其の一ヶ月、夏休みなり!5ページ
日付は飛んで、夜ーーーー
俺は合宿に持っていく荷物の最終確認を行っていた。バックに詰め込んだ歯ブラシ、着替え、なんとなく、双眼鏡。
だけど、灯も急だよな。
あの日、くじ引きで招待券を手にした灯は、それまでの話で慌てていた事もあるのだろう。いきなり「合宿は三日後だ。三日後に全員準備を整えて、合山駅に集合だ!」と早口に言って、逃げる様にその場を去った。
取り残された俺達は、しばらく呆気にとられていたが、その後、誰からともなく解散になった。
「えっと、これで終わりか……思ったよりも小さくまとまったな」
なんとなく、で、詰めた物もあるのに、少し大きなバッグに全て入ってしまったのだ。
「ふぅー」
別に疲れている訳じゃないんだが、ついつい溜息が出てしまう。
とその時
「おーい龍夜ぁ、夕飯できたぞ」
俺の部屋の扉が開いて、山陰 美月が顔を出した。別に重要な奴じゃない。ただの姉だ。
「お、なんだ?その荷物?」
扉から顔を出していた姉は、俺がさっきまで弄っていたバッグが気になったらしい。指を指して聞いて来た。
「何って、部活でやる合宿の荷物だよ。ところで、夕飯何?」
立ち上がりながら、俺は簡潔に答える。
「合宿?」
「ああ、山荘に行くらしい」
「山荘?へえ……山ねぇ」
「で、夕飯は?」
「ああそうだった。夕飯はねぇ、残り物で適当に作った」
「…………わかんねぇよ」
「点呼を取る必要もなく、全員見事に揃ったな」
次の日、混み合っている合山駅に行くと、灯、香織、紗良の三人が同じ様なキャリーバッグを持って、駅前のオブジェの前に居た。
混み合っている駅前で、俺が三人を直ぐに見つけられたのは、三人が人々の注目を浴びながら、ナンパを適当にあしらっていたからである。だが、周りの人から大注目されている美少女達に話しかけるのは、大分気が引けた。
「どうしたん龍夜君?少し顔色が悪いぞ?」
てか今も大注目されている。
「いやぁ、眠れなかっただけだ」
だがそんな事を言う気にはならないので、適当に誤魔化す。
「もしかして楽しみで眠れなかったのか?」
「子供」
「違うから!そしてその目はなんだ紗良」
「あの……そろそろ時間ですよ?」
俺達が騒いでいると、香織が時計を指差しながら、一言。
「…でっでは出発しよう!我が文芸部の合宿だ。気合いを入れて行くぞ」
さて、文芸部山の合宿は、こんな感じてスタートしたんだ。