帰ろうぜ。誠人達はこの後部のミーティングとかがあるだろうからさ」
竹内はそう言って、客席の出口に向かって歩き出した。あいつにとってはバスケットボールの試合も文芸部の話も、そこまで興味があったわけじゃないらしい。多分、「知り合いがやってるから冷やかしに来た」程度の事だ。
文芸部の事を俺に振って来たのは、ただ話題を振って来ただけだ。きっと。
「竹内」
だから、体育館から出たところで俺は前を歩く竹内に声をかけた。
「ん?」
竹内は自然に振り返る。
「お前……この夏休み何かするのか?」
振り返ったやつに向かって、ゆっくりと問いかける。なんとなく気になって、何をしていたのか気になって。
「夏休みか? そうだな……いつもと変わらないだろうよ。特別な事をすると言ったら、知り合いがやるって言うコンサートに行く事ぐらいだな」
竹内は、綺麗に晴れた空を見上げながら言った。
校庭の方では、数人の生徒が集まって何かをしている。サッカー部などのクラブは今日は活動していない様だが、あの集団は一体何をしているのだろうか。まぁ、気にする事じゃない。
「で、そう言う龍夜はどうするんだ? 夏休み」
校庭の集団に視線を引っ張られていると、竹内がさっきの質問をそのまま俺に返して来た。俺たちの足は、自然と保灯花山高校の校門へと向かって行く。
校庭の集団から目を離した俺は、ふっと短く息を吐いてから言った。
「そうだな。 部活でもう合宿をしてしまったから、後はのんびり宿題を片付けるよ」
「なんだ。お前も似た様な物じゃないか」
「全然違うよ」
少なくとも俺は合宿って物をした後だからな。
「そうかよ。ところで龍夜、お前はこの後どうするんだ?さっき言ってたみたいに宿題でもするのか?」
一足、本当に一足先に保灯花山高校の敷地から市道に出た竹内が、振り返ってそう言った。
「まぁな。今から図書館にでも行くつもりだ。お前は?」
「俺はこれから帰って寝る。宿題ももう片付けたし、適度に勉強しながらのんびり過ごすよ。じゃあな」
「おう」
そう短く言葉のやりとりをした後、竹内は駅に向かって、俺は駐輪場に向かって歩き出した。ポケットに手を突っ込んで自転車の鍵を探りながら、俺は奴らと文芸部の人達を思い浮かべた。
誠人達は、友達だ。灯達は、友達とはちょっと違うな。でも、明らかに他人じゃない。
昔馴染みと言うかなんと言うか、微妙な感覚なんだよな。