エピローグ「溶け合う二つの魂」
夜の帳が下りた神殿のテラスは、神秘的な静けさに包まれていた。
空には数え切れないほどの星が瞬き、巨大な満月が雲海を銀色に照らし出している。昼間の温もりが引いた空気はひんやりとしていたが、ルカの体は少しも寒さを感じていなかった。
背中からレオンの大きな体がぴったりと寄り添い、厚手のショールごとルカを包み込んでいるからだ。レオンの逞しい腕がルカの腰に回され、その体温が夜の冷気を完全に遮断していた。
二人は無言のまま、月明かりに照らされた雲の海を見渡していた。
かつて、ルカはこの空の下で、泥にまみれて絶望の底を這っていた。飢えと寒さに耐え、誰にも必要とされない命の終わりを待っていたのだ。しかし、今は違う。隣には、自分を何よりも大切に想ってくれる人がいる。
ルカはレオンの腕の上に自分の両手を重ね、そのゴツゴツとした指の感触を確かめた。
『もう、あの暗い森に戻ることはないんだ』
ルカの心の中に残っていた最後の影が、月の光に溶けて消えていく。レオンがルカの肩口に顔を埋め、銀色の髪がルカの頬をくすぐった。
「何を考えている」
耳元でささやかれる低い声に、ルカの鼓動が小さく跳ねる。ルカは少しだけ首を巡らせ、レオンの端正な横顔を見つめた。
「不思議だなと思っていました。ずっと一人ぼっちだった僕が、こんなに綺麗な景色を、一番大切な人と一緒に見ているなんて」
その言葉に、レオンはルカを抱きしめる腕の力をわずかに強めた。
「それは奇跡ではない。君が君自身の魂の美しさを失わずに、今日まで生き抜いてきたからだ」
レオンの黄金色の瞳が、月の光を受けて優しく揺らめいている。
「俺の命が続く限り、君の笑顔を守り抜く。君が流す涙は、悲しみではなく喜びのものだけにすると誓おう」
レオンの言葉は、魔法の呪文のようにルカの心の奥底まで染み込んでいった。その絶対的な愛の言葉にほだされ、ルカの目から大粒の涙がこぼれ落ちる。しかし、それは過去の恐怖からくるものではなく、胸が苦しくなるほどの幸福からあふれたものだった。
ルカはレオンの胸に寄りかかり、満ち足りたため息を吐いた。
「僕も、ずっとあなたのそばにいます。あなたの孤独を、僕が全部埋めてみせます」
ルカの力強い宣言に、レオンは嬉しそうに目を細め、ルカの髪にそっと口づけを落とした。
新緑の深い香りと、春の陽だまりのような甘い香りが、夜の空気の中で完全に一つに溶け合う。二人の影がテラスの白い床に長く伸び、寄り添うように一つに重なっていた。
雲の上の聖域で結ばれた二つの魂は、これからも永遠に離れることなく、共に美しい時を紡いでいく。星々の祝福を受けるように、夜風が二人の髪を優しく揺らしていた。




