第12話「永遠を誓う銀の番」
侵入者たちの気配が完全に消え去り、神殿の庭園には再び清らかな風が吹き抜けていた。先ほどまでの禍々しい空気は嘘のように晴れ渡り、澄み切った青空から柔らかな陽光が降り注いでいる。
ルカの足元では、怯えて隠れていた精霊たちが再び姿を現し、淡い光を放ちながら嬉しそうに飛び回っていた。
レオンの広い胸に抱かれたまま、ルカはゆっくりと顔を上げる。少し前までなら、恐怖で立ち上がることもできなかったはずだ。しかし、今は体の奥底から温かい力が湧き上がってくるのを感じていた。自分の声で、自分の意志で、過去の呪縛を跳ね除けることができたのだ。
レオンは黄金色の瞳を細め、大きな手でルカの涙の跡をそっと拭った。
「もう、何も恐れることはない。君の魂は、誰にも縛られていない」
深く穏やかな声が、ルカの鼓膜を心地よく震わせる。レオンから漂う新緑の香りが、ルカ自身の甘く温かい香りと混ざり合い、庭園全体を祝福するように包み込んでいた。
『僕を縛っていたのは、鎖じゃなくて、僕自身の諦めだったんだ』
ルカは自分を囲い込んでいた見えない壁が、音を立てて崩れ去っていくのを確かに感じた。もう、顔色をうかがって生きる必要はない。オメガである自分を恥じる必要もない。
ルカは震えの止まった両手を持ち上げ、レオンの厚い胸板にそっと添えた。生地越しに伝わる力強い心音に、自分の心拍数を重ね合わせるように深く息を吸い込む。
「レオン……」
ルカの口からこぼれたのは、かすれ声ではなく、はっきりとした響きを持った名前だった。
「僕を見つけてくれて、救い出してくれて、本当にありがとう。あなたがいたから、僕は初めて自分を大切に思えた」
ルカの言葉を聞き、レオンの端正な顔立ちにわずかな驚きが浮かぶ。しかし、それはすぐに雪解けのような優しい微笑みへと変わった。
レオンはルカの腰に回していた腕に力を込め、二人の間のわずかな隙間をなくすように引き寄せる。
「俺の方こそ、君に救われたんだ。永い時を孤独に生きてきた俺の心に、君が温かい光を灯してくれた」
レオンの顔がゆっくりと近づいてくる。銀色の長い髪がルカの頬に触れ、くすぐったいような、それでいてひどく安心する感触を与えた。
「俺の番になってくれるか、ルカ」
それは命令でも確認でもなく、ただ純粋な愛の問いかけだった。
ルカは迷うことなく、真っすぐにレオンの黄金色の瞳を見つめ返した。そして、静かに一つ頷く。
レオンの唇が、ルカの額に、頬に、そして最後に唇へと優しく重なった。それは春の陽だまりのように温かく、魂の奥深くまで染み渡るような口づけだった。二人の香りが完全に溶け合い、一つの新しい命の息吹となって空へ昇っていく。
周囲の花々が一斉にほころび、祝福の香りを放った。過去の冷たい雪は完全に消え去り、ルカの心には永遠に枯れることのない花が咲き誇っていた。




