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4.クリスマス殲滅作戦

「あのローランとか言う男、本当に腹が立つわ!」

 私は自宅に帰ってきてもイライラを募らせていた。


 すると、セバスチャンがハーブティーを入れて私に差し出しながら、もう一つ良くない情報がわかったと私に行ってきた。


「良くない情報って?」

「いいですか。落ち着いて聞いてください。あのローランという男性ですが、調べたところ……実は彼がうちのライバルである商会の長だったんです」

「……なんですって?!」


 セバスチャンによると、彼の名前はローラン・セイクレッドと言い、うちのライバルであるセイクレッド商会のトップを務めている。そして、年齢は私よりも少し上くらいなのだそうだ。


「それじゃあ、最終的にはやはりアイツをつぶさないといけないわけね」

「えぇ、まあそうなりますね」

「わかったわ。あんな奴、この国から追い出してやるんだから!」


 燃料を投下された私は、クリスマスを何としてでも止めさせるために行動に出た。



 何をやったのかと言うと、まず今年の話をしよう。

 私は大急ぎでチラシを作成と配布してくれる宣伝屋に依頼をして、あるビラをばら撒くことにした。


 その内容というのは、クリスマスというのは本来、異教徒のものであって、この国で信仰している神とは違う神の祝祭日だというものだ。


 もし、この国に私と同じ世界からやってきて、しかもガチガチのクリスチャンの方が大多数いるならば、恋人達のための日なんて言われたら、それは違うだろうと、ビラに同調してとても怒るはずだ。


 私はそれに期待をした。

 ところが、どうやらこの国は、私とあのキザ男くらいしか転生者はいなかったようだ。

 あるいはいるのかもしれないが、クリスチャンではなかったのだろう。


 結果、このビラを撒いてはみたものの、異教徒? 何だそれは。他の国の人間に聞いても、聞いた事がないぞ? むしろ、このビラを撒いた人間の方が嘘をついてるのでは? と思われただけに終わってしまった。


 人というのは、実際に目にした事がないと、本当だと信じられないという証明にしかならなかった。


「キーッ! もうちょっと関心をもちなさいよ!」

 私はハンカチを噛み締めながら、悔しさを滲ませた。

 でも、諦めなかった。

 確かに、この時は怒りに任せすぎたのかもしれない。



 そのため、翌年は諭すような感じでこのようにビラを打った。


 クリスマスというのは異教徒の祝祭日だ。

 では、異教徒達はその祝祭日はどうやって祝っているのか。


 この国では、勝手に恋人の日だなんて銘打たれているが、本来であれば、一例ではあるが当日までシュトーレンを少しづつ食べ、当日は家族で集まりクリスマスオラトリオなんか聴きながら、七面鳥を食べ静かに過ごすものである。


 決して、恋人とイチャコラする日などではないのである。極めて神聖な日という事をこの国では忘れている。

 それは相手方に対して、とても無礼な話ではないのか。


 もっとわかりやすく言えば、聖なる夜の「聖」の字を勘違いして盛り上がってる奴ら、恥ずかしくないの? というようなノリの文章を記載して撒いたのだ。


 これには多少、反響があった。

 だが、またしても失敗した。


 まず、恥ずかしいと思われなかったというのもあるが、ビラに書かれた家族という言葉に反応して、家族でも楽しめる事、子供に贈り物をしてはどうだろうと別の商会が言い始めたのだ。

 しかも、どこから情報を掴んだのか知らないが、ご丁寧にプレゼントを配る赤い服を着たおじいさんのキャラクターまで用意し始めたのだ。


 さらに別の商会は、七面鳥なんて焼くのが大変だからとチキンを売り出しに走った。


 また、別の商会はシュトーレンなんて甘ったるいものより、子供も大好きなショートケーキやチョコレートケーキはどうだろうと売り始めてしまったのである。 


 あぁ、なんて事だろう。

 これじゃあ、元いた世界のクリスマスと変わりないじゃないか。

 しかも、家族だけではなく、友達と集まるのもいいよね! などという意見も上がり、ますます一人で過ごす人間は寂しいというような空気になってしまった。


 いや、むしろ、現実世界の方がクリぼっちなんて言葉もあるし、そっちの方がまだ優しい世界なんじゃと思うほどだった。



 そういう訳で、翌々年はビラではなくて人を使うことにした。


 所謂デモ活動である。


 僅かながらに賛同してくれた同志と、足りない分はお金を出してエキストラを雇った。


「異教徒の聖なる日を商売に使うなんて、とても浅ましいとは思わないのか!」

「100歩譲ってそれはともかく、家族と過ごさず恋人と過ごすなんて、その目的のためなど如何わしいだけじゃないか!」

「クリスマス反対! クリスマス反対!」


 大きな声で街のあちこちで騒ぎ立ててみたところ、やはり娘を持つ母親は、クリスマスイブや当日になったら、娘が危険な目に遭うのではないか。出歩かせない方がいいのではないか。

 そう心配し始め、過激な親になると、娘を家に閉じ込めておく! 男にも会わせない! と言い出していた。


 私は、しめしめ。ようやく効果が出てきた……とほくそ笑んだのだが、ここで思いもよらない邪魔が入ったのである。


 それは、なんとこの国の教会の人間だった。

「おお。孤独な人々よ。我々教会はいつでも開かれています。私たちと一緒に、我々の神のために祈りませんか。神はいつでも我々の事のそばにいらっしゃいます」

 彼らは本物っぽい事を言い始めたのである。


 そしてさらに、デモ隊以外に向けてもそのように発信し、クリスマスに孤独を感じる方はぜひいらしてくださいと、彼らは世間にアピールし始めた。


 また、これだけではなかった。


 最初はデモ活動を、モテない人間の馬鹿馬鹿しい行動と揶揄されていたのだが、いつのまにか騒ぐ事自体が好きという人間も紛れ込み始め、歌ったり、踊ったり、勝手にその場でパーティなどを始めたのである。


 また、行動するうちに仲間意識が芽生えたのか恋愛感情まで発展し、終盤になるとなかなかの数のカップルが誕生していた。


 結果的に、このデモ活動はお祭り大好き野郎達による、クリスマスなんてクソ喰らえといいながら、クリスマスを楽しんでいるどうしようもないものへと成り下がってしまったのだ。



「うぇぇぇ……こんなはずじゃなかったのに!」

 私はまたしても、ベッドに潜り込みながら泣いた。


「どうして上手くいかないの? デモに最初参加してた同志だって、あんなにクリスマスなんて要らない! とか言ってたのに、私以外、みんな彼氏彼女が出来たってどういう事よ!」

 泣き叫びながら、私はそうセバスチャンに当たり散らしていた。


「お嬢様。それはきっと、みなさん本音では寂しかったからだと思いますよ」

 寂しいもの同士が集まれば、自然とそうなるのはおかしくないことです。と彼は付け加えた。


「ですが、お嬢様。今回は恐れながら、私から忠告させてください。もう、今年も上手く行かなかったのですから、来年以降はやるのを辞めましょう」

 普段は大体私のやる事なす事を肯定したり、褒めてくれるセバスチャンだが、こう提言してくるときは何かまずいことがあると言うことだ。


「どうしたの? 何かあったの?」

「いいですか、こちらをご覧ください」

 セバスチャンは泣いている私に、グラフを印字した紙を提示した。


「ここ数年、我々はクリスマス商戦に参戦しなかったところ、売上が他の商会にかなり取られてしまったのです。クリスマスはもはや、この国の中でも最も外せない商機となっているのです。売上が取られてしまった事に加えて、今回のデモによる人件費で……」

 どうやら、私は思っていた以上にお金を使いすぎ、あと3ヶ月以内に何かで売上を伸ばさないと、倒産確実と言うところまで来てしまっていたのである。


「嫌ー!! 嘘でしょう。ねえ、セバスチャン、どうしよう!」

 私はまたしても泣いた。

 すると、セバスチャンが落ち着いてください。いい案がありますと言った。


「いいですか。イベントを設定するには公平性を保つために、一回設定したら3年は待たなければなりません。あの目ざといローランと言う男の事です。次に狙ってくるイベントはきっと……」

「きっと?!」

 私はごくりと喉を鳴らした。

「きっと、バレンタインデーでしょうね」


 バレンタインデー。そうだ。このイベントも私にはクリスマスほどではないが、苦い思い出しかなかったため設定していなかったのだ。

 そうか。このイベントも、恋愛関係では重要な日だ。確実に奴はこの日を狙ってくることに決まっている。


「しかも、彼が新しいイベントを設定できるようになるのが、明日からのようなのです。ですのでお嬢様。今すぐバレンタインデーの概要の決定と設定をしましょう。そして、我らが主導権を握り売り上げを奪取するのです!」

「えぇ。わかったわ。この日もあいつらのままになんてさせなくてよ!」


 私はさっそく、バレンタインデーの概要についてこう決めた。


 バレンタインデーとは男女限らず思いや愛を伝えあう日である。もちろん、恋人と過ごすのも良い。さらに、この日は愛を伝える日でもあるので、普段仲良くしている友達に感謝を伝えるのも良い。普段頑張っている自分への愛、感謝をするのも良い。

 プレゼントはなんでもいいが、おすすめはチョコレートである。と。



 すると、この策は予想以上に大当たりした。

 私の商会は残り僅かな資産を元手に、この国中に点在しているショコラティエをかき集め、イベントを開催したのだが、チョコレートが大好きな女性たちが押し寄せ、売り切れ続出となったのだ。


 最初はこんなイベントをやって、本当に人なんて来るのか? と疑っていたショコラティエたちも、この結果には大喜びして、ぜひ来年もやって欲しいと言ってくれた。


 おかげで経営はなんとか軌道に戻り、数ヶ月後に迫った倒産の危機を回避することができた。


 提案してくれたセバスチャンも大喜びだった。もちろん、問題を回避できたのは彼の功績でもあるため、特別ボーナスの支給を告げると、感涙しながらさらに喜んでくれた。


 それから私は粛々と経営を行い、気が付けばまた12月になっていた。


 しかし、今回は過去の失敗があるので、世の中のカップルはお金を運んできてくれる只の運搬人とみなすことにして、うちの商会でもクリスマスを取り入れることにした。

 やっぱり世の中銭や。主義主張なんかよりも銭の方が大事なんや。と思いながら。



 そして、今日、私はクリスマスイブに合わせて新たにオープンさせる、ブヤシ地区の3号店に来ているのだが……事件が起きた。

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