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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

青い目のシリーズ

人魚の水槽2

作者: バケツから声
掲載日:2023/12/13

綺麗なもの見ているのが好きだ。

 たまに、どうしようもなく手に入れたくなる時がある。

 労働者が根を上げやすい人魚の水槽担当は、そんな僕に丁度いい場所だった。

 一人で彼女を独占して管理をしていられるから。

 これだけ穏やかに欲を満たせる仕事は、他に無いんじゃないかと思っている。

 先輩は、人間を安楽死させる役割を担うメリーに対して、罪悪感を感じていた。真っ直ぐで優しい人だった。

 綺麗な心の人だった。

 人魚の水槽の前に置かれたテーブルと椅子とヘッドフォン。

 いつでも人間を廃人にできる設備。僕は今日もそれを丁寧に拭き上げる。

 のんびりできる分、考え事をする暇のある仕事だ。

 緩やかな地獄だと先輩は愚痴っていた。

 僕はあくびをして、メリーの様子を眺める。

 メリーは僕が見ているのに気がついて、そばに寄ってきた。

 水槽に手を当てると、同じように水槽越しに手を重ねてくる。

 鋭い爪、それに見合わない細い指先。

 あんなに細いのに、少しの力で僕を水槽に引きずりこんでしまう力を持っている。

「そろそろ爪、切らないとなぁ」

 本来、彼女のメンテナンスは彼女を眠らせて陸に上げてから行うらしい。

 僕がひとりで担当するようになってからは、水槽でそのままメンテナンスをしている。

「掃除が終わったら、爪を切ろう」

 僕が水槽から手を離すと、メリーは水槽の上に泳いでいった。

 そろそろ彼女の水槽の掃除の時間だ。

 僕はデッキブラシとバケツを持って、彼女の元へ向かう。

 野生化の環境を模倣した造りの水槽には、陸地の設置がしてある。

 陸地の清掃は毎日の仕事の一つだ。

 陸地に足を踏み入れると、メリーが陸まで上がってきて手招きをする。

 そばによると、鱗を一枚差し出された。

 近頃は毎日こうだ。

 貰った鱗に喜んだフリをして、胸ポケットにしまうと、メリーは満足そうに水槽に戻っていった。

 今日で252枚目。人魚の治癒力ならば鱗を1日1枚剥がす程度は問題が無いと専門医が言っていた。大丈夫だとは思うけど、様子見中だ。

 そういえば、人魚を食べると不老不死になるとかどうとか、そんな話を聞いたことがあったな。鱗だけでも、効果があるんだろうか。

 まぁ、僕が不老不死になったところで・・・。

 掃除を終えて、片付けを終えた僕は、メリーに声をかける。

「メリー」

 すぐに水から顔を出したメリーは、僕のそばに泳いでくると陸に上がった。

「爪が伸びてるから、今日は少し爪を切らせてね」

 僕はそう言いながら、彼女に爪切りを見せる。

『เหจวเขขจาลมช』

 メリーの声は聞こえない、不安な顔でパクパクと口を動かしている様子だけが見える。

 僕は耳栓を深く埋めみ見直して、メリーの左の手を取った。

 爪切り鋏を爪に当てると、メリーの表情が強張った。

 こんな爪で引っかかれたら、ひとたまりもないだろうな。

「いい子だね、大丈夫、すぐだからね」

 僕なんて、簡単に振り払えるだろうに、彼女はぎゅっと目を瞑ってじっとしたままだ。

 幼い子供みたいだなと思いながら様子を見ていると、不意に彼女が自らの右手を噛んだ。

「・・・待って、何してるの!?」

 僕は慌てて彼女の自傷行為を止めに入る。

 ストレスだろうか、どうして急にそんなこと・・・。

 これまで何度か爪を切ったことはあるけど、こんな反応は初めてだったし、これまでの記録にもそんな記録はなかった。

「เหจวเขข‼︎ จาลมช‼︎」

「・・・っ」

 止めようとするが、彼女はびくともしない。

 彼女の白い腕から、とぷとぷと赤い血液が滴って地面に滲む。

「どうすれば・・・っっ!!」

 焦る僕の手を、メリーが強く引っ張る。

 錯乱状態になっているのだろうか。

 急に水の中に引き摺り込まれて、視界を奪われる。

 苦しい。何が起こってるのかわからない。

 酸素を求めて口を開けると、大量の塩水が口に入ってくる。

 目が痛い。鼻にも水が入っているだろう。

 泳いで陸に上ろうともがいても、彼女につかまれた腕がびくともしない。

 パニックになりながら、必死にもがいていると、柔らかいものに口を塞がれた。

「・・・・‼︎‼︎・・・っ!・・・‼︎」

 苦しい。苦しい、苦しい、苦しい。

 酸素を求めて喘ぐ口に、生暖かい液体が入ってくる。

 心臓がドクドクとひどく脈打って頭がガンガンする。

「ごふっ・・がっ、ゴホッ、ごぼっ、ごっ、ごぼ」

 水が気管に入っているのか、生暖かい液体が気管に入っているのか、咳き込むと余計に苦しくて、視界が暗くなっていく。

「・・・・・」

 遠くなっていく意識の中、メリーが無邪気な笑顔で僕の耳栓を外すのが見えた。

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