其の者、相談者なり。 11ページ
次の日、文芸部の部室のなかで、文芸部の美少女達が、忙しなく動き回っていた。長机に大量の原稿用紙があり、灯と紗良が相談しながら色々と書き込んで居た。時折、携帯電話をカチカチといじっているが、多分漢字でも探しているのだろう。香織は、持参したと言うタブレットで、物語に登場させる物を調べている。
「しかし持って来て大丈夫なのか?そのタブレット」
「ええ。母がもういらないと」
タブレットってお値段高くないのか?
色んな所で言われているが、知識の無い書き手が書いた物語は、どうしても薄っぺらくなってしまう。書き手の知識を超える『オリジナリティ』は現れないから、らしい。だからなのか、しっかりと読み応えのある文章を書くには、大量の本を読め。と言うのは、書き手にとっては一般的な見解となっている。
文芸部のメンバー(特に女子)は、読んだ本の数は、軽く引く程あるだろうからその点は大丈夫だろう。知識が足りないと思う所は、香織がタブレットで調べてくれる。これなら、物語の内容が読み足りなくなったり、矛盾した言葉が使われる様な事は無さそうだ。
ただ、大量の本をよく読んでいるのに、何故あの文章力なのだろう。そこだけが分からない。
そんな景色を見ながら、俺は国語辞典を片手に、灯と紗良が書いた原稿を清書している。
長くなる文には、同じ言葉を何回も使うより、意味がほとんど同じ言葉を使った方が良い。言う。話す。喋る。って感じにな。
でも、たまに『これどんな意味だったっけ?』って言葉がある。『さもなくば』とかって、何となくで使ってるしな。そんな言葉を調べ直す為に、俺は国語辞典を使ってる。携帯で無いのは、そろそろ充電が切れそうだからだ。
「紗良、掛け合いの書かれた原案から、このシーンに合いそうな物は無いか?」
400字詰の原稿用紙を見ながら、灯と紗良が話し合っている。
「待って。…………これは?」
「どれ……近所のおばちゃん達と主人公の会話か…セリフを少しファンタジーっぽくすれば、使えそうだな」
「じゃあ、書く?」
「うん。地の文を追加して、描写を細かくしながら書いて行こう。まだ冒頭だから、な」
俺はそんな会話を聞きながら清書していく。国語はあんまり得意じゃないし、文法も理解していないが、何とか形にはなる。
清書しながら、ふと、気になった事があった。
「灯、まだ冒頭って、この物語は総合で何文字くらいある予定なんだ?」
動かしていた手を止めて、灯は顔をあげた。
「総文字数か?考えてはいなかったが、多分、二万文字くらいになるだろう」
「二万文字?長くないか?」
「長いのか?四百字詰原稿用紙で二万文字。大体500ページくらいか……確かに長いな。ページ数で言えば300枚、一万二千文字が理想だな」
「予定は二万文字だろ?表現を変えるとか描写を細かくするとかあるはずなのに、足りるのか?」
俺がそう聞くと、灯は少し考える素振りを見せて、
「少し急ぎ足に書けば…大丈夫だろう。まぁ、その事は我と紗良とで工夫するよ。龍夜君は、あまり文字数を使わない様に清書してくれ」
と、再び原稿用紙に目を落としながら言った。
俺はふぅ。と息を吐き出し、再び清書作業にとりかかった。