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生贄として捨てられた不遇オメガ、伝説のもふもふ聖獣様に拾われて空に浮かぶ島で極上の溺愛を注がれる  作者: 水凪しおん


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第4話「雲海の庭園」

 数日後、ルカの体力が十分に回復するのを待って、レオンは彼を神殿の外へと連れ出した。

 重厚な扉の向こうに広がっていたのは、圧倒的な色彩の海だった。空には雲一つなく、澄み切った青がどこまでも続いている。眼下に広がる白い雲海は、太陽の光を受けて真珠のように淡く輝いていた。ルカの足元には、ふかふかとした緑の絨毯が敷き詰められ、そこかしこに見たこともない形の花々が咲き乱れている。

 吹き抜ける風は冷たさを一切含んでおらず、春の陽だまりのような温もりを運んできた。ルカは真新しい清潔な靴の裏で、柔らかい土の感触を確かめるようにゆっくりと歩を進める。村で毎日重いクワを振り下ろし、カマで固い根を切り裂いていた荒れた大地とは、何もかもが違っていた。ここは命が豊かに息づく、空の上の聖域だ。


「この島は、下界の汚れから切り離されている」


 数歩先を歩いていたレオンが、振り返って言った。銀色の長い髪が風に揺れ、彼の精悍な顔立ちを優しく縁取っている。レオンが歩くたび、草花は彼を歓迎するようにかすかに揺れ、周囲の空気が清らかに澄み渡っていくのが分かった。

 ルカが周囲を見渡していると、視界の隅で小さな光の粒がふわりと舞い上がった。蛍よりも淡く、透き通った光を放つそれは、ルカの鼻先をかすめ、そっと伸ばした指先に止まった。触れた瞬間、微かな鈴の音のような響きが耳の奥で鳴る。


『精霊……』


 本や噂話でしか知らなかった存在が、今、自分の手の上にいる。精霊はルカの指先で心地よさそうに光を明滅させると、やがて再び空へと溶けていった。

 その直後だった。ルカの足元にあった、少しだけ花弁が萎れかけていた青い花が、突然瑞々しい色を取り戻したのだ。しおれていた葉がピンと張り詰め、生命力に満ちた香りを放ち始める。

 ルカは驚いて一歩後ずさった。自分の手からは、命を削るための汗と血しか流れたことがないはずだ。


「君の力だ」


 レオンが静かに近づき、ルカの隣に並んだ。大きな手が、ルカの細い肩にそっと触れる。その温もりに、ルカの肩の力が自然と抜けていく。


「オメガは本来、命を育み、癒やす力を持っている。君のその優しい魂が、この島の自然と共鳴しているんだ」


 レオンの言葉は、ルカの胸の奥深くに染み渡った。自分は穢れた存在ではなく、何かを癒やす力を持っている。その事実が、ルカの心を静かな波のように揺さぶった。

 見上げると、レオンの黄金色の瞳が、眩しいものを見るように細められていた。彼から漂う新緑の香りが、ルカの胸の鼓動を少しだけ速くした。

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