其の者、相談者なり 10ページ
「さてと」
少し静かになった部室に、灯の凛とした声が響いた。灯は、部室にいる全員を見渡して、言葉を発した。
「少し前に、芦屋公園の作文を書いただろう?あれを元に、この小説の作り方を考えてみた。まず、我と紗良とで、大まかな文章を作る。その文章を龍夜君が手を入れ、最後に香織が追加。そして仕上げをする流れでどうだろうか」
「順番に物語に手を加えていく方法にした理由はなんだ?」
「それか。これは推測なのだが、我と紗良は多分、勢いで文章を書いていくタイプだ。だからこそ、読んでいておかしいと思う部分が、少しは出来てしまう」
確かに穴があるよな。そこかしこに。
「龍夜君には、その文章のおかしいと思う部分を直して貰いたい。香織も同じ様な作業になるが、何か追加したほうが良い事や、場面の切り替え方を変える等してくれて構わない」
長机に両手を着いて、まるで全校集会のスピーチをするかの様に灯は話していく。
「ここから先数日。我と紗良とで下書きを書いていく事になる。七月二日の締め切りに間に合わせるにして、今月の二十日辺りが妥当だろう。香織の作業を、七月いく前に終わらせたい」
「どうして?」
「最後に、部員全員でチェックをかけたいのでな。あ、因みに龍夜君の作業は二日で済ませろよ」
「短けっ!」
「短く無い。龍夜君の担当は大まかな文章直しだ。君のアイディアは全て何処かで使い古された様な物だったからな」
………言い返したいが、あんだけ原案を破り捨てられていたら、黙るしかない。
精神に軽いダメージを受けた俺に変わり、今度は、香織が灯に意見を述べる。
「でも…それは別に、スケジュールの様に日にちごとに分けていく必要性は無いのでは?灯さん達が大まかに作り上げ、出来上がった物から山陰君が直していって、私が表現の仕方に手入れをする。というのを、流れ作業の様に行っても良いと思うのですが…」
香織が意見を述べると、灯は、手を顎に軽く当てる様にして
「…………」
黙ってしまった。
しばらくの静寂。
香織の案に対して、灯がどんな思考を巡らしているのか俺には分からないが、何やら真剣に考えこんでいる灯を見てると、声をかける気になれない。
……これは全く関係ない俺の思想だが、夕焼けが射し込んでいる部屋で、黙って佇んでいる灯の姿は、それはそれで格好良かった。
「確かに」
灯が黙り始めて約十分。
「確かに、その方が、部室の空気も明るく、作業も楽しく出来るだろう。それに、次々と清書できる為、速さも違う……だが、そうすると、やり直しや、別の文章に差替える時などに、大変では無いのか?始めからやり直すのと同じ様な物だ…」
灯が、細々と呟いた。灯が考えていたのは、どうやら作業効率だのなんだのらしい。真面目な顔して悩んでいたのは、締め切りを作ったからなのか。スケジュールの事とか言わなきゃ良かったかもな。
俺はガシガシと頭を掻いて
「灯」
戸惑った様な表情の灯に向かって言った。
「灯。メリットデメリットで香織の案に悩んでいるなら言うけどさ。ここは『部活』だろ?個人的な意見だけど、部活なら、大変だったり苦しかったりしても、みんなで楽しく作業出来る方が俺は良い。それに、その方が『文芸部で創り上げた物語』として、部員全員が納得出来そうだ。な?」
「そうですよ。始めからやり直すのと同じ様な物でも、始めからやり直せば良いんです」
「楽しく、やろう」
紗良と香織も、灯に向かって笑顔で言う。
灯は、少し驚いた表情を見せて、
「ふぅ……。ならば、みんなで一辺にやってしまうか!」
と、爽やかな笑顔で、勢い良く言った。
総合500pv突破‼
読んでくれている方達に、大きな感謝を!
この後も、この物語を読んで楽しんで貰いたいです。
……出来れば、…出来れば感想等、下さい…