表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/51

その紙、大切なものなり。

どうも、石本です。

前回が夏休みの話だったから、今回から二学期の話かな? と思っていましたが、思いついた話はまだ夏休みです。

これじゃ夏休みが終わるのに一年かかりそう。と密かに不安を抱いています。

そうならないように一生懸命書きますよ。頑張って行こうじゃないか!

耳に届く、軽快(けいかい)にボールが跳ねる音。バッシュが体育館の床を(とら)える音。沸き立つ歓声。チームの掛け声。必死の応援。青春の物音。

街と街との境目(さかいめ)にある保灯花山高校(ほとぼしはなやなこうこう)の体育館で行われているバスケットボールの練習試合を、俺は二階から竹内(たけうち)と共に観戦していた。

練習試合と言っても、選手の(うご)きを確認する為に行われるものなので、最終クォーターにもなれば一年生でも試合に出る。

俺と竹内は、その一年生の誠人(まさと)和哉(かずや)の応援にきていた。

応援と言っても、派手に声を張り上げたりはしない。花山南高校(はなやまみなみこうこう)の選手に軽い声援を送り、ゴールに入ったら拍手して、サムズアップを取るだけだ。

「そのサムズアップには何か意味があるのか?」

こちら側に得点が入り、再び俺がコートに向かって親指をつきたてていると、隣にいた竹内が不思議そうに訊いてきた。

「別に。ノリでやってるだけだ。一生懸命な爽やかスポーツマンには、笑顔で手を降るより、こっちの方が良いと思っただけだよ」

実際、先輩らしい人達ですらこっちに親指つきたてて来るからな。

「成る程。じゃあ俺だったらどうする?」

竹内はバスケットコートから目を逸らして訊いてきた。

坊主頭を長くしたような黒髪は、そろそろ重力と言う物を感じてきているらしい。少し垂れてきている。

そんな竹内の頭に目を奪われつつも、俺は平坦に返した。

「近くに居るならハイタッチ。遠くに居るなら会釈」

「距離でテンション変わりすぎだろ……じゃあ、お前が最近楽しんでいる文芸部の人達なら?」

「……近くても遠くても、片手を上げる程度かな」

「んな昔のよしみに会ったみたいな反応だな」

昔のよしみ。ねえ。

「そうじゃなくて、あいつらがテンション高くハイタッチしてきそうに無いんだよ。むしろ、そんな事をしてきたら誰かが変装してるんじゃないかと疑う」

香織(かおり)はハイタッチしようと手を上げても、小さく手を上げるだけだろう。(あかり)は変な物を見るような目で俺を見た後、手の事は無視して話し掛けて来るだろうな。紗良(さら)の場合は……ハテナマークを浮かべたような顔をして、手を合わせて来そうだ。

やっぱり、ハイタッチは灯達には無理だな。

そんな事を考えていると、甲高い笛の音が響いた。

「おーおー。負けちまったか。龍夜、帰ろうぜ。誠人達はこの後部のミーティングとかがあるだろうからさ」

 竹内はそう言って、客席の出口に向かって歩き出した。あいつにとってはバスケットボールの試合も文芸部の話も、そこまで興味があったわけじゃないらしい。多分、「知り合いがやってるから冷やかしに来た」程度の事だ。

文芸部の事を俺に振って来たのは、ただ話題を振って来ただけだ。きっと。

「竹内」

だから、体育館から出たところで俺は前を歩く竹内に声をかけた。

「ん?」

竹内は自然に振り返る。

「お前……この夏休み何かするのか?」

振り返ったやつに向かって、ゆっくりと問いかける。なんとなく気になって、何をしていたのか気になって。

「夏休みか? そうだな……いつもと変わらないだろうよ。特別な事をすると言ったら、知り合いがやるって言うコンサートに行く事ぐらいだな」

竹内は、綺麗に晴れた空を見上げながら言った。

校庭の方では、数人の生徒が集まって何かをしている。サッカー部などのクラブは今日は活動していない様だが、あの集団は一体何をしているのだろうか。まぁ、気にする事じゃない。

「で、そう言う龍夜はどうするんだ? 夏休み」

校庭の集団に視線を引っ張られていると、竹内がさっきの質問をそのまま俺に返して来た。俺たちの足は、自然と保灯花山高校の校門へと向かって行く。

校庭の集団から目を離した俺は、ふっと短く息を吐いてから言った。

「そうだな。 部活でもう合宿をしてしまったから、後はのんびり宿題を片付けるよ」

「なんだ。お前も似た様な物じゃないか」

「全然違うよ」

少なくとも俺は合宿って物をした後だからな。

「そうかよ。ところで龍夜、お前はこの後どうするんだ?さっき言ってたみたいに宿題でもするのか?」

一足、本当に一足先に保灯花山高校の敷地から市道に出た竹内が、振り返ってそう言った。

「まぁな。今から図書館にでも行くつもりだ。お前は?」

「俺はこれから帰って寝る。宿題ももう片付けたし、適度に勉強しながらのんびり過ごすよ。じゃあな」

「おう」

そう短く言葉のやりとりをした後、竹内は駅に向かって、俺は駐輪場に向かって歩き出した。ポケットに手を突っ込んで自転車の鍵を探りながら、俺は奴らと文芸部の人達を思い浮かべた。

誠人達は、友達だ。灯達は、友達とはちょっと違うな。でも、明らかに他人じゃない。

昔馴染みと言うかなんと言うか、微妙な感覚なんだよな。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ