其の一ヶ月、夏休みなり!8ページ
結局、俺達は四人で、普通に一部屋使う事になった。フロントから鍵を受け取った灯は、荷物を持って前を歩いている。部屋は二階にある様だ。
「なんか時代劇とかで切られた人が転がり落ちて来そうな階段だな」
「例え、不思議」
木材で作られたなだらかな階段を見て、思ったことを口にすると、沙良は苦笑しながらそう言った。
「そうか?俺としては的を射た例えだと思ったんだが……」
「なんとなく分かりますけど、時代劇で例えたのが引っかかりますね」
階段を登りながら香織が言う。香織の後ろにいた俺と沙良も、荷物を持って階段を上がり始める。
「じゃあ、どんなふうに言えば良かったんだ?」
俺は周りの人たちに向かって問いかける。この問いには、先頭を歩いていた灯が反応した。
「そこは普通に『古めかしい木造の階段』だとか、『コンクリートのばかり見慣れているから、木造の階段が新鮮に感じる』等と言えば良いのだ。ほかには……」
「『時代劇とかで切られた人が転がり落ちて来そうな階段』?」
「そう。そう言った風に……って、それはさっき龍夜君が言っていた変な例えだろう!」
少し腹を立てたのか灯は、振り返って俺を睨む。急に立ち止まったため、灯りの後ろを歩いていた香織が、灯とぶつかってしまいそうになる。
「わっ!」と香織が小さく言って灯が「すまぬ」と慌てて言った。
その後、灯は咳払いをし、鍵を取り出すと、近くの扉に差し込んだ。
が、扉は開かない。多分、さっきの事が少し恥ずかしくて、部屋番号を確認せずに鍵を差し込んだんだろう。だが、そのせいで更に赤っ恥をかいたんだな。
「すまない、取り乱した」
あ、開き直った。
「部屋番号は207だ。さっさと行こう」
灯は一言そう言うと、キャリーを転がし歩き始める。後ろの俺達は、顔を見合わせて微笑んだ。
旅館『ととのい』の207号室は、至ってシンプルな造りの和室だった。畳の敷かれた六畳間が、入り口から少し入った所にある。入り口付近には、トイレや洗面所などがあり、この辺は洋風だ。
「取り敢えず、荷物はここに置いておこう」
和室の隅の小さなスペースにバックを置いて、俺達は、もう一度部屋を見渡してみる。和室の中央には、ちゃぶ台の様なテーブルがあり、部屋菓子や急須などが置かれている。
「ふむ、貸金庫や冷蔵庫もあるとは……無料券が無かったら、幾らしていたかわからんな」
灯は、部屋の備品を確認している様だ。最初に確認する辺り、しっかりしてるなとは思う。だが……
「こっちにはハンガーか、で、冷蔵庫の中は……空だ。ん?マッチがある。使う事は無いだろうが、不思議と落ち着くな。こっちには、冷蔵庫か、二日間では使用する機会が無いだろうが、旅館っぽい気がする。あとは……」
何回冷蔵庫を確認するんだ灯は。