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#3 実体を持つ都市伝説

 神田に連れられやって来たのは街外れの廃墟。

 いかにもって感じの雰囲気はあるけど…。

 というか都市伝説を倒し(?)に行くという目的はさておき、心霊目当てで廃墟に突撃するとか、やってることが完全にアホなノリのウェイ系かDQNかユーチューバーである。

 …それにしても、妙に寒いな。別に天気は晴れたままだし、日も沈んでいないが…。


「ここにはね、“アイスピック女”の都市伝説があるの」


「アイスピック女」


 武器がピンポイントすぎないか?そういうのって大概鋏とか包丁では?


「そう。ここ、昔は色んな店が入ってた雑居ビルだったらしいんだけど…立地も悪いし、ある事件も起きたせいでいつしか店も離れてって、今では見ての通りの廃墟になってる」


「事件って?」


「結構前の事件みたいなんだけど…なんか痴情のもつれってやつで殺人事件が起こったみたいなんだよね、ここ。それで、その時に使われたのが…」


「アイスピックってわけか」


「そういうこと。店内にあったアイスピックで頸動脈を一突きだって」


「そんな殺害方法まで聞きたくはないかな」


 そこまでならまあ、そういう事件があったのだくらいで終わりだけれど…今の状況を考えると、そうでもないのだろう。

 てか地味にアイスピックで頸動脈を一突きして殺害って、達人か何かなのか?


「そう?これから戦う上で、相手のことを調べるのは重要だよ。それが命運を分けることもあるし」


「はぁ」


「それでね?まあ、それだけならともかく、その事件は終わり方が特殊だったの」


「というと?」


「普通はさ?こういうのってなんやかんや警察が捕まえて終わりじゃん?」


「違うのか」


「違ったの。どうやらアイツとアナタを殺して私も死ぬ!ってしたらしくて…」


「…成る程。二人殺して、自害したと」


「そう」


 てか地味に二人もアイスピックで頸動脈を一突きしたってこと?やっぱり達人なのでは?

 そんなクレイジーな相手と戦える気がしないんだが。


「それでさ、その時は軽く話題になった程度で済んだみたいなんだけど…」


「都市伝説?ってのになったってことはなんかあったのか?」


「うん。何年か前にその事件のことがテレビで取り上げられて、この街の人達がその事件について話しているうちに、いつしか今でも恨みを募らせたその女の怨霊がアイスピックを持って彷徨っていると噂されているとかなんとか…」


「それでアイスピック女…」


「そういうこと。そこまでならただの噂なんだけど…今回の噂は実体化してしまった」


「実体化…ねぇ。じゃああの廃ビルにはそのアイスピック女がうろついてると」


「その通り」


 にわかには信じがたい話ではある。

 本人はとっくに死んでいて、ただの噂が形を成しているなんて、はいそうですかと信じられる方がおかしい。


「ま、簡単には信じられないよね。けど…本当なんだ。この世界には“奇跡”がある」


「…それと都市伝説と、関係があるのか?」


「うん。私の知り合いに都市伝説について調べてる人がいるんだけど…その人曰く、都市伝説っていうのは、それそのものだとただの噂にすぎないけれど、“奇跡”を持つ人々の放つエネルギー…“想像したものを具現化する力”とでも言うべきものによって、ある程度の閾値までいくことで本当に存在するものとしてこの世界に現れるんだって。因みに分かりやすく“奇跡”という形で現れていない人達も、潜在的にはその力を宿してるから、より多くの人が、噂を知ることが都市伝説の発生に直結するの」


「ほえー…なんか小難しい話だなぁ」


「まあとにかく、一つ言えるのは、そうして生まれた都市伝説は、人々に危害を加えかねない危険なものってこと」


「まあ、大概ホラー系とかばっかだもんな」


「そう。それに、ホラー系は人々にとって強いインパクトを残しやすいからね。都市伝説が実体化するのはホラー系ばかりなんだ」


 嘘を言ってるようにも見えないし、こんな所まで連れて来てこんな話をされて、今からここに突撃しようとしてるわけだから嘘であってくれた方がまだマシというレベルな気もするので、一旦は神田を信じることに決める。

 何もないならそれでもいいし、悪い方で考えておけばそれ以上下がることはないだろう。

 相も変わらず信じがたい話ではあるけれどね。


「で、それと俺と何の関係があるんだ?」


「冬人君、何か感じるものない?」


「…?感じるものって?」


「なんかこう…妙な気配とか…寒気とか」


「あー…そういえば妙に寒いよな」


「やっぱり!」


「ん?どゆこと?」


「あのね。私は別に寒くもなんともない、普通の気温のままなの」


「はあ。…え?」


 神田の言葉に、俺はあることが脳裏を過ぎり、動揺する。


「あのね。冬人君の奇跡、幽霊は人の情念だとか、そういうものに敏感なんじゃないかな。何せ自分自身がそういったものの集合体となる奇跡なんだし」


「…成る程」


「さっきも言った通り、都市伝説っていうのは人々の実感の籠った噂が一つに集結して生み出された存在。君なら何かを感じ取れるんじゃないかって思ってたんだ」


「まさか…俺を連れて来た理由って」


「そう…君にはね。都市伝説に対する索敵レーダーになってもらいたいの」


「…そういうことか」


 どうやら幽霊の奇跡を持つ俺は、対都市伝説に関してはレーダー的な能力を発揮することが可能らしい。

 まさか俺の奇跡にこんな使い道が…!

 ……あんまり嬉しくないのは、なんでだろうな。

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