其の一ヶ月、夏休みなり!12ページ
っふぅ~サッパリした~。
朝、気持ち良く冷水で目を冷ます事に成功した俺は、再び207号室に向かっていた。時間はまだ六時頃で、旅館の外もヒグラシが鳴いている。
ヒグラシの鳴き声は、だいぶ夏らしい。
いや、ミンミンゼミやアブラゼミも夏らしいが、ヒグラシの鳴き声は、何処か懐かしく感じる物がある。カナカナと切なく響く朝の音色は、一時的に頭の思考を取り払う。
そんな事を思いながら歩いていると、何時の間にか207号室の前に来ていた。
ーーーー灯達はもう起きているのだろうか?それともまだ寝ているのか。取り敢えず俺は、一応ノックをした。
「龍夜君ですか?」
ノックをして暫くすると、中から香織の声がした。
「ああ。起きたのか?」
俺は部屋の中に向かって言いながら、ドアノブに手をかける。
「はい。後、灯さんと紗良さんと、今着替えているので、暫くは部屋の中に入らないで貰えますか?」
……間一髪。ドアノブを捻り、扉開けようとしたその時、俺の耳に香織の声が届いた。
あっぶねぇ。めっちゃ危なかった。もし香織の忠告が遅れていたら、俺は文芸部の女子三人から、身体中が赤く成る程のスタンプを頂戴する所だった。……上手く行けば三人からは貰わないかもしれないが、灯からは確実に食らうだろう。
俺はドアノブから手を離し、ドアに背中をもたれた。そして、疲労感と安堵と呆れを乗せた溜息を、大きく吐いた。
腕を組んで、窓の外に目を見やる。緑に映えた森林が、静かにそこに佇んでいる。目に見える範囲でも、小鳥が何羽か木に止まっているが、森林は気にしない。
「あの……もう、大丈夫ですよ」
そんな事を考えていると、部屋の中から香織の声が聞こえた。
「ん」
俺は短く返事をして、ドアノブを捻った。カチリと、以外に静かな音で扉は開き、
「龍夜、ところでこんなに朝早く、一体どこに行っていたのだ?」
着替えを済ませた三人の姿を、俺に見せてくれた。