2.まずは街づくり
さて、このゲームはまず、自分が出店する商店を配置しなければ始まらない。
初めに配置するのは本店となるのだが、配置する街は住居の場所を除いて、4方向にジュクシン地区、ブヤシ地区、ジュクハラ地区、ギザン地区に分かれており、その中央にはキョートー地区と言うものがある。
そして、それぞれどのような特徴があるかと言うと。
ジュクシン地区は現在この国で最も栄えている場所だ。手っ取り早く稼ぐには、この地区に出店するのがいいと言われている。
ブヤシ地区はその次に栄えている地区で、2号店を出店するならこの地区がよいとされている。
ジュクハラ地区はまだあまり栄えてはいないが、後々個性的なファッション好きの女子が集まってくるスポットとなるため、若者文化を重視したい国づくりをしたい人にはお勧めらしい。
ギザン地区は現在ほぼ野原で何もない。
あるのは女神の泉と、その女神の泉の前に配置された、某任侠ゲームに出てくるカラの一坪ならぬ勝者のための大地というものがある。
そして最後に、キョートー地区はこの国の国王陛下が住み、国の政治をつかさどる場所でもある。
この場所は小さく、神聖な地であるため土地を買うことは不可となっている。
私が真っ先に本店を出店するのに決めたのは―――ギザン地区だった。
出店する際、セバスチャンからお嬢様、ここには何もありませんよ! 始めたところで客なんて入りません! とアラートを出してきたが、私はそれを無視した。
なぜなら、このギザン地区は今でこそ価値がなさそうに見える場所なのだが、ゲーム後半になると地価が爆上がりする仕様なのである。
なので、序盤は赤字覚悟で出店し、ゲームの後半になったら家賃収入や土地を売り払うことで利益を得るのが私のいつもの方法だった。
実はこのゲーム、商店だけではなく、所持金を元手にアパート、マンション、大学、ほかの商会が入る高層建物などを誘致して、不動産経営も土地ころがしも出来る仕様となっているのだ。
また、年月が経てばたつほど、国が発展して人口が増えていく半面、売りに出される土地はどんどん減っていく。
すでに建物が建っている土地の買収も出来なくはないのだが、ケタを間違えているんじゃないかと目の玉が飛び出ると思うほど、購入費が高くなってしまうのである。
そのため、ゲームの初期状態でなるべくこのギザン地区の土地を買いまくるのが、一番お得という訳である。
さらに、私には別の目的もあった。
それは、このゲームの目標である我が商会が覇権を取るためである。
その覇権と言うのは、先ほどにも出てきたギザン地区の勝者のための大地という場所だ。
ここはゲーム終盤にならないと得ることが出来ないのだが、勝ち得れば、作ることを許されていないデパートを作ることが出来るので莫大な富が得られる。
また、この勝者のための大地は驚きの吸引力とも言えるほど、集客力が凄まじいため近くに自分の店を置いておけば、さらに収入はガンガン増えるという仕様なのである。
そして、十分すぎるほどの富を得られれば、ライバル商会をつぶすこともたやすいのだ……
そう言う訳で、私は倍増させた初期の所持金を元手に本店のほか、将来の不動産経営のための土地を買いまくり、さらに住環境を良くするために、警備隊、消防隊、病院、そして教会を作った。
しかし、これだけだとセバスチャンのいう通り、赤字になることは間違いない。私はまだ所持金には余力があるので、赤字補填としてジュクシン地区に二号店を構えることにした。
私の目論見通りというか、いつもやっていることだが、順調に店は売り上げを伸ばしていき、同時に街も発展していった。
街を散策し、住人の需要を聞き、そのニーズにこたえるように商品を仕入れたり、レイアウトの配置を変えたりする。久しぶりにこれをやるのは、なかなか楽しいと私は思っていた。
しかし、あるイベントが突然発生したことで、私は一気に気分を害されることとなった。
その始まりは、なぜかハロウィンのイベントが発生したのである。
私は不審に思いながらも、イベント時はその季節に合わせた商品を仕入れると売り上げが倍増するので、ハロウィンらしく、かぼちゃやお菓子、そしてお化けグッズなどを取りそろえて、レイアウトもその仕様にした。
そのお陰でこの時は結構繁盛し、そのあとは特に何も思わず、粛々と経営を続けていた。
だが、運命が変わったのはその3年後のことだった。
突然、今までその気配はなかったのに、11月の中旬くらいから街の中でシャンシャンと鈴の音が聞こえてきたのである。
嫌な予感がして、街のショーウィンドーを見れば、店員が赤や緑、さらに金や銀の玉で何やら飾りつけをしている。
さらに、別の店員たちを見れば、うんとこしょ、どっこいしょと頂点に星の乗った大きな木を窓の中央に配置している。
また別の店員に至ってはこんなことを窓のスプレーに書き込んでいた。
「Merry Christmas!」
私は人目があるのにも関わらず、ぎゃあ!! と大きな声を出して、自分の家に飛んで帰り、ベッドの中ににもぐりこんで布団をかぶった。
なんで? なんで? なんで? なんで大嫌いなクリスマスがこの世界にもやってきているの?
私がこのゲームで遊んでいた時は、このイベントは発生しないように設定から除外していたというのに!
私は大急ぎでセバスチャンを呼びつけると、すぐさまこの世界からクリスマスのイベントを消し去ってとお願いした。
しかし、彼はそれは無理だと首を横に振った。
「どうして?! 設定から無効にすることは可能でしょう?!」
「お嬢様。それは、最初にこのイベントをセッティングしたのがお嬢様ではなく、別の人間だからでございます」
セバスチャンによると、最初にセッティングした人間ではないと、この設定をオフにすることが出来ないそうなのだ。
「一度でもお嬢様が先にセッティングしておけば、その後、お嬢様の判断でオフにすることができたのですけどね……残念でしたね」
「ぐぬぬ……なんなのよ、そんなの知らなかったわ! というか、これを設定したのは誰なのよ!」
私は叫ぶようにして、セバスチャンに聞いた。
「それは私にもわかりかねます。ですが、キョートー地区での夜会に出てみたら、その設定した主に会えるかもしれませんよ?」
「夜会? 夜会って何それ。そんなのも初めて聞いたんだけど」
「では、ご説明しましょう」
セバスチャンによると、夜会というのは、まあ舞踏会のことだそうだ。
これに出席する、しないはゲームの進行上や、評価に影響は出ないそうだ。
むしろ、プレイヤー同士の交流のためだけのものだそうで、かといってアイテム交換ができるとかもないらしい。
ちなみにプレイヤー同士の交流というが、このゲームは現在のようにオンラインで交流するものではなく、そのゲーム機器を持った者同士が近くによることで通信できるという機能なのである。
今思うと大したことがないように思えるが、当時は画期的なシステムだったのだ。
言っておくが、私はこれで遊ぶような友達がいなかったので、使ったことはない。悲しいことに。
「まぁ、人付き合いが嫌いな私からしたら、出ても意味ないイベントね」
「はい。だからお教えしていなかったのです。ですが、私とこちらの会に出席すれば、何らかの情報は得られると思うのですが、いかがします?」
「でも、行かなければ誰がセッティングしたのかわからないのよね?」
「はい。左様です」
……それじゃあ、行くしかないではないか。
設定した本人に、私はクリスマスになると、動悸がし、気分が悪くなり、死にそうになってしまうのだと伝えてみよう。
心優しい人だったら、止めてくれるかもしれない。
でもそうではなかったら……
それ以上はなるべく考えないようにして、私はセバスチャンに夜会用の服を用意してもらった。