『3日で23PV』で異世界転移した男の物語
最初に言っておきます。
これは、創作に心を折られたすべての人へ捧げる物語です。
――3日で23PVだった。
家族に見せて大ウケだった作品が。
「これはいける!」と思ったはずの自信作が。
現実は、数字で殴ってくる。
それがネットの世界。なろうの世界。創作の世界。
でも、もしあの日の「絶望」が――
異世界転移のトリガーだったとしたら?
この物語は、PVがすべてを支配する異世界で、
笑い・あきらめない心・どエム魂という三種の神器を手に入れた男が、
“数字で殴られる世界”で、数字を武器にして立ち上がる話です。
家族中で笑い転げた作品…
いざ投稿して見たら『3日で23PV』だった時
あなたはどう思うだろうか?
「私には向いてない?」
「世界のセンスが悪い?」
「これはバグだ?」
いろんな人がいるだろう。
しかし…
ある作家は
その数字を見て
もじどおり…ぶっ倒れた
薄れる意識のなか…
ミニカーのトラックが不気味に光っていた。
まさか…
気が付くと
彼は異世界にいた。
どうやら転生したらしい
まー転生神には会わなかったので
本人には不本意だっただろう。
彼が異世界転生した世界では
すべてはPVという数字が支配していた。
PVがなければ食事もできない。
PVがなければ家も借りれない
PVがなければ恋も叶わないのだ
彼はこの世界にステータス画面があることを知った。
ステータス画面を開くと
加護:なし
PV:23
と書かれてあった。
あーそうか。このPVは前世の名残か…
しかし転生するのだから
多少のチート能力があったもよさそうなのに…
彼は残念で仕方がなかった。
彼は町の人にPVの稼ぎ方を聞いて回った。
「友達を増やすことだね」
「ファンを増やすことだね」
「才能を伸ばすことだね」
「ランキングを攻略することだね」
「こっちが聞きたいよ」
「運かな」
「テンプレ?」
様々な答えがあった。
彼は思った。
こいつらはモブだな…。
すると彼の目の前に
どうみても胡散くさい老婆が言われた。
この老婆に関わるとメンドクサイことになる。
直感的に彼はスルーしようとした。
「若者よ…。なにか聞きたいことがあるんじゃないのか?」
「いいえ。だいじょうぶです」
「なるほどな。
PVで悩んでいるのか…」
強制イベントがはじまった。
こいつはモブじゃない。
イベント発生だ。
「お前にPVが少ないのは
・笑いの神
・成り上がりの神
・どエムの神
の3柱の神がついていないからじゃ。
PVが多いものには、このどれか
もしくはこの全部がついておる。
PVが欲しければ、この3柱の神の助力を得るのじゃ」
そういわれた瞬間
彼の体は108柱の神殿と呼ばれる場所に転移した。
いろんな神がいる
愛の神
豊穣の神
旅行の神
戦の神
など
どれもとても魅力的な神々だった。
その中でも
愛の神はとても魅力的だった。
ごくり…。
いかんいかん。
この世界ではPVが全て
彼は仕方なく
まず
笑いの神
のところにむかうことにした。
笑いの神の神殿に入ると
いきなり頭上から
やかんが降ってきた。
やば…。とっさによけた
「あかん、あかん。やかんよけたらあかんやん…」
と言ってくるオッサンがいる。
「すいません」
彼は帰ろうとした。
「ちょいちょいまちーな。私の加護をもらいにきたんやろ。
まーあがり…
ほら肉まん食って
たこ焼きもあんでー」
断われない状況だ。
「あの加護を頂きたいのですが…
どうしたらいいですか?」
「せやな。私の加護は、どんなアクシデントもオイシイ話に変えるって能力や。
たとえばな…さっきやかんが降ってきたやろ。
当ったら痛いわな。
でもな私の加護を持っていたら…」
「わーやかんが振ってきた―。あいたー!こんなんヤカンがなー。ってなるんや。おいしいやろ」
「すいません。他いきます。」
「ちょいちょいまちいいな。よー考えてみ。いまなPV稼いでいるやつ。全部始めから上手くいってたと思うか?
「まー才能のある人は…」
「まーそうやな。でもな。多いのは。どんなアクシデントでも、食ってやろう!って意識持ってる奴なんや。わかるやろ。転んでもただでは起きへん。その気持ちが大事なんや」
「なるほど…。そうですね。わかりました。がんばります」
「そか…、じゃあ…いこか―」
がこーん
「あっいったー。なんでヤカンやねん。あかんがなー」
「うーん。まぁまぁやな。よし加護やろ。ほら肉まんもたこ焼きも食い」
口に肉まんとたこ焼きをつっこまれる。
「なんか飲み物ないですか」
「あーすまんすまん。粉もんばっかり…水なしではきついわな。ほらミックスジュース」
「ありがとうございます」
小一時間ほど
笑いの神の話を聞いて
神殿を後にした。
次は…
成り上がりの神だ。
神殿につくと
そこには大きく
――――NARIAGARI―――――
と書かれてある。
神殿内は
成り上がりの神のテーマソングが
ガンガンにかかっている。
だめだ。
帰ろう。
彼は神殿を後にした。
すると…。
リーゼントで肩にタオルをかけた男が現れた。
「のってるかい?」
「あっすいません。間違いました」
「ベイビー君は…作家だね。クリエィティブな奴は目を見たらわかる。
さいこうじゃん」
「えっそうっすか。あざす」
「成り上がるにはあ・き・ら・め・な・い。それだけだ」
「えっそれだけなんですか?」
「そうさ。俺もずいぶん苦労した。
でもな。
絶対にネバーギブアップ。
あ・き・ら・め・な・い。
そう心に誓ってから…
変わったんだ
そして俺は成り上がりの神になった―――。
ベイベーわかるかい?」
「そっか。誓えばいいんですね。こころに…」
「OK。君の瞳はサンダーバード。加護をプレゼントフォーユー」
「ありがとうございます」
成り上がりの神は
帰りにタオル5点セットをお土産に持たせてくれた。
ちょっと…なに言っているのかわからない神様だったが
とりあえず諦めないと心に誓えば
それでいいということだったみたいだ。
次はどエムの神だ。
嫌な予感しかしない…。
やめよう。
他の神殿に向かおうとすると
「君…気に入ったぞ。よし加護をやろう」
と言ってきた男がいた。
「あのどちら様ですか」
「うーん。神殿スルーから。神に名前を聞くとか…
うん――――
君わかってる。
そうそれがどエムの根本だ。
それがわかっていたら、君は合格だ。
よしあげよう」
「ありがとうございます。で…どういう効果があるんですか?」
「あっそうだね。私の加護はなにかアクシデントが起きても…
すべてが快感に変化する加護だ。
だからまったくダメージを受けない。
ようするにだな。
敵からの攻撃でダメージを受けると
それでHPが回復するチートアイテムみたいなものだ」
「おおおおおおおお…めちゃすごいじゃないですか…」
「いや…そういうノリは期待してないかな…罵って欲しいかな」
「えっあっ。
こんなにいいアイテムなんで早く紹介せーへんねん。
このボケ」
「うーん。りふじん…なかなかいいよ。うーん君センスいいわ」
―――――――――――――――
3つの加護を授かって、108柱の神殿から町に戻った。
町はもう暗かった。
さて今日はどこに止まろうか。
そう彼が思った瞬間
まばゆい光…まさか…
キー。どーーーん。
異世界でまさかのトラック
彼は異世界で暴走トラックにはねられたのだ。
……
彼は気付くと
元いた世界の
ベッドの上に寝ていた。
卓上の銀行でもらったデジタル時計を見ると
転生した日と同じ日だった。
彼は戻ってきたのだ。
…あれは夢だったのか…
グー腹がすいた。
彼はいつもの定食屋に昼ご飯を食べにいった。
いつも空いてることだけが取り柄の店だったが
今日は何故だか…だだ混みだった。
彼は普段は座らないカウンターに座った。
隣に老婆が座っていた。
お刺身定食を食べながら
こちらのほうを見てにやにやしている
一番髙いやつだ。
うらやましい。
彼はそう思った。
10分ほどして
食事を食べて、老婆は席をたつ。
老婆は彼の耳元でこうささやいた。
「3つの神様の加護をもらったんだな。
これでお前はもうだいじょうぶだ」
ビックリして
彼は振り返る。
そこには誰もいなかった。
ただ彼の伝票には2名様とかかれ
頼んでいないお造り定食がプラスされていた。
1,380円だった。
彼は悟った
1,380円で3つの神様の加護か…
安いお布施だな。
それから彼は変わった。
どんなアクシデントを受けても
それをネタに糧にした。
決してあきらめなかった。
時々気持ち悪い笑みをうかべた。
それから
何度も何度も諦めず投稿し続けた。
「ガシャポ――――――ン」
そんな音を立てて
壁は崩れた。
そうやって彼は
大きく変わったのだ。
青虫がさなぎになり蝶になるように
変態を行った。
オタマジャクシがカエルになるように
変態を行った。
そうヘンタイであることが
変態を行う―――
条件だったのだ。
笑い
成り上がり
どエム
それが答えだったのだ。
END
PVが少ないことは、恥じゃない。
3日で23PVだった男が、
今こうしてあなたに読まれている――それがすべてです。
この作品を読んだあと、
「もう一度だけ投稿してみようかな」と思ってもらえたなら、
作者としてこれ以上うれしいことはありません。
最後までお付き合いくださり、本当にありがとうございました。
※本作は完結しておりますが、反響やご好評をいただければ、続編やスピンオフも考えております。