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#1 幽霊少年

「お、ユーレー君じゃん!元気ぃ?」


「いやいや、ユーレーなんだから死んでんだろ!ぎゃははは!」


「……」


 桜が咲き誇るある春の日。

 桜並木の下を歩いていた俺を、顔もよく知らない男子高校生二人組が小馬鹿にして通り過ぎていく。

 悲しくも慣れたもので、軽く無視して通り過ぎる俺だったが、俺がそんな風に揶揄される理由は、この世界の仕組みにあった。


 おおよそ100年前、人類を滅ぼさんとする異形の存在…今の世でいう魔王が現れた。

 当時の技術力では勝負にならないレベルの力を持つ魔王に、人類は窮地に陥ったのだった。

 しかし、魔王が猛威を振い始めてから少しして、一部の人間に突如として異能が発現した。

 伝承上の存在…天使や不死鳥、ドラゴンの力を再現した異能のことを、人々は“奇跡”と呼び、魔王へ対抗するための力とした。


 それから100年の時が経った今、人々は奇跡の力を用いて魔王を退治し、そしてその力を使いこなすことでその生活を発展させてきた。

 魔王は去ったとはいえ、悲しいことに力を手に入れればそれを間違った方向へ振るってしまうのは人の性か、奇跡を悪用して悪事を働く人間は後を絶たなかった。

 そして、魔王の遺した遺物として、通常では考えられない力を持った強力かつ凶暴な生物…魔物が今でもその猛威を振るっていることもあり、奇跡の力は今も人々の生活の安定を守り、発展に導く力として重宝されている。


 重用される奇跡は主に二種類に分けられる。一つは人に危害を加えかねない魔物や奇跡を持った人間との戦闘においてより高い性能を発揮できるもの、そしてもう一つは戦闘には向いてなくとも、なんらかの形で人々の生活に役立つもの。

 そして俺…有楽ゆうらく冬人ふゆとが持つ奇跡は、悲しいことにそのどちらにも当てはまらなかった。


 奇跡が発現したのが5歳の頃。当時幼かった俺はヒーロー的な存在に憧れていた。

 故に、奇跡の力を手にできたことを喜んだが…すぐにその喜びは消え失せた。

 何故なら、俺の奇跡は「幽霊」だったからだ。


 どういう能力か、説明しなくてもなんとなく分かるとは思うけど、一応説明しておこう。

 俺の奇跡、「幽霊」は文字通り幽霊となれる奇跡だ。

 要は霊体化することができる。

 霊体化している間は他者や他の物の干渉を受けない(ついでに半透明になる)。

 そう聞くと無敵なようだが、そう上手くはいかないのが世の不条理というもの。

 俺は霊体化している間、自分からも物理攻撃を繰り出せないのだ。

 考えれば当たり前である。向こうが触れないんだからこっちも触れない。

 そして悲惨なのはここからで、だったら霊体化を解除して攻撃したとしよう。

 別に攻撃力が上がってるわけじゃないので、そんなに効かないのだ。

 普通のそこらの人間相手ならいざ知らず、常識離れした力を持つ魔物や他の奇跡持ち相手にそんなセコい不意打ちが通用するかというと…お察しである。

 一応浮遊したり祟ったり憑依したりといった幽霊ならではな利点はあるものの…浮遊している間は霊体化してる関係上何にも触れないし、解除したら空から真っ逆さまである。

 祟りに関しても、相手への強い負の感情が必要なのだが、どうやら俺は結構ドライかつあんまり気にしない性分らしく、相手のことをそこまで強く恨んだりすることが殆どない。

 さっきみたいに俺を小馬鹿にしてた連中を祟ることもできるだろうが…精々若干お腹がゆるくなるとか、少しの間ちょびっと頭痛が起きるとか、そんなしょうもないレベルのことしかできない。

 憑依に関しても、簡単に追い出されてしまうため、意識がない状態を狙うか、相手に同意してもらうしかないなので、対人戦や対魔物戦で役立つわけがない。

 そんなわけで、結局実益が殆どない奇跡ではある上に、すり抜けが可能な能力のせいで覗き魔などという不名誉極まりない謂れを押し付けられたこともあって俺の地位は地の底まで堕ちているのだった。

 …因みに誓って覗きなんてしたことはない。そもそも覗いてどうすんだ。意図せぬタイミングにチラリと見えるチラリズムにこそ正義が…オホン、それは一旦置いておこう。

 とにかく、そんなわけで俺はほとんど貧乏くじみたいな奇跡を持って生きてきた。

 中途半端な奇跡を得るくらいなら、何の能力もない普通の人間として生まれた方が生きやすい。それが今の社会の形だ。

 奇跡を持っているというだけで期待され、それが役立たずだと知られれば溜め息を吐かれる。


 それでも、奇跡を持つ人間は持たない人間に混ざりにくいが故に、俺は奇跡持ちが通い、その力を伸ばすことに長けた高校である都立上有(かみあり)高校へと通っていた。

 尤も、基本評価は散々だが。精々隠密偵察に向いてるくらいのものだが…記録にも残せない分ドローンとどっこいどっこいというものである。


 …他の奇跡持ちからはバカにされ、能力を持たない人々からは失望される。

 そんな毎日だった俺の前に、アイツが現れたんだ。


「ねぇ。君、有楽冬人君だよね?」


「……そうだけど」


 話しかけてきたのは俺と同じ上有高校の2年生であり、その強力な奇跡故に全国の奇跡持ちの高校生内でも最強格と謳われる一人…神田かんだ美羽みはねだった。

 保有する奇跡は「天使」。殲滅力や機動力に優れた強力なものであり、関わりなんて何もない俺の耳にも情報が届くほどだ。その圧倒的な強さと美貌から、ついた異名は「聖滅の天使姫」。…ちょっと呼ばれたら恥ずかしそうな異名だが、一体誰が付けたのだろうか。

 …まあ、そんなことは置いといて。

 神田との出会いは、確実に俺の運命を大きく動かすこととなるのだった…。

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