国破れて何想う(2)
※今回も主人公は出てきません…。
シーザー帝国第四皇子は悩んでいた。
この度の戦で併合したユリウス領の領主として封ぜられたからである。
元来ユリウス王国は小国ではあったが土地に恵まれ豊かな国であった。
山に囲まれているという地の利もあったため他国に差ほど干渉されたこともなかった。
伝承によるとアウグス暦前よりあった伝統ある国だったという。
なので当然ながら独自の文化が発達し、言語も公用語こそ使っているもののヒドく訛っていて分からないものもある。
しかも大変排他的で保守的である。
端的に言えば、彼は統治することにさっそく行き詰まっていた。
『あの使えないクソ狸ども、何かと言えばやれ伝統だ血統だなんだ…今はそれよりやんなきゃなんないことあんの分かんねーのかよ!!』
一人黙々執務室の中で書類を確認しながら彼は心の中で罵詈雑言を並べたてる。
今領内の状況は最悪だと断言して言える。
戦火の爪痕は思いの外深く、城下の街は跡形もなく燃えてなくなり生き残った人々はそこに簡易テントをはり、帝国より日々少量ずつ配給される生活物資で飢えを凌いでいた。
当然経済活動は不可能な状態だ。
更に壊滅的なのは農作物だった。
畑は踏み荒らされ、生産者は殺され、無人化した村が幾つもあると報告されている。
これでは冬を越す前に餓死者が増える一方だ。
それなのに貴族達-下剋上前の-は領民には我関せずで如何に城内で自分の権力を強めるかばかり考えている。
しかも未だにシーザー帝国を格下に見る風潮は抜けきっておらず、領主の自分にもあからさまに嘲笑を寄越し、表面上は取り繕っていても悉く自分の案を却下するのである。
だからと言ってこれといった建設的な案をだすでもなく、のらりくらりと税を免れようとばかりする。
それこそ粛清してやりたいとつい思わずにはいられない。
しかし実際にはそうもいかなかった。
シーザー帝国は旧王家を支持するという大義名分で新王家を打倒したため、体制は結局蜂起前に戻っているのだ。
事実、帝国が攻め入った時も彼らは新王家への不満から応戦しようとはしなかった。
それが評価されて彼らはめでたく復権したのだが…。
血統主義が過ぎるのだ。
口を開けば新王家の浅ましさから始まり、自分の血統が如何に正統かを自慢し、終いには旧王家復古を謳いだす始末。しかも全員でだ。
それを毎日繰り返されて、しかも進まない復興。彼はノイローゼにでもなりそうだった。
もし仮に旧王家に生き残りがいれば彼とて取れる方法は幾らかある。
しかし、旧王家への粛清は直系どころか傍系にまで及んでおり、生き残りは皆無に近いと思われた。
そんな彼に旧王家生存者発見の一報が入ったのはその日の夜のことだった。