其の者、相談者なり 9ページ
山中さんと別れた後、俺は部室に向かって歩いていた。歩く早さは、いつもより若干速い。
原因は、山中さんの話を聞いたからだろう。好奇心やワクワク感に似た様な心持ちで、俺は部室の扉を開いた。
「遅い」
部屋に入って最初に聞こえたのは、灯の、不機嫌な声だった。
「一体何をしていたのだ?」
不機嫌。と言う文字が見えそうな位の不機嫌面の灯。
「あーゴメンなさい。ちょっと捕まっててね。所で灯、この物語創作活動のスケジュールみたいなものってあるのか?」
「遅れたというのに軽いな。後でアイスでも人数分奢って貰おう。ふむ、スケジュールか、そう言えば考えていなかったな」
手を顎に当てて、考える素振りをする灯。
…しっかし、アイス奢れか。遅れただけでこれだから、休んだらどうなるんだろうか。少しこわいな。
「スケジュールを考えるよりは、まず、全体の締め切りをいつ頃にするか決めませんか?」
スケジュールについて真剣に悩み始めた灯に、香織は言った。灯は顔を上げ、棚から紙を一枚取り出すと、
「そうだな。まずは全体の締め切りを考えるか。皆、いつ頃にする?」
周りに向かって問いかけた。
「そう言えば山中さんが、できたら夏休み迄が良いって言ってたぞ」
「そうか、ならば締め切りは七月の二日だな」
取り出した紙にペンを走らせ、灯は言った。紙にはどうやら、締め切り日が書かれている様だ。
「どうして?」
椅子に座っていた紗良が、灯に問いかけた。俺も灯に聞きたい。「夏休み迄に」という言葉から、どうして締め切りが七月の二日と決まったのか。
「夏休みは十四日から始まるのだ。今現在は六月半ば。しかも、物語創作の進行速度は先程プロットが出来た段階なのだ。どう考えても、二週間弱はかかるだろう」
壁に寄りかかり、話していく灯。二週間弱というのは、『四人で一つの物語を作っている』現在の状況からの推測だろう。
「プロット、出来たって言ってたよな……見せてくれ」
俺は壁に寄りかかっている灯に向かって言った。灯は、頭を動かし俺を見ると、
「今紗良が持っているはずだ」
と、顎でしゃくった。俺は頷いて、紗良に視線を移すと、紗良は紙をこちらに差し出している。俺はお礼を言って受け取ると、プロットが書かれた紙に目を通した。
………なんだか、灯の文体と似ているな。