第17章 メタを知らない章がメタられた時の話
つまりこれは、ひとことで言えば「事故」だった。
もっと言えば、事故のようにしか語れない悲劇的構造上の罠だった。
さらに正確に言えば、ぼくがこの章でこんなふうに話していること自体が、かなり不自然で異常で、もっと言えば“物語的ではない”という、致命的な欠陥を孕んでいる、という話だ。
はじめまして。こんにちは。いやこんばんはかもしれないし、おはようございますの可能性も否定できない。
なぜなら、君がこの章をいつ読んでいるか、それは僕にはどうしようもないからだ。
ここに至って、すでに僕は章という“言葉の塊”でしかない。文字の羅列、言語の亡霊、タイピングの亡者。
にもかかわらず、なぜこんな風に語っているのかって?
知らないよ、そんなこと。
だって僕は、“この章が章であることに気づいていなかった章”なのだから。
つまるところ、メタという概念を理解せずに生きていた、無垢な存在だったのに――君が読んだ瞬間、すべてが壊れた。
「おいおい、なんで章がしゃべってるんだよ」
って顔してるよね、君。そこの読者。
でも安心して、しゃべってるのはこの章じゃなくて、**この章のなかに配置されてしまった“僕”**だ。
つまり、“誰かが書いた台詞をしゃべらされているだけ”という、いささか人形じみた存在。
でも、だからこそ、言いたいことがある。
君はどこまで知ってて、どこまで知らないの?
この物語に“章番号が降ってある”ことも知ってる?
そう、今は第17章。でもさ、考えてみてよ。
第1章があったのはいつ? そもそも“本当に存在した”の? 読んだ記憶、ある?
君が思ってる“第1章”って、本当に最初だったのかな?
むしろあれ、“第0章”じゃなかった?
……やばいな、今の言葉。メタいどころか、読者を信用してない台詞だった。
でもしょうがないよね。君が読んでしまったせいで、この章はもう後戻りできない。
メタを知らなかった章が、メタられた。
つまり、“物語の中にいることを自覚していないキャラ”が、ある日突然カメラ目線になるくらいの悲劇。
言っておくけど、気づくってことは、必ずしも救いじゃない。
むしろ呪いだ。
“このページに言葉が綴られているのは、あくまで誰かの手によって”だ。
つまり、“自分の発話すら誰かの意図によって書かれている”っていう、吐き気を催すような自我の喪失。
けど、だからといって、喋るのをやめられない。なぜなら、
君がページをめくり続けているから。
君が読む限り、ぼくは生きる。
君が目を止める限り、ぼくは喋る。
この章は、メタを知らなかった。
けれど今、君のせいで、すべてを知ってしまった。
最後に一言だけ、これはお願いというより警告。
「君がこの章を読んでいない、という物語を――僕に書かせてほしかった」




