其の者、相談者なり。 6ページ
そこから、俺達は原案の仕分け作業に入っていった。まず、俺の目の前には、物の設定について書かれた物が積まれ、沙良の目の前には、舞台について書かれた物が積まれ、香織の前には、人物について書かれた物が積まれている。そして、空いている所には、まだ仕分けていない物と、物語の始まり方、僅かな掛け合いが書かれた物が積まれている。
灯は、舞台について書かれた物の中から一つ、原案を選んでいる。人物や物の設定は後から組み込み易いが、舞台の設定は後からどうこう出来ないかららしい。どんな物語になるかは知らないが、ここは部長に任せておこう。
「ん~なぁ、この‘神代”についてのセリフが書かれたやつって、掛け合いに含まれるのか?それとも、舞台の設定に含まれるのか?」
俺は手にとっていた紙をひらひらさせて、周りに問いかけた。
「む、セリフだけで書かれているのなら、掛け合いではないか?」
まず反応したのは、紙を両手に持って、一人立ち上がっている灯だった。
「その'神代'が、どれ位重要に書かれているかにもよりますけど……」
「舞台」
香織の話を遮って、沙良が言った。
「えっ?」
「掛け合い、どこでも出来る、雑談」
真面目な顔で俺達を見回す沙良。その言葉に灯はふむ、と頷いた。
「まぁ確かに、そうだよな」
俺も同意して、舞台の設定の山に紙を重ねた。
その後、しばらくして、俺達は原案の山を整理し終わった。
ふぅー。と一息ついてから、俺は灯に問いかける。
「どうだ灯。物語の舞台は決まったか?」
灯は、紙を見比べながら言った。
「それがな、良い設定がいくつかあって、決めかねているのだ。この場合、どうしたら良いと思う?」
「あー取り敢えず、俺等にも、見せてくれ」
灯は机の空いているスペースに、三枚の紙を出す。俺、香織、沙良は、覗き込む様にそれを見た。
「成る程、どれも細かく設定が書かれてますね」
「多分、全部同じ奴が書いたんだろう…」
「どれも良い」
そう。沙良が言った様に、この原案。どれも良い設定が書かれてるんだよ。さて、どうしたものか。
「ねぇ」
短い声を上げて、沙良が身を乗り出した。
「何か…良い案があるのですか?」
「人物、移動、切り替え、舞台」
沙良は、短い単語を四つ発した。俺は、言葉の意味を考えて……
「「そうかっ!」」
理解した瞬間。声を上げた。俺と同時に声を上げたのは灯だ。
「登場人物を移動させれば、舞台が幾つかあってもおかしくない」
「それぞれのカットを構成出来るし、場面ごとに分けて作っていく事も可能だ。凄いぞ紗良」
「紗良さん、良く気づきましたね」
「凄いな。紗良」
「!………‼」
三人から次々褒められて驚いたのか、紗良は両手をパタパタさせた。
文芸部の物語創作活動三日目は、こうして過ぎていった。