其の一ヶ月、夏休みなり!2ページ
夏休みの、部室。時刻は、午前十時、俺は椅子に持たれて、灯と共に部員が揃うのを待っていた。
「想いこぉめぇてぇ♪咲かぁせぇてぇ♬届ぉけぇまぁす♪はなぁたぁばぁ♬」
「歌っているのは流行りの曲か?随分と気分が良さそうじゃないか」
俺が昨日誠人達と行ったカラオケで、散々歌った曲を口ずさんでいると、灯が話しかけて来た。灯の手には、地方の観光地のパンフレットがある。
「なんだ?灯もこの曲知ってるのか?」
「コンビニなどでBGMとして少し耳にしている。…ふむ、やはり値段が高いな」
椅子に座り、パンフレットをめくっていく灯。この文芸部には生徒会から支給される部費なんて無いから、当然、交通費や宿泊費等は自腹だ。遊びに行くと言っても、安い所でないと行く事が困難である。パンフレットのページをめくって、真剣に悩んでいる灯を余所目に、俺は携帯を取り出した。花山市のウェブページを開いて、何かイベントがやっていないかを見ていく。
なんかなぁ、市営の小さなお祭りとか、そんなのは出て来るけど、そんなのばっかりだ。祭りに行くのは、小学生の時によく行ったからな。なんかこう……こんなイベントがあったのか!って物は無いのか?そう思いながら画面をスクロールさせていると、
「お早う御座います」
「香織、今、出会った」
部室の扉がガチャリと開いて、香織と紗良がやって来た。
俺は首を回して扉の方に目をやった。すると紗良と目が合った。紗良は俺と目が合うと、ニコッと笑った。
「全員揃ったか。では、合宿についての会議を始めたい。よいか?」
香織達が席に着いたのを確かめてから、灯が口を開いた。俺達三人は、黙って灯を見つめている。
「ふむ、ではまず、合宿を行うについての、我の考を言っていく。一つは、折角の合宿だ。街中よりも、自然の中の方が良い。いつもと違う経験が出来るからな。もちろん、宿泊施設は必要だが。第二に、我々文芸部は現在同好会にもなっていない。よって、費用は全て自腹出ある。顧問の先生が車を出してくれる訳ではないし、メンバーにお嬢様がいて別荘に連れて行ってくれる訳でもない。自分達でお金を出すんだ。これで、値段が張る事は出来ない。さて、どうすればいいだろうか?」
この言葉を聞いて、俺が思った事がある。
(なんで、話す時は普通に人に伝わる話し方をするのに、なんで文章はからっきし駄目なんだろう?)
だ。
「そうですね……確かに、旅館とかだと一泊4000円くらいはしますもんね」
香織がそう呟いた。口に手を当てて、髪が目にかかっている。
「安いの、知らない」
紗良はそう言って首を振る。紗良の言葉に、「俺もだ」と同意。俺はその後、香織と灯を見るが、二人共首を横に振った。
つまり、全員なるべく安く済む所を知らないと言う事だ。
これでは埒が明かない。気まずい沈黙がやってくる前に、俺は、周りに向かって言った。
「なんか、このまま話しても、話進みそうに無いからさ、ちょっと、いいか?」
「なんだ?」
灯が促す。俺は持っていた携帯を他の部員に見える様に突き出した。
「……くじ引き……ですか……」
画面を見て、香織が、ボソッと言う。
「……………」
期待したのが馬鹿だった。そう言った表情で、俺の事を見る紗良。
「妙案があるのかと思ったのに……まぁ、暇潰しには良いか」
深い溜息を吐いて、心底落胆した声で言う灯。なんか、言わなきゃ良かったって後悔が、俺の中に静かに湧き上がってきた。
「灯さん。暇潰し……とは?」
俺がうなだれ掛けたその時、香織が灯に話しかけた。
「む、皆集まったのは良いが、こんなに早く話しに詰まるとは思わなくてな。まだ午前だ。暇潰しにその市営のくじ引きに行っても良さそうだ。これもまた『実体験』でな」
灯の軽い口調。この後にくる言葉も、なんとなく想像出来る。
「龍夜君。場所はどこだ?ここから遠ければ殴るよ。さぁ、皆出かけよう」
……やべぇ、殴られるかもしれん。