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其の一ヶ月、夏休みなり!13ページ

「どこに行ってたって……顔洗って来たんだよ。外の冷水で」

若干の怒りを混ぜた声で、俺は灯に向かって言った。着替えを済ました灯は、青のTシャツにチェックのフード無しパーカー、そしてシンプルなジーンズだ。山の涼しさからか虫対策からか、薄い生地だが長袖長ズボンである。

「それよりも、お前達が普通に鍵開けたまま着替えていた方がびっくりだ」

どうしてなんだ?と灯に尋ねる。灯は腰に手を当てて、見上げる様にして答えた。

「朝起きてみたら龍夜の姿が無かったのでな。御手洗いにもいないし、じゃあ今のうちにと言う事だよ」

「そうか。でも鍵の開けっ放しは無いだろ。俺がノックしないで入って来たらどうするつもりだったんだ?」

「その時は、龍夜の顔を何度となく殴っていただろう」

堂々言った。殴ると言った。真顔で言った。

「ひっでぇな!」

思わず俺はそう言った。鍵を掛けなかったのはお前らだろう。その時は不可抗力と言ったって良いはずだ。

だが灯は涼しい顔でスルーすると、周りに向かって冷たい声で言いやった。

「とりあえず、龍夜も着替えておけ。せっかく山に来たと言うのに、宿屋の中にこもっていてはもったいないからな。朝ごはんが済んだら、森を歩こう」

………………

…………

……


……

…………

………………

「で、森を歩くと言ったって、どういう風に歩く予定なんだ?」

 朝食を食べ終わった俺達は、現在、旅館ととのいの入り口のところに集まっている。もう既にひぐらしの声は聞こえなくなり、代わりにミンミンゼミがうるさく鳴き、だいぶ日差しも強くなった頃である。

「そうだな。まずはこの旅館の裏側に回ってみよう。芦屋公園の時みたいに散布コースがあるかの知れないし、そうでなくとも獣道くらいはあるだろう」

やっぱりその服装は、最初から山道を歩くつもりだったんだな。

他の二人も、うすうす勘付いていたのか、それとも灯の指示なのか、長袖長ズボンで固めている。

「しかし、また散歩か?何と言うかこう、芸がないっていうかさぁ」

 怒られるかもしれないし、グチグチなにか言われるかもしれないが、俺は灯に向かって言う。

「ふむ、いつもと違った感覚を味わうには、自然の中を歩くのがいいと思ったのだが……確かに、ただ歩くだけでは芸が無い」

「じゃあ、どうする?」

「文芸部の活動なんですから、こういったのはどうでしょう?山道を歩いて行って、見ていった景色の感想を、本の描写みたいに語る。というのは。

 どの景色を見て始めてもいいですが、その際、一人称で語るか三人称で語るかは、発案者が決める。全員が語り終えたら、多数決で、一番優れている人を決めます」

 街を歩いて、気に入った景色を片っ端から書いていく絵描きみたいなことをするのか。しかも最後に、みんなで多数決を取る。自分の描写がその場で評価されるから、結構いい案かもな。

「ところで香織、念の為に聞くけどさ、自分に票を入れるのは……」

「ナシですよ」

 香織は優しい顔で、見事なウィンクをしながらそう言った。

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