其の者、相談者なり。 3ページ
次の日、俺は何か参考になる物は無いかと、昼休みに図書室に来ていた。が、どんな本を読んでみれば良いのか分からない。こんな事なら購買のメニューを真剣に選んだ方が良かったかもしれない。そんな事を考えながら本棚から本を一冊抜き出す。
その本のページを暫くめくっていたが、駄目だ。俺には読めん。なんつーか文が硬い気がする。俺は本を元の位置に戻して、別の本を手に取る。この本、面白そうだな。そう思って読んでいると、
「あの………山陰君?」
名前を呼ばれた。顔を上げると、そこに居たのは
「………香織…」
そう、俺に声をかけて来たのは、香織だったのだ。香織はたくさんの本を両手に抱えている。
「図書室に、なんか用事でもあったのか?」
俺は本を閉じて香織に聞いた。
「いえ、図書委員なので…山影君は?」
「別に大したことじゃ…」
俺はそう言って笑った。香織は微笑んで、抱えていた本を棚に戻し始める。その姿を眺めながら、俺は昨日の事を思いかえしていた。
「…香織、どうして山中さんは、俺たちに物語を描いてくれって頼んだんだろうな」
その問いを俺は、独り言の様に、聞き逃してもおかしくない位にポツンと呟いていた。だが香織は動かしていた手を止めて、ゆっくりと俺のほうを向いた。
「どうして…とは?」
俺の方をじっと見ながら、香織は聞いて来た。俺は、続きを言った。
「だって、物語を作る事に関して俺達は素人以下だぞ。それなのに、お勧めの本は?とか、この本どんな内容だった?とかじゃなく、物語をつくれって……」
文芸部はまだ始まって一カ月も経っていない。それどころか部としては規定に届かず、認められてすらいない。そんな部に頼みごとなんて、ホント、どうしてだろな。
「確かに疑問ではありますね。でも、そういうことを考えているのなら、文芸部が作る最初の物語を、とても素晴らしいものにしましょうよ」
黒か茶か、あいまいな色の髪を揺らしながらそう言って、香織はとなりの本棚に移って行った。
「そうだな」
俺は香織の背中を見ながら呟いた。
図書室からでて少し校内をうろついていた俺は、五時間目が始まるのを無視して旧館にある部室に向かった。どうして教室に行かずに部室に向かったのか。その理由は特に無い。ただなんと無く、部室が気になったのだ。そうして部室の前に来た俺は、誰もいないはずの部室に入って行った。
あけましておめでとうございます。
この話が2012年最初の投稿。
この物語も、徐々にいろんな人が読んでいってくれると願ってーーーー