其の一ヶ月、夏休みなり!7ページ
青々とした木々が生い茂る中、どーんと構えている木造建築。のれんの垂れ下がった入り口に、瓦が敷かれた屋根。入り口の上には、達筆な草書がきで、『ととのい』と書かれている。
「驚いた。こんなにも綺麗な所だったとは」
灯が感嘆の声を上げる。何時の間にかミンミンゼミの鳴き声は聞こえなくなり、代わりにアブラゼミの鳴き声が響いて居る。
「確かに、趣があって、綺麗で、まだ中は見ていませんが……とても心地よさそうな所ですよね」
香織も、この木造建築を見上げて、しみじみと言った。確かに、少し古めかしい感じがするこの旅館には、趣がある気がする。
「いい匂い」
猫みたいだ……花をスンスンと動かして、目を細めた沙良を見て、俺はそんなことを思う。だが…
「ところで、いい加減中に入らないのか?」
いつまでも入口に突っ立っているのは、どうかな?って思うところがある。ほかに誰もいなかったけどもう五分ぐらい居るぞ。
「……そうだな。入るか」
少し間を空けてから、灯が扉に手をかけた。
ガラガラガラガラっと、扉をスライドさせて俺達は旅館の中に入って行った。
「わぁ」
旅館の内装は外と変わらないくらいの和装だ。だが、柱やカウンター、フロントに置いてあるソファ等が地味に旅館らしい。
「この招待券はつかえますか?」
旅館の内装に目を奪われていると、カウンターの方から灯の声が聞こえた。いつのまにか手続きをしているようだ。
「ところで、香織、沙良。招待券で無料になるのは一部屋だ。二人は、龍夜君をどうすればいいと思う?」
「はい?」
慌てて灯達に近づいていくと、灯の言葉に、香織が少し驚いた声を上げている所だった。
「いや、考えてみたら、女子三人男子一人と言う状況で、ここは旅館。何かと不便な事もあるだろうと思ってな」
「確かに」
「そうですね。そう言う時は基本、部屋を分けるのでは?」
カウンターの前で、灯達が話している。俺はその光景を近くから見ているのだが……どうしても会話に入り込めない。
こんな時って本当どうすれば良いんだろうな。取り敢えず俺は、まだ出てもいないお星様に、『次やって来る部員は男子であります様に』と、心の中だけで祈っておいた。