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わたしがいのちを、取り戻すまで。  作者: 水瀬 悠里


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【第4章】落雷

時は過ぎ───


子供たちの手が離れると、内職でつないでいた私は、初めて外に働きに出た。

合う仕事を見つけるまで紆余曲折はあったが、やがてひとつの会社に落ち着いた。


大変さはあったが、若さとパワーで乗り越えていく。

小さなイザコザや、心無い言葉で傷ついたこともあったが、体を動かす仕事はキライではなかったのだと思う。


厳しい中にも(育てなければ)という思いが溢れる上司に食らいついて仕事を覚えた。


数年が過ぎ、徐々に自信がつき始めたころ、私を頼り、信じてくれていた主任が、

ある日を境にとつぜんこの世からいなくなった。


少しのミスは絶対に責めず、

「そんなのボクだってやっちゃうよ」と笑ってくれた人。

私の気づきに反応してくれて、

裏表のない明るさで職場を照らしていた人。


私にとって、まるで太陽のような存在だった。


だからその死は、青空を裂く落雷のように、

私の世界を一瞬で真っ黒に変えた。


その空白を埋めるようにして迫ってきたのは、

パワハラという名の闇だった。


最初は、声だった。

みんなの前で響く嘲りのような言葉。

私の失敗を、周りへの注意喚起と称して上げつらい、できていることさえ「足りない」と切り捨てられる。


次第にその闇は形を変えた。

冷蔵庫の中に押し込まれ、

閉ざされた空間で説教が続く。

寒くて震えても、それへの配慮はない。

外の光は遮られ、時計の針は止まったように長く、

私はただ呼吸を浅くしながら、

自分の存在をかき消そうとしていた。


悔しくて泣くと、「泣けばいいと思っているのか」と叱責され、それからは泣けなくなった。


「あれも、これも、指示が何もできていない」「資格を有する人の仕事では無い」

ノートに大きく殴り書きされ、誰でも見れるように開いて店長の机の上に置かれていることもあった。


私は声を上げることも出来ないまま押しつぶされていた。


食欲が消えた。

味がしないのはおろか、そもそも食べたいと思えなかった。

その結果、身体は病的なほどやせ細っていった。

それは自分を追い詰めるもう一つの手段だったのだ。


ただの挨拶の声さえ、私を責める言葉に聞こえた。

飲み物を選ぶことすらも、これでいいか考えている自分がいた。

日常の音が全部、私を傷つけるために鳴っているように思えた。


簡単な仕事ができない。頭の中はいつも恐怖で満たされ、一種のパニック状態だったのだろう。


心は少しずつ削られ、

体もまた壊れていった。

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