表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
44/51

其の一ヶ月、夏休みなり! 16ページ

和菓子屋の中身は、小ざっぱりとした御店だった。入り口から少し離れた所に、カウンターとショーウィンドー。その場で食べれる様にか、店の隅には小さな椅子とテーブル。店の裏で実際に菓子を作っているのか、香ぱしい匂いがする。

「いらっしゃい」

人の良さそうな顔したおじさんが、カウンターの向こうから声を掛けてくる。なんでか知らんが、ねじり鉢巻が坊主頭に巻き付いている。

「種類、いっぱい」

「そうだな。団子だけでもこんなに種類があるとは驚いた。取り敢えず、この三種の団子を一本づつ」

「あいよ」

 そんなおじさんに向けて、紗良と灯が早速注文を出していた。二人の前のショーウィンドには、色とりどりの団子があった。白いやつ、緑のやつ、桜色をしたやつ、あんこが乗っかっているやつ……。

 注文を受けたおじさんは、それらの団子をカウンターの向こうからとっていき、茶色の(多分このお店オリジナルの)紙袋に詰めた。

「はい、470円」

差し出された紙袋を、笑顔で受け取る灯と紗良。そんな二人を見ていると、俺も何か欲しくなって来た。

ショーウィンドに近寄って、菓子を眺めてみる。ここには上生菓子が飾られている様で、綺麗な色をした花をかたどった菓子が置いてあった。なんか、食べるのが勿体無い気がした。

綺麗なお菓子は見ているだけでも楽しいのだが、やっぱりお菓子は食べてこそ。視線を上生菓子からずらした。

菓子にも色んなものがあるんだな。そんな事を考えながら品物を見ていると、さっきから一人、店の入り口に佇んでぼーっと外の方を向いている人物が、ウィンドに映った。

「……………」

ふぅ。短く息を吐き出し、立ち上がる。そして体を反転させて、ぼーっとしている彼女に近づいた。

「香織、何してんだ?」

「えっ?」

話しかけた瞬間、香織は飛び上がる様にして驚いた。別に、不意を突こうとした訳じゃないんだけどな……。

「あ、いや、さっきから上の空で居るもんだからよ、どうしたのかと思って」

そんな反応に驚きつつも、俺は香織にきいてみる。

「え、あの、その……少し、気が抜けていて……」

苦笑いを浮かべながら、香織は曖昧に答えた。外にぼーっと目をやっていて、気が抜けていたのか。

そう思っていると、香織は髪を後ろに払い、何事も無かったかの様に俺に尋ねてきた。

「それよりも、龍夜君は何か買わないのですか?お菓子」

「えっ?」

「お菓子ですよ。お菓子。灯さん達はもう食べ始めていますが、龍夜君は買わないのですか? と」

いつもと変わらない感じで話しかけてくる香織は、そう言いながらショーケースに近づき、腰を落として売り物の菓子を眺めていく。顔は大きな箱の前で固定だ。

ふと、視線をショーケースから上の方に向けていくと、坊主頭のおっちゃんの頭越しに、一枚のポスターが貼ってあった。

「……あの、すいません」

ポスターに目を向けながら、俺は鉢巻巻いたおっちゃんに向かって言葉を出す。

「あい、なんでしょう?」

「ここ……アイス売ってるんですか?」

「ええ、売ってますよ」

「じゃ、下さい」

「200円」

おっちゃんにそう言われて、財布から百円玉を二つ出す。今は夏だから暑い。暑いから、冷たいものが食べたくなる。そんな時に見つけたアイスのポスターは、俺の心をぐいと引き寄せた。

「私はこの大箱とお饅頭。後、同じ様にアイスを」

「あいよ。嬢さんは二千二百三十円だよ」

隣で香織も注文する。菓子屋のおっちゃんは、先に大箱と饅頭を袋に入れると、ショーケースの向こうから香織に手渡した。そしてその後、ちょっと待っててねと小さく言って、店の奥に入って行った。

「そう言えば、アイスの味を言ってませんでしたね。大丈夫なのでしょうか?」

おっちゃんが店の奥に消えてから、香織がはっとした様に呟いた。確かに、おっちゃんはアイスの味を聞かずに行ってしまった。……まぁ、味を指定しなかった俺も俺だが。

しかしどうしよう。もしもミント味が出てきたらどうしよう。俺、アイスのミント味だけは苦手なんだよな。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ