エピローグ(第1話) 異世界へ
俺には、かなり曖昧で夢のような不思議な記憶がある。
その内容は、雲の上から美しい天使とともに地上に落ちていく―――
そんな恐怖すら覚えるような内容だった。
ただ、その記憶を思い出すと、何故か少し幸せな気持ちになってしまうのだ。
***
俺は如月伊織。多分普通の中学3年。部活はサッカー部で、基本的にベンチだ。成績は…まあ、平均ぐらいはあると思いたい。そして俺にはいつも一緒に帰っている友達がいる。神山蓮というやつだ。
「わりー、待たせたな。そろそろ帰ろーぜ」
今話しかけてきたこいつだ。顔は…まあまあ良い。性格は悪くないと思う。しかも、部活はバレー部。エースで女バレから人気があるんだとか。最近ちょっと妬ましくなってはいるが、俺と結構仲良いのだ。俺と蓮は幼なじみでずっと一緒にいる。互いに信頼しているいわゆる親友といったところだろうか。
「そうだな、帰るか」
と返事して俺たちは歩き出した。
今は夕方で部活終わりの学生が帰るぐらいの時間帯だ。所属している部活は違うのだが、いつも校門の所で待ち合わせして一緒に帰っている。今日もいつも通り集合して、いつも通り通学路で帰る。そこまでは良かった。
青信号になったのを確認して横断歩道を渡ろうとしていたときだ。大型トラックが小学生ぐらいの子にむかって猛スピードで走ってきたのだ。
「危ないっ!!」と叫んで蓮はその子を突き飛ばした。自分も走って逃げようとしていたみたいだが足をくじいてしまったようで上手く立ち上がれていない。れんっ!!!と叫び俺は蓮を引きずって車道から出ようとしたのだが…間に合っていなかったようだ。
声を上げる間もなくはね飛ばされていた。気づいたときには自分たちの轢かれた体を空中から見つめていた。
現実を受け入れるよりも先に気を失ってしまった。
***
目が覚めると、美しい見知らぬ都市の中に居た。
しばらくしてから自分に何があったのか思い出せた。ただ、死んだかもしれないことに対してショックで何も考えられなくなっていた。思考を放棄してぼーっと夜景を眺める。そんな俺の視界に良く知った人物が写りこんだ。
「おーい、伊織ー!大丈夫か?」
だいじょばねえよと返そうとして、ようやく我に返った。自分の置かれている状況を理解して、やっと冷静になった。
「だいじょばねえけど、これからどーする?」
「んー、とりあえず通行人とかに聞こーぜ」
周りを見渡して、人の姿を探す。すると、驚きの事実が判明した。
なんとエルフやヴァンパイア、ドラゴンや鳥人間(?)、他にも天使や悪魔、精霊などの人型の魔物が街を歩いていたのだ。いわゆる異世界だ。
「嘘だろ!?本物の異世界じゃねーか!!って待てよ?言葉通じるか問題が出てきたけど伊織いけるか?」
「分かんねーけどとりあえず俺が聞いて来るわ」
と言ってまともそうな通行人の姿を探す。左側の路地に目を向けるととんでもなくかわいい天使のお姉さんがいたので、とりあえず言葉を考えながらその方にダッシュした。
お姉さんに今の状況を事細かに話すと、お姉さんはえ?という感じの反応を一瞬したあと、すぐに納得したような顔で
「珍しいケースだね!異世界から魂だけが抜けて来ちゃったのかも。とりあえず私たちの神のミカエル様のところ連れてっとくね。あと、なんかあなたオーラが天使みたいな感じするんだけどさ、心当たりって…ないよね?」
と言われた。
言葉が通じた事に喜んだのもつかの間、あまりにも気になるところが多すぎて頭が回らなくなってくる。何から聞いて良いのか分からずに呆然としていると、
「じゃ、ミカエル様のとこまで運ぶねー」
と声をかけられ、蓮の事を伝える前に俺の視界は暗転した。