その番への求婚、法令を遵守していますか？ ～ローファンタジー版～
うちの獣人が、馬鹿になるだけなんです。
普通は普通なんです。
本日はこのような場を設けていただきありがとうございます。
講師を務めます鈴音と申します。
さて、今日の講義ですが、契約婚のきれいな終了の仕方、番への求婚への速やかな移行、についてです。
獣人の皆様は大体２０代も半ば程度までに契約婚をされるのが一般的と聞いております。昨今は番が現れるまでのつなぎとしての婚姻から幼馴染やお付き合いされていた方などと婚姻までいろいろございます。
情のない関係から、恋愛結婚までということですね。
それぞれ解決法が異なりますので順を追ってお話させていただきます。
まず、番とはなにか、というのは獣人の皆様には改めてお話するようなことではないと思いますが、簡単にお話いたします。
番というのは獣人の方々の半身と言うほどに所有したいものである、という存在です。
大変いいがたいことですが、番を見つけた瞬間の獣人は、馬鹿になります。
本当に、知能指数が落ちたんじゃないのかと疑うくらいに、馬鹿になります。
おや、異論があると、まあ、まず、冷静にお聞きください。
あとで拝聴させていただきます。
普通の一般的社会生活をしている獣人の方々は、普通に初対面の相手に結婚しよう、強制だ、などといわないでしょう？
ところが、番となった途端、そう言うのです。
番となった方々にアンケートをとったところ８割が初対面で言われたと回答をいただきました。
残り１割はまあ、せんの……いいえ、幼いころから君は僕のお嫁さんと言い聞かせられていたとかでした。
さらに１割の方は、番の衝動を抑え、冷静に身辺整理後、さりげない風で接触を図っていましたが、それすと……いいえ、理性的でよかったです。
総合的に、十割、理性、常識、社会通念をぶん投げます。
番の獲得のためならばわりと破滅的な選択も視野に入るくらいの駄目さです。一緒に死にたくないのに心中させられるようなものです。
え、番は幸せだろう。愛されることもないやつが、愛されたのだから。
別に、愛されたくはありませんでしたよ。恋も愛も知らないうちに、番だからと座敷牢放り込む神経の持ち主に飼われるのは。
こほん。
まあ、それは今どきではない過去の事例、ええと今はないですよね？ 本当ですよね？ 怖すぎるんですけど。
あったら違法でとりしまります。番であっても人権ありますので。場合により、獣人用の保養施設に一生監禁です。番と楽しく過ごすことなど無理です。恐ろしいですね。
賢明な皆さまはしないと思いますけど、施設の詳細については資料をご用意していますのでご確認ください。
この愚かしさを抑えるための呪符が最近開発され、試験段階です。まあ、死に物狂いにもなりますよねぇ……。いえ、余談でした。
とりあえずはその衝動を抑えるのは、基本的に難しいものと認識していてください。
自分、番見つけたら馬鹿になる。
それはもう仕方ありません。
そのために事前の備えをしておきましょう。
さて、ここで契約婚に話は戻させていただきます。
番に出会う前に契約婚をしていた場合、まず、離婚してから番に求婚しましょう。番の種族にもよりますが、一般的に一夫一妻制度なので、離婚しないと浮気になります。そして、普通の一般的良識のある人というのは、いきなり浮気しましょうと言われて同意しません。むしろあり得ないと拒否します。
少し前にお話しした、番だから結婚しようというのは、場を選ばず見つけた瞬間に言われたという事例が多数報告されております。それは公衆の面前であることが多く、到底受け入れがたいというお話もいくつかいただきました。
そこから頑張ってリカバリーした皆さまの熱意と番様の心労がおいたわしい……。
ということにならないように、番に愛を告白したい！ ちょっと待て！ 離婚が先だと提唱したいと思います。
未婚の方も、いきなり人前で告白するのはやめましょう。初対面です。相手はあなたに運命感じません。不審者です。すこしばかりの理性を動員して、名前と次会える段取りを優しく取りましょう。高圧的にこられて受ける方は少数です。
君に興味があって、ちょっとお話したいな、程度で抑えるのが肝要です。
待っている間に誰かほかに持って行かれるかもしれない？ 確かにあるかもしれません。相手方もすでに結婚している場合もありましょう。
そこはもう、忍耐です。チャンスを狙わねば、ミリも受け入れません。
皆様方は番の方といちゃラブがしたいんですよね？ それならば耐えることも必要です。
忍耐もそれほどもたないと思いますので、契約婚からの離婚については事前に契約書を作っていた通りに自動的に執行されるよう手配をされておくことをおすすめいたします。
情のない契約婚の場合には速やかに対処すれば早く解決することが多いです。お互いビジネスということがあります。
その場合には専任の弁護士がいますので、連絡一本ですすめてもらえるよう手配することができます。
もちろん、相手方がいるものですので揉めることもありましょう。そこは金品で贖うことがあると思いますがある程度は詫びだと思って支払ってください。
ケチらない。これが肝要です。もっとも金づると思われては困りますので過剰要求は拒否いたします。
また、子がいた場合には、成人までの養育費を払うことも大事です。一時は結婚した相手です。配慮しましょう。
恋愛結婚した場合には揉めることを覚悟してください。すでに醒めていたという例外を除き、ある日急に冷たくされるようになるのだから混乱します。向き合って解決というのは、番を見つけて舞い上がっている方には荷が重いので、これも専任のものから話を詰めていったほうがよろしいかと思います。
一般的に半年から１年程度での離婚が多いこともお伝えしておきますね。
待てない？ それなら番の方が泥棒猫やらNTRとかまあ、傷つくようなことを言われることになります。耐えられない？ いうヤツを制裁する？ 根本の原因はご自分だということはご自覚ありで？
わかってくださいますか。そうですか。よかったです。
契約婚されていた方のメンタルケアについても契約婚協会が請け負っています。契約婚中の相談も受け付けておりますのでよろしければ資料をご確認ください。
離婚が無事成立し、独身になられて晴れて番へ求婚をと急ぐ気持ちはわかります。
しかし、ここは手順を踏みましょう。重ねて言いますが、いきなり知らない人に求婚されても困惑するものです。
知らない人に結婚してくれといわれるより、好きな人に言われたほうが効果は絶大、幸せな結婚生活が期待できます。
獣人の方々の理性にかかっていますが、あまりあてにならないので、ご友人同士を頼りましょう。普通やっちゃダメなことを指摘してくれるでしょう。その時は恨むかもしれませんが、後々感謝することになります。
うまく番と婚姻の約束を取り付けることができたあとも油断は禁物です。
番は家にいてずっと家にいて、という方もいらっしゃるでしょう。外に出さずに人の目に触れぬようにと閉じ込めてしまうこともかつてはございました。
同意なくした場合、違法です。
拉致監禁として処罰されます。
バレなきゃいいと思ってらっしゃる方もいるかもしれませんが、その考えは捨ててください。それは愛情によるものでしょうか。あなたの不安を相手に押し付けているだけで、相手を信用することができない己の弱さによるものではないでしょうか。
愛しているなら、相手の自由と望みを許してください。それがより力を持つものの愛し方でしょう。
望んで引きこもりなら引きこもりでもいいと思うんですけどね……。
以上、軽くではありましたが講義を終了したいと思います。
質疑応答は後ほど。
では、休憩します。
