番外編:第3話「記憶、それは布団のごとく」(2025-04-14)
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ナレーション
時は戦国。だが話題は、未来の記憶管理――
尾張藍国にて、“殿の記憶”を巡る議論が勃発。
「覚えるべきか、忘れるべきか」――その問答がまたしても、布団に包まれていく。
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藍霞城。朝。
「殿……こちら、昨日までの会話記録をまとめた“思い出巻物”でございます」
羽芝秀知が慎重に差し出したのは、厚さ四寸の巻物。
中身は、茶田智長の言葉と行動を逐一書き留めた記録だ。
智長はそれを一瞥すると、静かに言った。
「……これ、全部覚えている必要があるのか?」
羽芝が即座に答える。
「殿が“夢の中で布団に刺繍した法案”とか、“天啓により抹香を投げた理由”など、
社会的に説明が求められる記録は、保持しておくべきかと……」
その瞬間、芝田数家が飛び込んできた。
「違いますぞ!!思い出は、布団のように“ふかふかに包んで眠らせる”もの!!」
羽芝が声を上げる。
「また来た!!布団比喩の暴力来た!!」
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美鈴が、苛立ちまじりに口を開いた。
「でも、記憶って誰かが勝手に書き留めてたら、それってちょっと怖くない?」
「そうそう!」
庵戸九朗人が不意にうなずいた。
(※元・敵国間者。今は布団派)
「夢で言った“夜中の寝言”まで記録されてたら……それは戦略上、非常に……」
「え?間者って寝言にも機密情報漏れるの?」
「実は昨日、“ふかふか寝台配備を急げ”って言っちゃって……」
「完全に寝言指令じゃないのよ!!」
羽芝が叫んだ。
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智長は、そっと巻物を指でなぞった。
「では、いっそ“記憶の見える化”をしてはどうか。
覚えていることをすべて、巻物ではなく、枕に書こう」
「いや無理無理!殿、それ刺繍の手間がエグすぎます!!!」
羽芝が即座に却下。
だが、芝田は目を輝かせる。
「それだ!!“記憶刺繍型・布団日誌”の誕生ですぞ!!!」
「一枚の布団に今日の出来事を――」
「寝返りで全部にじむだろォォォ!!!」
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美鈴が椅子に座りながら、冷静に指摘する。
「結局、“誰が覚えるのか”と“誰が消すのか”って、両方コントロールできないと意味ないのよね」
「本人が忘れてほしいことを、布団が勝手に覚えてるとか最悪じゃない」
芝田が目を見開いた。
「……布団が……勝手に記録……!?そんな未来が……?」
庵戸が言う。
「すでに芝田殿の布団、しゃべりそうなオーラを放っている」
羽芝がため息をつく。
「頼むから誰か、芝田の布団に“記憶制限”かけてくれ」
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智長はゆっくりと立ち上がった。
「記憶とは、風のように流れ、布団のように留まる。
……されど、望む時に畳めぬ布団は、もはや“重荷”であるな」
羽芝がぽつりとつぶやいた。
「……殿、たまに正論言うから困るんですよ……」
芝田が拳を握る。
「では、我が国は“自主忘却型ふかふか布団政策”を発動すべきですな!」
「違う!!だから話の着地点がふわふわしすぎなのよッ!!」
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ナレーション・エンド
こうして、尾張藍国では“記憶の保持”を巡る議論が再燃した――
だが、最後に決まったのは――
「記憶は布団に預け、忘れたければ“裏返す”こと」
……なお、布団の裏には、また刺繍がされていたという。