其の一ヶ月、夏休みなり!11ページ
適当に始めた大富豪。結局みんな夢中になり、部屋におかれた固定電話に、「食事の準備が出来ました」と連絡が入るまで続いた。
「食事の準備が整った様だ。龍夜、紗良、後どの位で終わる?」
電話を受け取った灯が、ビリ争いをしていた俺と紗良に問い掛けてきた。
「今」
紗良が手に持っているカードから目を逸らさずに言った。紗良の残りは三枚、俺の残りは一枚。そして、俺のカードはQで、場のカードは七、紗良のこの言葉は、敗北宣言なのだろうか?
「紗良、お前の番だぞ」
Qなら、大概のカードに対して出せる。今は革命状態では無いし、ビリは免れたな。俺。
「うん」
短くそう言って、紗良はカードを場に出した。そのカードは、
「しまった!イレブンバック!」
特殊カード、11である。そして、俺がパスだと分かると、紗良はそのままハートの四を処理し、場を一旦流した後、最後のカード、六を場に置いた。
「あー、負けた!」
旅館の人が待っているので、トランプを急速で片付けながら、俺はそう言う。
勝てると思った所で喰わされるとは。紗良め、なに満面の笑みをこっちに向けているんだよ。
「勝利!」
満面の笑みのまま、紗良は俺に向かってピースサインをつきだして来た。
「二人とも、何をしている。夕飯だ。食堂に行くぞ」
灯が部屋の入り口から催促してくる。
心地の良い、朝だ。
小鳥のさえずりが、耳の奥まで響いている。布団に入りボーっと天井を眺めながら、鳥のさえずりで目を覚ますのは、思ったより気持が良いんだなーと、俺は考えていた。
体を起こし、周りを見てみる。俺の隣には、香織が俗に言う『安静のポーズ』ですやすやと寝ているのが見えた。何度か寝返りを打ったのだろう。髪が暴れている。ついでに布団も凄い事になっている。
香織の奥には、灯。仰向けで姿勢よく寝ているのだが、なぜその寝顔の眉間にしわが寄っているのだろうか。口も歪んでいるし、嫌な夢でもみているのか?にしては静かだ。
……沙良は、疲れてそのままベットに倒れこんだかのようにうつぶせである。息が出来ているのかが少し心配だが、……微動だにしないのは本当に心配だが……
「もがっ、もがが、……」
念のためと思って、沙良に近づこうとすると、沙良の頭から声が漏れた。あぁ、大丈夫だ。生きている。
俺はふーっと長い息を吐いて、窓の外を見やる。
そう言えば、旅館の玄関の外に、川から水を引っ張っているところがあったなぁ。あそこで顔を洗って、取り敢えずすっきりするか。
そんな事を思いつき、俺は207号室から出て行った。