姉を自称する不審者
僕の名前は貝原 千依、時間にルーズな高校二年生の17歳だ
時々、名前で女だと思われるが、残念だったな男だ
そんな僕は今、夜中に自分をお姉ちゃんだという謎の女に追われている…てか、捕まった
千依「…だ、誰なんだよ、あんたは!?」
???「だから、千依のお姉ちゃんって言ってるじゃん」
何故、僕はこんな事に巻き込まれるの羽目になったのだろ…思い出してみる
⏰放課後に巻きもどる
千依「…帰るか」
モブA「あれ?今日のカラオケどうすんだ?」
千依「あぁ、ごめん…バイト入ってたの忘れてた」
モブA「しっかりしろよ…」
千依「先に帰る、またな」
モブA「おう!」
⏰家に着く
千依「着いたぁ…」
叔父「帰ったか、おかえりなさい」
千依「うん、ただいま」
僕は、訳あって叔父の貝原 三夏月と暮らしている
千依「バイト、行ってくるね」
叔父「あぁ、気ぃつけてな」
家を出る
僕のバイト先は自転車で15分程にある本屋で働いている
千依「こんにちわ〜」
万月「やっと来た!」
千依「遅くなってすみません」
この人は店長の貝原 万月さんで、なんと齢21でこの書店の店長になる天才…という訳じゃなく、ただ単におじさんが腰を悪くしてここを続けるのが難しくなり万月さんが継いだだけである
万月「いいさいいさ!どうせ、常連しかこないんだし!」
千依「よく経営できますね…」
万月「私は頭がいいからね…他でお金を稼いでるのさ!」
千依「そっすか」
万月「興味無いのぉ?」
千依「めんどくさいっす」
実際、万月さんがやってる副業というか本業というか…おじさんに聞かせてもらってもあまり理解が出来なかったのである
万月「むぅ…」
まぁ、いつもこんな感じでバイトが始まるのだ
⏰夜
千依「ん…うぅ…はっ!」
いつの間にか眠りこけていたようだ
千依「店長は…って、あんたもか」
万月「すぅ…すぅ…」
千依「…」
普段は店長と常連のせいでうるさいが、それらがいないとなると、途端に静かになる…僕のお気に入りの時間だ。まぁ、店長が寝ててもいいなんて凄いところだなと思いもする。時計を見て、帰らないといけないと思い、僕は店長に声をかける
千依「店長…店長さーん」
万月「…ん」
千依「僕は帰りますよ?」
万月「ん!ふぁぁ…気おつけてね〜」
また寝ようとしてやがる…
千依「それでは」
⏰帰り道
千依「あれ、スマホは?」
千依「忘れたか〜…めんどくさいけど取りに行かないと…」
???「そこの君」
千依「ん?」
後ろから声がしたので振り向くと
???「君の名前はなんだい?」
千依「…すみません」
???「あっ、おい!」
全速力で自転車を漕ぎまくる…が
???「名前聞いてるだけじゃん…」
千依「なんで追いつけんだよ!?」
その女は僕に追いつくどころか、喋る余裕さえもあった
???「名前教えてくれたら教える〜♪」
千依「…!」
普通は教えたくないが、僕は知的好奇心に負けて自分の名前を教えてしまった
千依「千依!貝原千依!」
???「旧名は?」
何故この女は僕に旧名がある事を知ってるんだ?
千依「…宮月」
???「う…そ?」
千依「は、はぁ?」
こいつは何言ってんだ?
千依「あんたは一体何なんだよ!」
???「お姉ちゃん」
千依「誰の!?」
???「千依の」
千依「残念ながら僕にお姉ちゃんはいない!…いないんだよ!」
???「じゃあ、こういったら分かるかな?…」
海未「宮月海未だよ、千依」
千依「は?」
これがいけなかった
海未「危ない!」
千依「あっ…」
僕の目の前には軽自動車が迫っていた
千依(なんでこんな目に…僕が合わないと!)
千依「…!」
僕は目を閉じて何秒経っただろう…1分なのか、1時間なのか…それとも1年経ったと言われても信じるかもしれないだろう
千依「…?」
しかし、どれだけ時間が経とうとも、'"何か'"がぶつかった音はしたが、衝撃は伝わってこなかった
意を決して目を開くと…
千依「…は?」
そこには、片手で車を止めてる海未がいた
千依「な、う…い、いや!」
一刻も早く、この場から逃げ出したい一心で適当に走っていった
海未「あーあー…見られちゃったな…」
千依は海未が何かを言ってるのは気づいたが、何を言ってるかは聞こえなかった…
その数秒後、軽自動車から1人の男が出てきて
男「誰だてめぇは…ば、化け物か!?」
海未「…黙って」
男「け、警察…」
海未「黙ってって言ったでしょ!」
男「ギャァァァァァァァァァァァァァァァァ」
千依「な、何!?」
後ろを振り返った千依が見たのは…'"肉塊'''が散らばっていた
海未「…」
もうそこからは何も覚えてない…
⏰何処かの公園
千依「はぁ、はぁ、はぁ…ゴホゴホ…うっ!」
どうしても口内からでる熱い液体を止めることが出来なかった
千依「なんだよ…一体…僕が何したってんだ!」
千依「はぁ…ゴホゴホ」
海未「千依は何もしてないよ」
千依「ひっ!?」
海未「怖がらなくていいよ…食べたりしないから」
僕はお構い無しに逃げるが…
海未「今度は逃がさないよ」
腕を掴まれてしまい、どんなに強く振り解こうとしてもコンクリで固められたかのように動けなかった
千依「…だ、誰なんだよ、あんたは!?」
海未「だから、千依のお姉ちゃんって言ってるじゃん」
千依「ふ、ふざけんなよ!…僕の親は死んでるんだよ!」
海未「お姉ちゃんは?」
千依「え?」
海未「あんたのお姉ちゃんはどんな末路を辿っているのかな?」
僕のお姉ちゃん…名前は宮月 海未。小さい頃のあの事件のせいで両親は死んだが、海未だけは"行方不明" になっていた
千依「…行方不明になっている」
海未「うん、それが私って訳」
千依「じゃあなんで…」
口から出る言葉が、他の人が喋っているように感じる
海未「私は…お父さんとお母さんを見捨てた」
海未「今日はあの日…今から10年前のちょうどあの日にあの'"吸血鬼'"が現れた」
千依「ちょっと待って…意味が分からない…」
海未「分からなくても、分からなくちゃいけないよ、千依」
海未「あの日、1人の…いや、1匹の吸血鬼が私達家族を殺しに来た」
千依「…なんの為に?」
海未「同族殺しよ」
千依「おい待てよ…その言い方なら!」
海未「そうよ、私達も'"吸血鬼'"ね」
千依「ならなんで僕は太陽で死なないんだ!?ニンニクだって食べたこともある!」
ニンニクのやつは少しふざけた表現かもしれないが、太陽のやつだけは吸血鬼の生死に関わる問題である
海未「普通なら、ね」
海未「じゃあ、問題をだすから解きなさい」
海未「吸血鬼の生まれ方と人間の生まれ方の違いは?」
僕は今ある知識で間違ってるかもしれないが、答える
千依「…人間は母親から生まれる…吸血鬼は、血を吸ってまた吸血鬼が生まれる…か?」
海未「正解よ」
千依「何が言いたいんだよ?」
吸血鬼の作り方が吸血によるものなら、僕は生まれてこの方吸われたことは無いから違うはずだ
海未「そのまんまの意味よ」
しかし、現実は思ってたよりも複雑なものでは無く、簡単な事だった
海未「私達は母親のお腹から生まれたから半人半吸血鬼みたいな感じになったの」
海未「お父さんが吸血鬼で、お母さんが人間」
遺伝。親の特徴が子に受け継がれる。それだったら吸血鬼の性質と人間の性質も合わさって半人半吸血鬼になる事も理論上だと変な事は無い。実際、オスのロバとメスのウマの交雑種のラバ、オスライオンとメスのトラの混血であるライガー、シマウマと馬のハーフであるゼブロイド。そんな動物達がいる訳なのだから。勿論人間も動物の一種なのだから出来ない訳が無い…。
だが、今言っているのは人間と空想上の妖怪、"吸血鬼"なのである。いや、実際目の前にいるから空想上というのは違うのだが。
海未「不思議に思った事はない?やけに目がいいなと思ったり、朝が弱いと思った事は?他の人より怪我の治りが早かった事は?」
千依「…ある」
僕は昔、間違って鉛筆を足に刺してしまった時があった。しかし、一晩寝るとすっかり治ってしまったので、僕は足に刺したのは勘違いと思い、気にしなかったが…
海未「それも、吸血鬼の性質よ」
千依「でも、人間でもそのタイプのやつはいるだろ?」
海未「うん、だから今日は試しにきたの」
千依「何が…」
海未「はい」
千依「ひっ!?」
そこには、人間の左腕が差し出された
海未「…」
千依「な、何だよ…これ」
海未「ふふ♪」
その左手はまだ血が滴っていた…僕の頭の中では考えたくは無いが、今さっきの車の男の事を思い出してしまった
千依「何笑ってんだよ!」
海未「だってようやく、確実に私達は姉弟だって事が分かったんだもん♪」
千依「何言って…」
海未「口周りのヨダレ、分かんない?」
千依「え」
恐る恐る口周りを触ってみると、ヨダレが垂れていた
千依「な、なんで…」
海未「でも、今日までよく人間の血肉を食べずに我慢できたね…私なら無理かも」
海未「お祝いにそれあげる!」
千依「いらな…」
ドクッ
千依「!?」
海未「アハ♪滝のようなヨ、ダ、レ」
海未「分かってるかは知らないけど、それ出来たてホヤホヤだから腐敗は気にしないでいいよ」
千依「た、食べねーぞ… 」
海未「そっかぁ」
千依「だからもうや…」
その時、海未の手が千依のお腹を貫く
千依「あ、ああ!?」
千依「いたいいたいいたいいたいいたいいたい!!」
海未が手を引き抜いた時、鈍器で殴られたような痛みが僕を襲う
千依「ぐぶ!?」
海未「…君も強いんだね」
千依「……!!?」
お腹の傷が完治していた
千依「なんで…?」
海未「いったじゃん、私達は吸血鬼って」
海未「信じてくれた?」
千依「…あぁ」
自称海未の言葉を参考にするなら、信じたくなくても信じるしかないと言ったところだろう。その段階に僕は行き着いてしまった
海未「ほ、ほんと!?」
千依「今ので流石に…」
海未「じゃあ、'"人間食べにいこっか!'"」
千依「はぁ!?」
海未「はぁ!?じゃないよ!折角吸血鬼になれたんだよ?人間食べなきゃ損じゃん!」
千依「僕はこれから先も後も人間を食べる予定はない!」
海未「…なんで」
海未「なんで人間なんかの味方してるの?」
千依「人間だからだ」
当然だ
僕は他の誰かから何を言われようとも、人間と他の動物との子供でも、例え人間と吸血鬼の子供だろうと、僕は人間なんだ
海未「そう、ね…私のせいね」
千依「何言って… 」
海未「明日の夜12時に…そうだ、〇〇廃工場あるでしょ?…あそこでどちらが正しいか確かめましょ」
千依「どうやって?」
海未「簡単な事よ…姉弟喧嘩ってこと」
海未「まあ、殺し合いね」
千依「は?なんで!?」
海未「あら?人間も自分の都合を押し付ける為だけに戦争をするじゃない、それと一緒」
千依「だからって…」
海未「一応、姉として可愛い弟に1日の猶予をあげる」
海未「それ以上の情けはないと思って」
海未「また会おうね、ちーちゃん♪」
千依「ちーちゃん…」
そこで海未は実に吸血鬼らしい翼を生やして何処かに行ってしまった
千依「殺し合い…」
千依「僕になんの期待を抱いてるんだ…よ」
そこで千依は倒れた
⏰次の日
千依「ふ…ん…」
心月「起きろ〜!」
千依「痛!?」
僕の上に何かが乗ってきた…そして、その声に聞き覚えがあるような気がした
心月「朝だよ、お兄ちゃん!」
この子の名前は貝原 心月 (かいはら しんげつ)。店長である万月さんの妹で、今年で小学校6年生である。…しかし、男に飛びつくのは色々とやばいので素早く、そして丁寧にどかせ話を聞く。
千依「…ここは?」
万月「お、起きた?」
千依「あれ?店長?」
万月「お前なんであんな所で倒れてたんだ?」
千依「あんな所……あ」
昨日の事を思い出す
千依「…実は、お腹が空いて倒れまして」
我ながら素晴らしい嘘だ、欠点がない
万月「まず、お前の家は真反対でしょうが」
千依「…」
欠点しか無いとは思いもしなかったよ
万月「はぁ…話したくないなら、別にいいけど」
万月「父さんに迷惑かけないようにだけしとけよ」
千依「…はーい」
万月「よし!…なら、朝ごはん食べよ〜」
万月「今日は何かな〜♪」
千依(昨日の自称僕の姉に勝てる確率はどのくらいだろう…うん、ゼロっすね)
千依「あーあ…どうやって逃げよう」
千依「って、逃げる事しか考えてねぇ…ハハ…」
心月「お兄ちゃん?」
千依「あ、あぁ、どうしたの?」
心月「ごはん出来たから呼びに来たんだけど…」
どうやら2人が来た理由は朝ごはんの時間だからなようだ
千依「今、行くね」
心月「なんか、辛そうだね…何かあった?」
千依「んーと…まぁ、価値観の違いで喧嘩したって言えばいいかな」
別に僕は間違った事を言ってないはずだ
心月「価値観の違い?」
千依「うん、僕からしたら相手が100%悪いんだけど…相手からしたら、僕の考えが考えられないみたい」
心月「ふーん…お兄ちゃんはどうしたいの?」
千依「僕?」
心月「お兄ちゃんは自分の考えが当たってると思ってるけど、それは本当なの?それは自分と相手が幸せになるの?」
千依「自分と相手?」
心月「自分が良いと思ってもそれが全世界の人にとって良いものだとは限らないし、自分が悪いと思ってるものこそが全世界の人にとって良いものだと感じる事があるんだよ」
千依「…お前、ほんとに小学生か?」
心月「さて、どうでしょう?もしかしたら、お兄ちゃんより上かもしれないよ?」
千依「それだったらなんでお兄ちゃんと呼ぶのかね」
心月「この呼び方で定着してしまったのだからしょうが無いですよ」
千依「なんか肩の荷が少しおりた気分だよ…」
心月「私は…お兄ちゃんの考えが間違ってるとは思わないよ?だって、お兄ちゃん優しいし」
千依「きゅ、急になんだよ…」
なんだよ、そんな事言われたら惚れちゃうよ?彼女とかいないからすぐ惚れちゃうよ?
心月「でも、私は心配だな〜」
千依「な、何がだよ…?」
心月「油断して包丁でお腹刺されたり?」
千依「物騒すぎない!?」
でも、実際お腹は刺されてはいるし。凶器が手で、貫通しているのだけども
心月「うそうそ…でも、油断はしちゃダメだよ?」
心月「相手が普通の人間じゃなく格闘技習ってる人間ならお兄ちゃん細いからすーぐ倒されそう」
千依「大丈夫だ、その前に逃げる」
逃げ足の速さだけは自信がある。実践はしたことが無いが
心月「うわぁ…」
千依「引くな、傷つく」
心月「嘘だよ。でも、相手から逃げても相手の心からは逃げたらダメだよ、お兄ちゃん。そこで逃げたら自分と相手の間に修復不可能な傷がついちゃうからね…しっかり向き合う事が解決する秘訣だよ」
千依「いい事を聞いたよ」
万月「おーい、おふたりさ〜ん、はやく食べよ〜」
心月「じゃあいこうか、お兄ちゃん」
千依「了解」
この子は誰よりも大人であり、誰よりも子供らしくないと知ったのは、まだ先の事だった。
⏰朝食後
千依「さて、どうしたものかね」
???「千依君かね?」
千依「いえ、アラブの石油王です」
???「は?」
千依「申し訳ございません…そうです、千依です…」
???「同行お願いしていいかね?」
千依「え?何?なんかしたっけ?目玉焼きに醤油かけたのダメだった?焼肉にはタレより塩派だけども」
???「何を言ってるか知らないが…ともかく、来てくれ」
クソっ、昨日はちゃんと対応したせいで嫌な目をみたから変人を演じたのに効かないのかよ…
千依「…そういえば自転車忘れた!」
???「回収済みだ」
千依「なんで!?なんで回収したの??」
怖い、海未よりこの人の方が怖い
???「仕事だからだ」
千依「人の自転車を回収するのが仕事…?」
僕の問いに答えずに
???「乗るのか乗らないのか?どっちなんだ?」
千依「乗らせて頂きます」
???「よろしい」
⏰車に乗る事15分
???「着いたぞ」
千依「こ、ここ?」
千依「どう見ても一般住宅のようですが…」
近くにはコンビニや昔ながらの駄菓子屋もある、本当に普通なところだったのだ
???「カモフラージュの為だ」
千依「さいですか」
???「入ってくれ」
千依「あの、質問いい?」
???「なんだ?」
千依「なんでここに連れてきたの?」
???「行けば分かる」
千依「は、はぁ…」
僕は見た目一般住宅のような家の中に入ると
千依「すっげ、なにこれ…」
目の前には見渡す限りのーーー本
マンガや絵本は見た感じ無いが、ラノベから歴史小説、恋愛系からミステリー等幅広い本が僕の前に鎮座していた
???「興味あるのか?」
千依「本とか好きだからこういうの見るの好きなんだよ」
???「本を読まないから君の気持ちが分からんな」
千依「ふーん」
???「ここからは俺は入れないから、君だけで行くんだ」
千依「案内ありがとうございます」
???「…あぁ」
千依「♪」
僕はとある部屋のドアを開き、地下へと向かった
男は千依が行くのを見届けると、千依が言った言葉を思い出していた
???「ありがとう…か」
男は千依の事を変な奴だと思った
⏰
千依「失礼しまーす」
???「千依君かい?」
僕の前には大体20歳位の女が座っていた
千依「なんで皆知ってんの?」
???「そりゃそうさ!ここは妖怪、伝説、噂を扱ってる所だからね!」
千依「っと言うことは」
僕が言う前に目の前の女があの事を話した
???「そう、君があの吸血鬼って事くらい知ってるし、何よりあの宮月海未の弟だから知らない方がおかしいさ」
千依「あの宮月海未?」
???「それは、あの子は上が指定する第1級の指名手配犯…とだけ言っておこう」
千依「どういうこと?」
???「あの子は、今までで国内外で既に1万人以上の人間を殺しているんだよ…こちらとしては対処に困るからやめて欲しいんだがね…まぁ、殺したのが吸血鬼と知られてないだけまだマシだがね」
千依「1万…」
まぁ当然と言えば当然と言えるだろう。あいつは僕に人間を食べようと誘ってきたのに自分は食べてないなんておかしな話だ
???「まぁ、幸運な事に眷属になったやつは誰1人としていないのが救いだな」
???「じゃなかったらとっくに人類は滅んでいたかもだからね、ハッハッハ!」
千依「笑えねーだろ」
多分、1日1人を眷属にしていたら1年も経たずに地球は人間じゃなく吸血鬼が蔓延る星になるはずだしな
???「失礼しました…」
千依「意外と素直!?」
???「それで、どうだった?あの子とあって」
千依「あんなん、ただの殺戮マシーン以外に何があるんすか…」
???「ほんとにそれだけかい?」
それだけかと言われたら…一つだけ思っている事がある
千依「…今思ったら、意外と寂しがり屋なのかもしれないなーっ思っただけさ」
???「寂しがり屋?」
そこで僕は昔の記憶だが、色々と内容が濃くて今でも全部覚えているのだ
千依「少し、昔の事になるけど、僕達家族は仲良しで特に僕と海未はカップルかよって突っ込まれる位だったんだ」
千依「そのせいで馬鹿にされてた事を思い出しちゃったよバカヤロウ…」
???「そ、そうか」
引いてるような感じはするが、まぁ気のせいだろうな、うん
千依「その頃から海未の僕に対する依存が激しくなった」
???「ほう?どんな風にかい?」
千依「とりあえず、行動は基本的に海未と一緒になるし、学校では学年が違うのに一緒に受けるって聞かなかったね」
その依存は幼稚園から小学校低学年まで続いていた…病的なまでに海未は僕に依存していた。いや、僕にとって都合がいい事ばかり言うのはやめよう…言うとしたら共依存、それか共に僕たちは寄生しあっていたのだろうが
千依「それに…僕をいじめてたやつが急に行方不明になったんだが、それをやったのは多分…」
考えれば、あれがあった1週間後に僕達の所に不幸が来た…いや、吸血鬼が来たんだ
???「あれの事だな」
千依「調べてたの!?すげー!今度教えてもらお」
???「企業秘密☆…っと話を戻さないと」
???「ブラコン気味なあの子が君を仲間にするって言ったんだよね?」
千依「なんでわかんの?」
???「企業秘密☆」
ここは企業なのかというツッコミは適切ではないと思い、控える
???「それより、今の君が戦った所で勝てる確率は0%なんだよ」
千依「なんか他人に言われるとやる気でんなー!!ちょっと退治しにいってくる!」
仕方ないだろ?僕はやるなと言われたらやりたくなるし、全国的に有名な鬼〇の刃とかはあんまり見ないタイプなのだ
???「命を無駄に散らすのが好きなら咎めはしないが…君が吸血鬼って事は忘れたのかい?」
千依「忘れてないが?」
なんなら吸血鬼という単語が無かったら僕の親は死んで無かったのだ…この世で1番吸血鬼を憎んでるのは僕なのかもしれない。まぁ、最高は僕で最低も僕なだけなのだから
???「普通なら君は私達に殺されて今頃あの世だったんだぞ?」
千依「なにそれこわい」
???「何故殺されてないか分かるか?」
千依「海未の弟だからか?」
僕的には珍しく的を得た発言を言ったはずだ。
???「それもあるが…不正解だ」
???「正解は、君が理性のある吸血鬼で尚且つ"君の父が名のある吸血鬼"だったからだ」
千依「名のある?」
海未はそんな事一言も言ってなかったはずだが…
???「普通の吸血鬼はただの吸血鬼として扱われるんだが…時々世間を賑わせたり、とてつもなく強い吸血鬼だと名前がつくんだ」
千依「じゃあ、正胡って名前はあんた達がつけたの?」
???「いや、あれは人間界に溶け込む為の偽の名前だ…ホントの名前はまだ教えられない」
千依「ケチ」
???「仕方ないだろう…君の父が強すぎるんだよ。もし、名前で強化するタイプの怪異がいたりしたらそいつが私達人間にどんな被害をもたらすか私でさえ分からないんだよ…だがしかーし、そんな男を無力化したのは誰だと思う?」
???「そう!君の母だ!」
千依「僕の親凄すぎない?」
人間を殺す吸血鬼と吸血鬼のハートを射抜く人間…何があったのか知りたいが、目の前の女が教えてくれる筈もないだろうし、両親がいないので僕が知れる機会は無いかもしれない
???「あぁ…彼女が居なかったら私はここにいなかったかもしれないよ…」
ちょっと気になる発言も耳にしたが、まぁこいつが教えてくれるはずも無く
???「そんな2人の息子、そしてあの子の弟だから私達は目をつけた」
???「…率直に言えば私達の仲間にならないか?」
千依「仲間?」
???「私達は政府から集められた怪異、伝説、噂を取り締まる為にできた組織なんだ」
???「私達がそれらに対抗するには同じく怪異や伝説、噂をぶつけよう!との事で仲間に出来そうな怪異に声をかけてるんだ」
千依「それが僕?」
???「正解だ」
千依「よっしゃ、ポイント貯まる?」
???「貯まるわけないだろ」
千依「別に入ってもいいんだけど…メリットとデメリットを教えて」
組織というのは難しいものである。確かに1人だったら目の前からの物量作戦で僕は人間に踏まれる蟻…いや、吸血鬼に血を吸われる人間になるのだろう。その点、組織に加入したら情報や色々な武器を得れるかもしれないが…1番怖くなるのが前から後ろになるだけなのだ。それが上にいけばいく程、下からの下克上や同僚の魔の手が伸びてくるのだから
それに、この組織は僕が思うより規模がでかくグローバルなのだろう。組織は大きくなればなるほど端っこが分かりづらくなる。ハイリスクハイリターンなのだ
。味方が敵になるかもしれないのだから
それに…目の前の女が裏切り者かもしれないのだから
???「メリットは、組織から狙われなくなる、給料がでる、そして、強くなる事ができる」
千依「強く?」
???「君の奥底に眠ってる吸血鬼としての強さを引き出してやる事ができるし、色んな武器触れるよ?」
千依「BUKI!」
???(何故か英語で聞こえたな…)
???「今の君ならあの子に適わないけど、とあるものを手に入れたら太刀打ちできるようになるね」
千依「なにそれ?」
???「ちょいまち…これか?」
それはとても新しそうな1冊の雑誌だった
千依「えっと…百合百合ダンス…」
???「なんだこれ!?…いや、あいつだな…減給言い渡してやろか…」
…意外とこの組織は対立とかそんなモノは無いかもしれないな…
???「その前にっと…えっと…あったあった!ほい!」
次に渡されたのは、1枚の紙だった
千依「えーと…デカい刀と普通サイズの刀?」
???「そう思うよね?」
千依「う、うん」
???「普通の刀です」
千依「…」
僕は右手を握って振りかぶる動作を見せる
???「あ、ちょっと待って!?うそうそ!殴らないで!実は普通の刀じゃないの!」
千依「…」
なんか目がおかしくないか?笑ってるというか…嬉しそう?
???「し、信用して無さそうな顔だね…」
僕の顔を勝手に解釈しているのか知らないが、めんどくさいので話を促す
千依「いいから話せよ…てか、あんたの名前はなんだ?」
栄奈「えっ、今更!?…私の名前は火良滝 栄奈さ!」
千依「そう、じゃあ続き」
栄奈「もっとなんか反応してくれてもいいじゃん…グスン」
少し罪悪感もあるが、如何せん時間がないのだ。無駄は1秒でも削りたい…てか、やっぱりニヤついてない?
千依「時間ないでしょうが…」
栄奈「そうだね。じゃあ、説明を…」
栄奈「大きい方の刀は永楽そして、普通サイズの刀は苦惨だ。2つとも通常だとそこら辺の包丁と変わらない切れ味なんだけど、永楽は相手の体力を奪う能力で殺傷能力はない。苦惨は斬れば斬る程、斬れ味が増していくんだ」
僕は1つの矛盾点を見つけてしまった
千依「え?大きい方の…えっと、永楽だっけ?その説明文だとおかしくない?」
栄奈「ほう?」
英奈の目が勘違いかもしれないが鋭くなったが、この時の僕は気づいてなかった
千依「殺傷能力ゼロなら包丁と同じ斬れ味なわけないじゃん」
栄奈「永楽の使い方の問題さ」
千依「使い方?」
栄奈「永楽は、鞘がついた状態で効果を発揮するんだ」
千依「ほーん」
英奈は次の説明に移ろうとしたが、少し顔が落ち込んでいた
栄奈「次が厄介なんだが… 苦惨の説明は今さっき言った通り、斬れば斬る程斬れ味がます、だけなら良かったんだけど…面倒な事に、使用者がその刀を扱いきれなくなると、勝手に首を斬る…つまり死ぬ」
千依「こっわ!?」
栄奈「詳細は省くが、こいつは元々江戸時代に作られていて、切腹する時に介錯ってのがあったんだ」
千依「歴史で習った記憶があるね」
栄奈「その時に罪人の魂が苦惨に少しずつこびりついて…いつの間にか呪われた刀になってたんだ」
あれって痛みを早く終わらせる為にやるものなんだから感謝しなよ…そのせいで僕達に迷惑かかっちまってるよ
千依「えー…因みに永楽の方の歴史は?」
栄奈「それなんだが、名前と効果以外は探しきれなかったんだ…てか、効果もようやく一つ見つけただけだから、これ以外にもあると思うんだよね… 」
千依「そうなんだ…で、どこにあるの?」
栄奈「永楽は私達が持っている」
千依「よかった…で、苦惨は何処?」
栄奈「海未が持ってる」
千依「…勝てなくね?これ?」
栄奈「大丈夫だ、海未はそれは確実に使う事はないだろう」
千依「なんで?使ったらすぐ終わるじゃん」
栄奈「それは君を殺すためだけだったらそうなるな」
栄奈「だが、君が言ってた通りブラコン気味で更に仲間にしたいとなると…殺す危険性がある苦惨を使えないだろうな」
太刀打ちする為に必要なのが文字通り刀。しかも太刀ときたもんだ。面白い偶然もあるもんだな
…しかし、僕は1番大事な部分を聞いてないのだ
千依「あのさ」
栄奈「なんだ?」
千依「あんたらは海未をどうしたいんだ?」
千依「あんたらは海未を殺すのか、それとも仲間に出来るのなら仲間にするのか」
そう、そこが重要なのだ。もしこいつらが海未を殺すのなら僕一人でも海未を止めに行くから、この組織には入らない。なんなら吸血鬼サイドに入るかもしれない。
…僕も海未の事をブラコンって言えないな、充分僕もシスコンだ。
栄奈「君はどうしたい?」
千依「僕?」
栄奈「因みに言うと、今の君の状態でも私程度なら殺せるから、殺してあの子の所にいけば死ぬ事は無いよ?」
千依「ふーん」
まぁ、十中八九嘘だろう。その程度出来ないで室長の地位に立っているわけが無いし、ここまで連れて来た人にやられると思うしね
栄奈「さて、君はどうする?」
千依「は?そんなん決まってるでしょ」
栄奈「その答えは?」
千依「仲間にする一択だ」
栄奈「できるの?」
千依「その為の姉弟喧嘩だ」
僕は結局人間とか吸血鬼とかに興味はないのかもしれない。僕は宣言しよう、僕はシスコンだから、海未の味方をすると
⏰
???「その様子だと、こちら側になったようだな」
千依「あっ、おじさん久しぶり」
???「おじさんではない」
千依「じゃあ名前何?」
護 「首から提げていた名札に気づかないのか…護 景瑚だ」
よくよく見なくても胸元に名札を提げていた
千依「それで護なんだ…守るの方かなと思ったよ」
護「それより、さっさと移動するぞ」
千依「はーい、って何処に?」
護「聞いてないのか?」
千依「めんどくさいから外のおじさんに聞いて☆って言われた」
何故責任感がないのだろう…まぁ、それが室長になる為の必須条件かもしれないが
護「まぁ、なんとなくはわかると思うが、永楽の保管場所に向かうぞ」
千依「了解」
護「と言っても、ここの真下の階なんだがな」
千依「近すぎ!?」
護「ここの方が護るのに適してるからな」
千依「でも、敵がここに来たら危なくない?」
護「例え俺の命が尽きようと、護り通すまでだ」
千依「か、かっこよ!」
僕が女だったら求愛行動をして…ないな、ぶっきらぼうだもの
護「…ついたぞ」
千依「意外と綺麗…!」
護「掃除されてるらしいからな」
千依「誰が?」
護「俺の管轄外だ」
千依「そう…知らないんだ…」
護「…」
護がタッチパネルに何かを打ち込む
護「行くぞ」
千依「…はーい」
しばらく歩いて
千依「あの、聞いてもいい?」
護「何をだ?」
千依「ここで働いてる理由」
護「金の為だ」
千依「えっ、嘘?」
護「半分本当だ」
護「ここは給料がいいし、俺を差別するやつがいないからな…楽なんだよ」
千依「なんで差別されるのさ?」
護「少々お喋りが過ぎたか…秘密だ」
千依「課金ッスか?」
護「ストーリーを進めねぇと無理だ」
護は少し笑っていた
…おろ?意外とノリいいの?ならぶっきらぼうって言ったの撤回しよっかな
千依「そっかぁ」
目の前に1本の刀が立てかけられていた
千依「ん?なにこれ?」
護「お前の目当ての品だ」
千依「へぇ…確かにデカイね」
護「さぁ、取れ」
千依「では、遠慮はせずに取らせてもらおうか」
僕はその刀を手に取り、そして刃の部分を見たあと、1つの事に気づく
千依「うん、普通の刀だ…」
護「なんだ、不満なのか?」
そう、何処までも普通なのだ。光って擬人化したり精神世界に連れ去られたり…ちょっと期待してたんだけどなぁ
千依「いや、こういうのってだいたいイベント起きるもんじゃないの?」
護「はぁ…しらねぇよ」
千依「…ってか、僕はずっとこれ持っておかないといけないの?すげー不便じゃね?」
永楽は刃渡り1m位なので、6.6本位に分けないと銃刀法違反で一発レッドカード、世間から退場だ
護「その点なら問題は無い」
護「少しその刀を貸してくれ」
千依「ほーい」
渡した瞬間に護が僕に向かって刀を突き刺した
千依「ゑゑゑゑゑゑゑ!?」
あれ?痛くない…
護「…目を開けろ」
千依「…ってあれ?刀は?」
護「お前の体の中だ」
千依「冗談きついっすよ〜…マジで?」
護「大マジだ」
まぁ、今までのこの人の言動を見ていたら嘘をつくタイプでは無い事は分かっているが…にわかには信じがたい
千依「どうやって取り出すの?」
護「手を開いて前に向けて、刀の形状を思い出せ」
千依「ほうほう…って、ほんとに出た!?」
良かった、これで出なかったら僕を殺して刀取り出すと言われたらやばかったぜ
護「良かったな、これでお前も立派な可哀想…じゃなく、立派な吸血鬼だな」
千依「おいまて、可哀想とはどういうことだ」
千依「聞くまで逃がさんぞ」
護「…ハァ、仕方ない…考えてもみろ、普通ならこの現象はありえないだろ?」
千依「そりゃねぇ」
護「だから、お前とこの刀を一緒にさせた」
千依「???」
護「原理を理解しようとしなくていい…お前が理解するべきなのは、お前が死ねばこの刀は砕け散り、この刀が砕け散ったらお前は死ぬということだ…理屈は知らん」
千依「それ聞いたら使いにくくなるだろ!?」
今日から永楽は宮月家の家宝だ
護「生半可な攻撃じゃこれは壊れん…一応こいつも怪異の仲間だからな」
よし、家宝認定取り消します
千依「海未が本気でこれを折りに来たらどうなる?」
護「見たことが無いので分からないが…お前と繋がってるせいで強くもなるし弱くもなるから、お前の強さ次第で折れるか折れないかが決まる」
千依「そうかい…」
やっぱ家宝認定取り消すの取り消そっかな…
護「それでも、昨日までの吸血鬼って事に気づいてないお前と今日の気づいてるお前とでは断然に強さが違うだろうな」
千依「そうなの?」
護「今までは脳が人間としてリミッターをかけていたからな、それが吸血鬼になるんだ、当然身体能力もあがるだろう」
千依「じゃあ、護を倒そうと思ったら倒せる?」
護「俺じゃお前を倒す事ができないだろうな…やるのか?」
護みたいなタイプは本当に死んでも僕の事を倒しに行くだろう。それに、ここで戦闘する馬鹿がいたら笑いに行く…裏切るなら戦闘はしない方がいい、お兄さんとのお約束だよ、僕は裏切らないと思うけど
千依「やらないよ…それで、帰っていい?」
護「別に構わない」
千依「じゃ、そうするよ」
⏰
千依「もう昼か…どうしようかね?」
うろちょろしてると、1人の子供が寄ってきた
???「貴方、人間?」
千依「ま、真昼間にお面を頭に付けてる乳歯の生え変わり時期の子供が厨二病発言してるだと!」
ちょっと好みどストライクなんだけど…おい、誰かロリコンって言ったか?悪かったな
???「それとも、ウチの敵?」
何を言ってるんだこのロリは…ここは大人の余裕を見せたろう
千依「親は今近くにいるか?」
???「親?いないよ」
千依「そうか…なら、不審者に捕まるからお家に帰りな?」
???「貴方みたいな?」
千依「なんで不審者認定されるの!?」
見えざるロリコンパワーが出てたか、、、僕ってばお茶目☆…やめだやめ、気持ち悪い
???「それより、貴方は人間?」
千依「逆に君は、人間以外に僕のこと見えるのか?」
???「みえ、ない…」
???「じゃあ、友達になろうよ」
そう言うと、目の前のロリは僕の腰ら辺に抱きついた
千依「我が生涯に一片の悔い無し!!」
僕はそんな風に一時の幸せに身を包んでいた、その時に…爪でお腹を引き裂かれた
千依「!?」
千依「いっつ…!?」
そのロリの力はそこら辺の一般男性より遥かに強い力で僕のお腹を引き裂いてきた
???「…やっぱり、普通じゃないんだね」
そのロリは血がついた爪を舐めながらそんな事を言った
千依「はぁ?何が…」
魂「ウチの名前は魂、貴方達で言うキョンシー」
何故急にお腹を引き裂いてきたり、自己紹介をするのか意味が分からない…が、気になる単語が出てきた
千依「キョンシー?」
キョンシー
中国の死体妖怪の一種。硬直した死体であるのに、長い年月を経ても腐乱することもなく動き回るもののことらしいが…まぁ、確かに髪とか長いしな
意外にも、そのロリ…魂は知的だった。いや、お腹を引き裂いてきたのでまだ安心は出来ないが
魂「うん」
千依「でも、キョンシーって日光無理なんじゃねーの?」
魂「大丈夫、魂は普通のキョンシーじゃない」
魂「でも、そんな事はいい」
魂「普通の人間なら、今のでキョンシーになってた」
千依「…えっ!じゃあ殺そうとしてたの!?」
何もしてないのに殺そうとする魂に戸惑いを感じる
魂「うん、でも貴方は違う」
魂「人間に近いけど、人間じゃない…だから攻撃した」
千依「どこで知ったんだ?」
魂「匂いで分かる」
千依「匂い?…僕そんなに臭いのか…」
思わず服の匂いを嗅ぐが…そこで僕はある事に気づく
千依「服が変わってる?しかもズボンも…あ」
僕はすぐ万月さんか心月ちゃんが服を着替えさせてくれた事に気づき、羞恥心で俯いてしまった
魂「ち、違う…ウチの鼻はとてもいいから、普通の人間ならすぐ判別できる」
魂は、そんな様子を匂いが臭いと勘違いしてると勘違いしてるという、なんともめんどくさい間違いをしていた
魂「でも、貴方の匂いは人間じゃない…いや、人間だけじゃないって言った方がいい」
千依「すごい性能だね…!」
僕は思わず関心してしまって、羞恥心が消え失せてしまった…いや、無理矢理切り替えさせた
魂「えっへん」
魂「…って、そうじゃない」
魂「手伝って欲しいの」
千依「手伝う?何を?」
魂「実は、今迷ってるの」
千依「迷ってる?」
何に迷ってるんだ?人生か?それなら僕が導いてあげるしかないかぁ!
魂「うん、今から栄奈に会わないといけない」
千依「栄奈って、火良滝栄奈?」
魂「うん、そう。よく知ってたね」
千依「今さっき会ってきたからだよ」
魂「そう、なら連れて行って」
なんだ、ただ道に迷ってるだけか…人生に迷ってたら都合良かったんだがな
千依「よし、連れてってやるよ!」
僕は今さっき歩いてきた道を引き返した…魂を抱っこして
⏰
栄奈「おや?誰…って、千依じゃないか!」
栄奈「どうしたんだい?忘れ物?」
千依「お届けに参りました〜」
魂「ウチだ」
魂を抱っこしながら移動していたので少し腕は疲れてると思ったが、吸血鬼と認識してるからなのか、疲れはなかった
栄奈「魂じゃないか!久しぶり!」
魂「うん、久しぶり…忘れないうちにいうけど、用事ってなに?」
栄奈「君に私達の組織の入って欲しいんだよ!」
魂「いいよ」
魂は考える時間が0.1秒もかかっていなかったかもしれないほど、反射で返事を返していたが…
栄奈「まず私達の組織が分からないと入れないよね?そこから説明していこう!」
魂「いいよ」
栄奈「私達は、世の中の妖怪、伝説!噂…」
千依「栄奈さーん!」
英奈は何も気づかずに説明を続けようした英奈さんの近くに近づいて名前を叫ぶ
栄奈「うわ!…って、なんだよ千依!折角人が気持ちよく説明してるってのに!」
魂「えっと、あの…入る」
栄奈「ほ、本当かい!?いや〜、そう言ってくれると思ってたよ!」
千依「魂の話きいてなかっただろ…」
栄奈「じゃあすぐに職員達に連絡しないと…いや〜、楽しなるなねぇ!」
とても嬉しそうな英奈の顔を見て、僕は少し気になったが…まぁ、今はいいか
魂「ねぇ、千依だっけ?」
千依「呼んだ?」
魂「じゃあ…やっぱり海未の弟?」
千依「そうだね」
魂「…じゃあ、ついてきて」
千依「?」
魂はキョンシーなので表情が無いはずだが…不思議とその時、何処か辛い思いを思い出した顔をしていたような気がした
⏰公園
魂「ブランコ〜」
千依「めっちゃ年相応のはしゃぎ方!」
僕はスマホを取りだして撮ろうとしたが、その前に魂が話し始めた
魂「…千依」
千依「どした?」
魂は何も顔に出さず、コンビニに行ってくると言うような感じで
魂「ウチは1回海未と戦ったの」
そんな言葉を発したのだった
千依「ふーん…」
僕は思わず左から右に聞き流したが、ギリギリ脳に入ったのか、気付くことに出来た
千依「!」
千依「どうだったんだ?」
僕は出来るだけ冷静に聞いたつもりだが、その努力が実ったかは知らない
魂「結果は勿論負けた」
千依「そうか…」
まぁ、勝ってたんなら海未は吸血鬼じゃなくて、キョンシーの状態で来ていたかもしれないなと、そんな馬鹿みたいなことを考えていた
魂「普通なら、吸血鬼でもウチの毒でキョンシーになる…だけど、海未には効かなかった」
魂「そして、千依にも」
千依「…それって、ワンチャンキョンシーになってたかもしれないの!?僕!?」
姉妹でキョンシーとかどんなバイオだよ…いや、そういえば僕達吸血鬼だったからあんま変わんねぇな
魂「匂いが2人とも似てて、どちらも匂いが吸血鬼だったから」
千依「考えてはいたのね」
昨日も合わせて今の所、1番怖いのは魂の攻撃かもしれない
魂「うん」
千依「…あのさ、なんでキョンシーになったんだ?」
魂「ウチが?」
千依「うん」
ずっと気になっていた事を聞くがー
魂「分からない」
千依「え?」
魂「ウチがキョンシーになったのはずっと前の事…なんでなったのか分からない」
千依「忘れたって事?」
魂「うん」
千依「ほうほう」
キョンシーは忘れやすい性質のやつが多いも思っていたし、なんなら英奈との話でも忘れる前にとか言ってからこれは受け止める事が出来た
千依「じゃあ、今までどうやって生きてきたんだ?」
魂「ウチはそこら辺を旅してたね」
魂「ていっても、中国全土と日本だけ」
千依「充分すごいんですけど!?」
千依「キョンシーって何も食べなくてもいいんだっけ?」
魂「ウチは魚とか肉とかちゃんと食べた…それらが取れなかった時は雑草とか虫とか…」
千依「よく今まで生きてこられたね!?いや死んでるねごめん!」
流石にこれは受け止める事が出来なかったよ…美味しい物お兄ちゃんと一緒に食べようね…
海未「何話してるん?」
千依「魂!」
魂「あえ?」
千依が魂を前に投げ飛ばし
魂「いたい…」
海未と魂の間に立ち、後ろにいる海未に向かって永楽を突き刺す準備をしようとしたが、混乱しているのかちゃんとした形状を思い出す事が出来なかった
千依「何しに来た!」
僕は少しでも時間を稼ぐ為に話しかけるがー
海未「えっ?いや、クレープ食べに行った帰りに千依達がいたから脅かそうかなと…」
千依「なんでそんなフランクなんだよ!?一応海未の立ち位置ボスだよ!?そんなホイホイでんなよ!?」
どんなラノベでも、最初っからボスがフランクに話しかけるのはないと思う…昨今のラノベはあまり知らないから強くは言えないが
海未「ごめんね?」
海未「えっと…魂ちゃん大丈夫?」
魂「…」
千依「あっ、ごめん!」
魂「別にいい」
魂はそう言ったが、雰囲気がとても怒ってる人のそれだった
海未「あーあ、千依のせいで怒った〜」
千依「ほんとごめんなさい!」
魂「別に怒ってない…それより、クレープって何?」
千依「甘くて美味しいやつです!」
魂「食べたい」
千依「承知致しました!」
僕は魂をまた抱っこをして、近くのクレープ屋へと全力ダッシュをする
⏰クレープ屋にて
店員「えっと…抹茶あずきクレープとストロベリーピンククレープとレインボーチョコクレープのお客様…」
何故か引かれているような感じがするけど…気の所為だな、引かれる要素無いもんな!だって、魂ちゃん抱っこして全速力でここまで来ただけだしな
千依「はいどうぞ」
僕は魂ちゃんにレインボーチョコクレープをあげて、僕は抹茶あずきクレープを食べる
魂「お、美味しそう…!」
魂「頂きます」
海未「いや〜美味しそうだね〜!」
千依「…何で海未まで食べてんだよ」
不思議でもないが、全力ダッシュの僕に追いついてきていた。しかも勝手にクレープ頼んでたし
海未「いや、奢るって言ったら食べない訳にはいかないじゃないか!」
千依「海未には言ってねぇよ?」
海未「いいもーん、食べるもーん」
千依「それに、ストロベリーピンクとか…いちご多すぎね?」
僕はイチゴが嫌いなのもあるが…にしても溢れるほどイチゴがでてるし、名前で胃もたれしそうである。
海未「普通でしょ?」
海未「それより、抹茶あずきって…おじいちゃんなの?」
千依「それ以上言ったら、抹茶あずきクレープを口にいれるぞ」
抹茶をバカにする者は核を使う事は躊躇わない…文字通りお前を殺して僕も死ぬ、だ。吸血鬼に核が効くか知らんが
海未「…ありがと?」
千依「確かに僕にしか損ねぇ!?」
僕達がそんなやり取りをしてる間に魂は小さい口を精一杯大きく広げ、頑張って食べていた
魂「ハムハムモグモグ…ゴクン」
魂「美味しい…こんなに美味しいものを、いつも人間は食べてるのか…?」
千依「いつもではないけど、まぁね」
魂「羨ましい…ずっと食べていたい」
僕はその言葉にYESと答えたいが、ギリギリで粘る事が出来た
千依「時たま食べるから美味いんだよ、こういうのは」
魂「そうなんだ」
海未「おかわり!」
千依「はえーよ!僕まだ1口も食ってねぇよ!あと、口元汚ぇなぁ!」
海未「はーやーくー」
千依「しゃーねーなぁ…」
魂「えっと、ウチもいい…?」
僕は持っていたハンカチで海未の口元を拭いた後
千依「魂ちゃんの頼みなら!」
そういい、僕はクレープを買いに行った…明日からバイト増やそうかなと思うが、その前に海未との戦闘があるんだったと思い出した
⏰数時間後、公園にて
海未「あぁ、ひっさしぶりに遊んだよ!」
魂「うん、楽しかった…!」
千依「さ、財布が死ぬところだった…」
残りが444円…少ないし、縁起悪いな…
海未「もう8時かぁ…じゃあ、また後でね〜」
そう言うと、周りに誰もいない事を確認して、羽を広げ飛んだ
魂「〜♪」
千依「楽しそうだな…」
魂「千依は楽しくなかったの?」
千依「そりゃ、楽しいさ…でも、なんか疲れた…」
思えば、昨日の夜から色んな事がありすぎた…死んだと思っていた姉が生きており、吸血鬼だった事を知った。しかも母さん以外の全員が。そして人間の死ぬシーンを見て、姉妹喧嘩をする事も決まった…更に変な組織に入る事にもなった。まぁ色々あるが、1番の収穫は
千依「魂ちゃんと会った事だな、うん」
魂「呼んだ?」
千依「何でも無いよー」
はぁ…にしても
千依「あと4時間か…疲れたからちょっとここら辺で寝ようかね…」
魂「ウチが起こせばいい?」
千依「お願い出来る?」
魂「うん」
千依「じゃあ、11時30分前に起こして…」
千依「…」
魂「…」
千依「…」
魂「…」
千依「駄目だ全然眠れねぇ…」
魂「吸血鬼だからね」
千依「今以上に夜型になるのか…」
魂「朝起きるの大変そう」
千依「二度寝が趣味です…」
千依「てか、海未って飛べてたな…僕も飛べるんじゃないのか?」
魂「やってみたら?」
千依「そうだな…!」
千依「よいしょっと…ってお、おぉ!…って、跳んでるだけで飛べてねぇ!?やっばい!?」
千依「しかも地味に高く跳べてるし!畜生!」
千依「… って、うお!?」
急に翼がでてきた
魂「意外と早くできたね」
千依「僕も驚きだよ…まっ、これで遅れをとる事は無いだろ」
僕は始めて来た公園を見渡していると、少し寂れた神社を見かけた
千依「こんな所に神社なんてあるんだ…運ゲーになる事必須だから神頼みでもしとくかな?」
僕は翼をしまい、そんな事を考えた
魂「ウチは神様信じてないからいい」
千依「一人で行きますよ…」
階段を登ったあと古びた賽銭箱の前に立った。賽銭箱の側面に神社名書いてないかと観察してみたが、何年も放置されてるらしく、名前を見る事が出来なかった。辛うじて「ぬ」の文字だけ読み取ることが出来たが、それも汚れのせいで当たってるかは知らないが
千依「ん、なんだこれ?」
賽銭箱の中にモゾモゾ動く何かが居た
怪しがりてよるてみるに、賽銭箱の中、動ゐたり。
それを見れば、3寸ばかりなるムカデ、いとモソモソ動ゐてゐたり
まぁ、竹取物語(ムカデVer.)をするのはここまでにしておこう。
千依「なんか出れなくなってるし…しょうがないか」
僕は周りを見渡し、4尺程の小枝を見つけた…駄目だ、竹取物語(ムカデVer.)から普通の言語戻ってねぇ…今から頑張る。そしてそれを賽銭箱の中に入れ、ムカデが絡まるのを待つ
千依「そう、そうだ…いいぞ、あと少しだ」
ムカデは少し警戒してか、小枝をつついたりして反応をみたが、ついに小枝に登ってきた
千依「よーし、よくやった」
僕はすぐに引き上げ、森の中にムカデが着いた小枝を置いて賽銭箱の前に立つ。そして、財布の中からなけなしの444円を取りだして、2礼2拍手1礼をした。鈴も鳴らしたかったが無かったし、何より夜遅くなのであったとしてもやらなかっただろう
千依(神様、僕達を助けてくだせぇ…そしたら信仰しますので)
僕がそう祈った後、まぁ何も起こる筈無く目を開けた
そして、後ろを向こうとした時
"光が消えた"
千依「…?」
しかし、公園には月明かりが魂ちゃんを照らしている…僕がいるこの寂れた神社だけが光がないのだ
いや、光がないのでは無い
"光を遮っている何かが上にいるのだ"
恐る恐る上に視線を向けると…ムカデだった
千依「でっか…50mくらいあるだろ、これ」
50m程あるムカデが神社を中心とし、月明かりを遮っていたが…不思議と恐怖は湧いてこなかった。それどころか安心感さえある
千依「…神様か?」
僕がそう言葉を口に出すと、巨大なムカデは一瞬にして姿を消した
千依「…魂ちゃんは大丈夫か?」
僕は心配になり、階段を一気に飛び降りて魂ちゃんの前に転がりながら向かう
魂「ひっ…なんで転がってるの?」
千依「着地ミスりました…それでさ」
僕は砂を払いながら魂ちゃんをマジマジと見る
魂「な、なに?」
千依「神社で変なの見なかった?」
魂「千依を変な人と解釈するなら」
OK、変な奴は誰一人としていなかったって事だな。魂ちゃんに怪しい奴が近づかなくて良かったぜ
タターター♪
千依「あれ、電話?誰だ?」
栄奈「あ、千依くん?」
千依「えっ、何で電話番号知ってるんすか?」
栄奈「それは勿論色々と罪を犯して…愛のなせる技さ!」
千依「隠せてないよ!?最後まで言い切ってますよ!?」
本当に大丈夫かこの組織…?
まぁ、海未の過去を知ってたり、僕が吸血鬼だという事を知ってたりするので不思議では無いのだが
栄奈「ちっちゃいことは気にするな!」
千依「はぁ…それで、何で電話してきたんですか?」
栄奈「いや、それがな、君宛に電話が来ていて、「敵を見誤るな」って言っていたんだが、誰が言ったか知ってるか?公衆電話からかけてきたから分からないんだよね…」
千依「うーん、知らないっすね」
栄奈「そうか〜…あっ、なら気にしなくて大丈夫だよ」
千依「そうか…」
いや、お得意の企業秘密(笑)で何とかして下さいよ…
千依(でもなんでそいつは今かけてきたんだ…?姉弟喧嘩を知ってるのは僕達姉弟とこの人なんだけど…まぁ、今はそんな事いいか)
千依「それじゃ、一旦切りますね」
栄奈「何かあったらかけてきていいからね!」
千依「案外すぐかもですね〜」
栄奈「アッハッハ!面白いこと言うね〜」
千依「では…」
千依は電話を切ると溜息をつき
千依「まーた考えないと…」
その時、昨日の夜に出会った海未の姿を思い出した
千依「…ん?」
魂「どうしたの?」
ここまで静かに座っていた魂ちゃんが僕に話しかけてきた
千依「いや、1つ気になる事があってな…」
千依「今日クレープ食いに行ったけど、海未めっちゃ口汚しながら食べてたな〜って」
魂「それが?」
千依「…」
千依「もしかしたら…そういう事になるのか?」
魂「?」
⏰12時、〇〇廃工場にて
千依「あっぶねぇ…遅刻する所だった…」
海未「時間にルーズだねぇ〜」
工場の窓から突き刺す光が海未を照らす
千依「うっさいですわ!」
海未「な、なんでお嬢様言葉?」
千依「なんでもねぇよ」
千依「お前を倒して、お嬢様言葉以外の言葉を受け付けない体にしてやるよ」
海未「何その特殊性癖!?」
海未は本気で動揺していた
千依「まぁ、流石に嘘だけどさ…で、考えは変わらないのか?」
僕は出来れば戦いたくないので、考えが変わるという天文学的な確率に縋る
海未「人間を食べること?勿論、その考えは覆らないよ…逆に千依こそ考えは変わらないの?」
まぁ、分かっていた…それに
千依「言っただろ?僕は人間なんだ」
千依「これから食う事は無いし、目の前で吸血鬼に襲われそうになったら助けるさ」
僕の考えが変わる確率もまた、アリスタルコスとフィロラオスとコペルニクスとレオナルド・ダ・ヴィンチが地動説から天動説に意見が変わる位難しい事だぜ。
海未「…羨ましい」
千依「え?」
海未「なんでもないよ…じゃあ、姉弟喧嘩始めよっか」
千依「その前にいいか?」
僕は負けた時に変な条件とか付けられない為に、ルールを確認する
海未「何?」
千依「海未が勝ったら僕は海未が人を食べる事を許可する事…僕が勝ったら海未は人を食べない事を約束する、それでいいか?」
海未「いや、まだ条件はあるよ」
千依「なんだ?」
海未「千依も'"私達の仲間になってよ'"」
千依「…どういう事だ?」
海未「簡単な話…一緒に人間を思うがままに食べて、旅しようよ!」
千依「あぁ、いいぜ」
僕は挨拶をするくらいの軽さで海未の約束に頷いた
海未「え?ほんとに?」
千依「勿論さ…海未が勝ったらどんな危険な場所でもついてってやるよ」
千依「僕だって海未が嫌いな訳じゃないんだよ」
千依「話したいことだってあるし、遊びたいことだってあんだ…付き合ってもらうぜ」
これは僕の本音だ。…今の所海未は僕に嫌われる事を一つもしていないのだから。僕の体が吸血鬼と教えてくれた事と貫通させた事は相殺させてもらった。それに、人間を食べるということも考えの違い…文化が違うのだから嫌うのはお門違いなのだ。逆に感謝しないといけないのかもしれない…何故なら、海未は善意で行動していたのだから
海未「つ、付き合うって…姉弟なんだよ///」
千依「そっちじゃねえよ!」
ったく…少しペースを崩された感じがするが、まぁ、許容範囲内だ
海未「うん、分かってる…さぁ、始めようか」
そういうと、すぐに海未が飛び出し
千依「ぐっ!?」
海未「よーいしょっと」
顔を掴み地面に叩きつけた
海未「あ、顔大丈夫?」
海未「って、すぐ回復してるじゃん…やになっちゃうよ…」
千依「あ、あぁ…そう、かよ…」
千依(くっそ…脳震盪か?頭はすぐに治ったが、視界がぼやけてやがる…てか、脳を破壊されるのって脳震盪って言うっけ?知らん)
海未「まっ、すぐに気絶させればいいか!」
千依「う…こ、こいよ…」
今度は気絶させようと多少手加減しながら頭を掴もうとしたが
千依「うぃっと…」
海未「えっ?」
千依が体を左にそらし、海未の背中が目の前に来た
海未「キャッ!」
そして、足払いをして…
海未「よっと…」
倒れる力を利用して海未が受身をとる
海未「攻撃されると思ったけど…なんで追撃してこないの?」
千依「それはね…僕が戦った事無いからだよ!」
海未「えぇ....(困惑)」
千依「まぁ、それに海未がどんな事できるか分からないうちは攻撃しづらいんだよね」
海未「ふーん、惜しいことしたもんだね」
海未「攻撃しなかった事、後悔させてあげるよ!」
そういうと同時に、手から1本の刀が出て
海未「痛いけど…我慢してね!」
千依「おい待て!それって…がぁ!?」
右に避けたが左手の肘から斬られてしまい
海未「まだまだだよ!」
今度は右手の親指を斬られてしまった
千依「あっ!いつっ!…ぐ!」
海未「痛いでしょ?…こうなるまで私1人で頑張ってきたんだ…」
千依「…?そ、そりゃー…痛いさ」
千依(何を言ってるかは分からんが…まぁ、どうでもいいか)
千依(てか、その前にふっつーに苦惨使ってんじゃねーか!)
千依「…因みに、それどこで手に入れたんだ?」
海未「んー秘密!」
千依「まぁ、そうだよ…おい待て、なんで回復しないんだ?」
切られて再生するはずの左手と右手の親指が再生しないのである。潰された頭は直ぐに再生したのに、だ。
海未「おっ、今気づいた?」
千依「…一応聞いておくが…何した?」
海未「うーん…この子の斬れ味が凄すぎて、まだ腕が斬れてるって認識できてないんじゃない?」
千依「んな馬鹿な話があるかよ」
海未「私にとってはどうでもいいけどね!」
再度海未が千依に斬りかかりにいく
それを見て、辛うじて使える右手で殴ろうとすると
海未「それっ!」
千依「えっ!?」
海未が苦惨を千依に向かって投げるがそれを皮1枚で避ける
千依(なんでわざわざ投げて…)
海未「終わりね」
千依「!?」
千依「な、ん…!?」
そこには'"投げられたはずの苦惨が首に刺さっていた'"
海未「痛そうだねぇ」
海未「あんまり力使わずに済んだよ…はぁ」
千依(くっそ抜けねぇ!…しっかり根元まで刺さってるし…てかいてぇ!)
海未「ちゃんと約束は守ってね」
そういうと、海未の手が千依の頭に振り下ろされ…
'"永楽の鞘で、止められた'"
海未「!!!」
海未「刀…流石姉弟だね」
その後、海未が手をあげたら
千依「がっ!?」
苦惨が首を通って海未の元に戻る
千依「ゴホッゴホッ…お、面白い偶然も、あるもんだな」
千依(なんで今の首の傷は治ったんだ?未だに手の傷は治ってないんだが)
千依「…鍔の所為か?」
千依「なら、思い立ったら吉日だっけ?やるか」
海未「何を…」
その瞬間千依が物凄いスピードで海未に殴りに行き
海未「そんなの無駄だよ!」
それを蹴りで防いできた
海未「千依もまだまだだね…」
千依「それはどうかな」
海未「…って、手が治ってるじゃん」
千依「やっぱりお前の考えは正しかったな」
千依「お陰で左手は治ったぜ」
凄いスピードで殴るのを蹴りで止めるのだ、もちろん相応のパワーをぶつけないと止められるわけが無い。だが、それのお陰で手が破壊されたのでその部分が再生した
海未「はぁ…ほんと、やになるなぁ」
千依「どうした?疲れてるのか?」
海未「まぁ、そうかもね」
千依「'"断食してるからか?'''」
千依がそういうと一瞬ポカーンとなり
海未「な、何言ってんの?」
次の瞬間
???「ギャァァァァ━━━━」
海未「!!?」
千依「ちゃんとやってくれたか」
"僕は予定通りに事が進んでホッと息をつく"
海未「何をしたの!」
千依「見てたら分かるぜ?」
魂「千依、言われてた通りにしたよ」
海未「って、魂ちゃん?に…道央様!」
そこには両手の関節を外された1人の男が、魂ちゃんによって投げ捨てられていた
道央「は、早く俺を助けろ!お前なら出来るだろ!」
千依「無理だよ」
僕は汚物を見るような目で目の前の元凶を見る
道央「なんだクソガキィ!吸血鬼になって1日しか経ってないやつがベテランの海未に適うわけないだろ!」
千依「そうだな、ベストコンディションだったら僕は3回くらい昇天してるな」
一回目は最初の頭を潰されたヤツ。2回目は苦惨で斬られた時。そして3回目は喉元に突き刺された時だ。
道央「何を!」
千依「なぁ、海未」
千依「お前'''本当に人間食べたことあるのか?'"」
海未&道央「!?」
海未「なんで…!」
千依「…海未が気づいてるか分からないが、食べ方が汚ないんだよ」
道央「何の話だ…!」
千依「なんか顔にクリームがついてたしな」
千依「それで昨日の海未はさ、少しの返り血以外ついてなかったんだよ」
そうだ、食い方が汚い奴が食べるのに苦労しそうな人肉を喰う時に、汚くしないわけがないのである。
海未「それは拭いたから…!」
千依「血って服についたら洗濯でもきついぜ?それに、洗濯したという線は0だし、拭いたっていうのもおかしいんだよ」
千依「そこで、昨日の海未が殺したやつの事が新聞に載ってないか調べたんだよ」
あの道路で事件は
千依「事件はなかったが'"何かが破壊された様な音'''の事について記載されていた」
千依「警察沙汰になったけど、血どころか車の破片1つなかったらしいぜ?」
海未一人でそんな事を出来るはずがないから、僕は海未に協力している奴がいると考えていた…いや、昨日の車の男と断定していた
千依「その時から一応警戒して魂ちゃんを見張らせて置いたんだ」
もし僕がこいつなら、何かあった際のサポートとしてこっちからは見えづらい所からこっちを観察していると思っていた
道央「じゃあ、海未が人間食べてないとはどういう事だ」
千依「明らかに体力が無かったんだよ」
千依「ベテランで戦いに明け暮れている海未が僕程度に苦戦するわけないだろ?」
吸血鬼になりたての僕でさえスタミナが結構あるし、それにパワーも意外にある…が、それは一般人に比べたらだろう。僕自身の体が吸血鬼になってきているが、フルパワーはまだ引き出せてないのが自分で分かる…体が自分で動かせてる感じが全くしないのである。
それに比べ、10年間血を吸っている海未が体力がないのはおかしい話なのだ
千依「それに、明らかに一撃で決めようとしてたからな…だから 、海未が少し無駄話をして体力回復しようと思ったんだろう」
海未「…!」
道央「何から何まで見通しやがって……ククク、アッハッハッハッハッ!!」
千依「なんだよ…気持ち悪いなぁ」
道央「俺はなぁ、最初っから海未が負けると思ってたんだよ!だからなぁ…'"お前達を殺す準備をしたんだよ'"」
僕はこの時油断していた。この男はもう何も手段はないだろうと油断しきっていた…だから僕は止める事が出来なかった。僕たちを確実に殺す道具を…いや、吸血鬼を確実に殺す最終兵器の事を
カチッ
道央「グッホ!」
千依「おい何して!?」
道央「ハァハァ…お前達を殺す為の仕上げ…さ」
バタン
道央が…死んだ
海未「そこまでして…私達を…」
千依「はぁ?どういう事だよ」
海未「簡単な話…道央様が死ぬと同時にある機械が作動する」
海未「対吸血鬼用に作ったやつをね」
千依「よし、じゃあ早く逃げるぞ!魂ちゃん!」
僕は当然のように抱っこをし、魂ちゃんもまた、当然のように抱っこされていた。この一連は今日一日で洗練されてた…だが、すぐに無駄だということを思い知らされる
海未「無理だよ、もう1つの機械がそれを阻止するの」
千依「そんなんやってみないと…!」
そういうと同時に海未が廃工場の扉を開けようと歩き出し、扉に手をかけると…手が消えた
千依「…!」
千依「マジかよ…いや、吸血鬼用なんだよな?」
海未「うん、そうだよ」
千依「なら、最悪魂ちゃんだけなら逃げれるか…」
僕は自分が死ぬかもと言われたことよりも、魂ちゃんを降ろさないといけないことに悲しみを覚えた
魂「うちの心配より、自分の心配して」
千依「魂ちゃんが無事って分かったから、次は海未の事を考えなくちゃ…」
海未「え、いやなんで?」
千依「え?」
千依「このままだと僕も海未も死んじゃうだろ?」
千依「海未だけでも逃がさないとじゃん?」
海未「私じゃなくて、千依が逃げる事を考えなよ!」
千依「いや、海未が逃げれるなら僕も逃げれるじゃろ」
それに
千依「今まで海未が苦しんでたんだ、このまま死んだら海未が報われないからな」
千依「…目標は僕も海未も魂ちゃんも生きて脱出する事だ」
少し静寂が訪れる
海未「フフッ…!」
海未「千依って案外欲張りさんなんだね…昔の千依と今の千依でイメージ変わっちゃったな〜」
千依「人間、成長するもんですよ?」
今は吸血鬼だろというのは空気読めない発言なのでやめようね…てか、吸血鬼の方が強そうだから成長度合い2倍位になってないかな?そしたらこの状況変えれるかもだし…
海未「無駄口するのはやめてさっさと逃げる事を考えな…」
その時、工場の扉付近から男がこちらに向かっていた
その男の顔は好青年という感じだ。しかし、見た時に初めて分かったが、周りに漂う空気…オーラのせいで妙な不気味さを醸し出している。
しかし、この時の僕は頭を逃げる事にフル回転させていたせいで、この男の異常さを考える事が出来ていなかった… 海未でさえこの男の気配を感じる事が出来なかった事を僕は何も感じていなかった。いや、その男が学校に登校する学生のような当然さのせいで誰も気づかなかったかもだが、それはどうでもいい
???「やぁ、こんばんは」
千依「…誰?」
???「ボクちゃんかい?そんな事を気にするなんて随分時間に余裕があるみたいだね」
会って早々偉そうな挨拶だな…
???「今はそんな事よりここからどう脱出するかが大切なんじゃないかい?」
その男はそんな話をしながら1歩、また1歩と近づいてくる
千依「じゃあ、これだけ言わせて」
???「なんだい?君達の命より大切な事なのかな?」
千依「助けて下さいっ!」
その瞬間、男の不気味さが消えた…
???「…」
???「そ、そんな…ハハッ!大真面目に助け求めてくる人初めてだよ!」
千依「それで、助かる方法はあるんですよね?」
僕は、こんな所に来る奴がただの一般人な筈がないと踏んで、助けを求めた
???「キヒヒ…も、もちろんさ…ククク…じゃないといないさ」
そんな中でも、千依は笑っている謎の男を観察する…謎の男の1番のポイントは両手につけた時計の数だろう。
右手には2個、左手に3個、そして首から1個懐中時計をつけていた。…もしかしたら海外を転々と回っているのかと呑気に考えていたが
彩怒「ボクちゃんの名前は如月 彩怒だよ、彩ちゃんでも彩怒さんでもいいよ〜」
急に自己紹介を初めてきた…なんとも掴み所がない男なのだろう
千依「彩怒さん」
彩怒「彩怒でいいよ」
千依「じゃあ彩怒…僕達が助かる方法は?」
今はこの男の事はどうでもいい、今の状況で処理できる相手では無い。いや、時間があったとしてもこの男を理解出来る自信が僕にはなかった
彩怒「簡単な話さ…"死ねばいい"のさ!」
千依「何を…」
僕は説明を求めようとしたが、海未が苦惨を持って彩怒を斬りつけにいく
海未「!!」
誰も思っていない事が、起きた。海未は結構短気な方な事は知っていたので切りつける事は予想はできた、が。"誰も海未が負ける事を予想する事が出来なかった"
海未「な!?」
海未は苦惨を彩怒の頭から縦に真っ二つに斬ろうと振りかぶり、振り下ろした。その時には既に彩怒は海未の後ろに移動していた。誰も気づくことに出来なかった…超スピードとかそういう概念じゃない、瞬間移動の類か時止めの類のように感じる
そして後ろに移動した彩怒は指を銃の形にし、心臓に狙いを定めると
彩怒「パーン♪」
そう声に出すと、海未が崩れ落ちた
海未「カッハッ!?」
千依「海未!?一体何を…」
僕は怪我をしたくない為、永楽を出し防御しようと思ったがー
彩怒「それが欲しかったんだよ」
千依「え」
手に持っていた筈の永楽が、彩怒の手に移動していた。
それに驚いたせいで僕は気づく事が出来なかった…彩怒が永楽を片手で持ち、片手で海未を持ち、そして海未を投げると
そこで僕は何をするかを分かった
千依「やめろ!」
遅かった、何もかもが遅かった。バイトに行く時間が遅かった。起きる時間が遅かった。海未と気づくのが遅かった。自転車に気づくのが遅かった。組織に入るのが遅かった。魂ちゃんの攻撃に気づくのが遅かった。巨大ムカデに気づくのが遅かった。道央に気づくのが遅かった。
そして何より…彩怒が海未を殺す事に気づくのが遅かった。
自分のルーズさに苛立つのと同時に、目の前の彩怒に対しての怒りが最高潮に達した。
海未が…死んだ。普通なら再生するはずなのに海未はピクリとも動く事がなかった
僕の使っていた永楽を使い、鞘を使わずに海未の首を斬り落とした。まるで、介錯のように…僕が扱えきれてない永楽の力を使い、海未を倒したのだ
彩怒「…ギリギリ足りたか」
彩怒が何言ってるのかさえも聞こえなかったし、聞こえてたとしても関係なかっただろう…こいつは今から
"僕の敵だ"
彩怒「おっと、怖いじゃないか…因みに先に攻撃してきたのはそこの吸血少女ちゃんの方だろ?…はぁ、話を聞かない子は嫌いだよ」
千依は彩怒に殴りかかりに向かう
魂「千依!」
無駄だった。魂の声さえ今の千依には届かなかった。
しかし、彩怒と魂は気づかないが意外な事に…千依は頭の中では冷静だった
千依(彩怒のあの攻撃を攻略しないと…海未の後ろに何故移動出来たんだ?)
千依は周りの声を聞く事はないが、それは集中によるものだった。自分の世界に完全に入ってるからだった。
集中をする事はいい事だが、今のこの状況では裏目にしかでてなかった…なにせ、話を聞けば千依は渋々だが、納得する話を彩怒から聞く事が出来たはずなのだから。
彩怒「そんな単調な攻撃で…はぁ、そういう事ね」
彩怒は千依の狙いに気づいたのか、約5m程千依から離れた…その選択は正解だった。千依の狙いは永楽にあった。千依は殴ると見せかけて、彩怒が持ってる永楽を自分の中に戻し、そして現界させて斬りつける事が狙いだった
彩怒「意外と冷静なんだねぇ…ボクちゃん達の声は聞こえないくせにねぇ」
彩怒(さて、どうしようか…このままだと依頼をこなせずに吸血少年君を生かす事が出来ない…まぁ、ボクちゃん的には吸血少年君の生死はどうでもいいけど、依頼人様が怖いからねぇ…)
魂は考えていた、どうやって千依を止めるかを。
彩怒という男と話たかったが、戦闘中なので話ができない…なら、一人でこの状況をどうにかしないといけないのだ。
いや、手段自体はあるのだ。ただ…
魂「体持つかな」
魂が考えていた作戦は、魂の体も海未の体も持つかが分からなかった。そこで千依達を見ると
彩怒「その位かい?もっとボクちゃんを楽しませてくれよ!」
魂「…」
魂は分かっていた。彩怒が有利だが、倒すまでにはいかない事を。彩怒は謎の能力で千依の後方に立ちながら戦いを有利に進めてるし、千依の攻撃にはあまり当たっていないが…千依に有効打を与えきれてないのだ。
海未の時は誰もが油断していたし、初見の能力だったので、ベテランの海未でさえ倒され、千依は気づく事が出来ず、魂も止める事が出来なかった。
しかし、今は違う。千依は話を聞いてないが、周りへの警戒を怠ってないのだ。そして後方に立たれた時も、慌てず急所を外し距離を取り、回復をする…その間に時間は経ち、死へのカウントダウンが近づいてくる。千依が油断をしてくれさえすれば彩怒が何とかしてくれるだろうが…そんな状況でも魂は躊躇ってしまう。そう、魂の作戦はー
海未を…ゾンビにする事、キョンシーにする事だ。
だが、キョンシーにする事にもリスクがあるのだ。
この世にリスク無くして遂げられる事は何も無いのだ。リスクは…時間が無いから御札の命でのみ動かす事だ。これは普通なら凄く危険な事なのだ…なんの手順も踏まずにキョンシーにするのだから、暴れ回って誰彼構わず破壊の限りを尽くすかもしれないのだ…しかも、それが海未クラスになると彩怒でも止められるか分からない
でも、簡単な作り方なので利点もある。それはキョンシーで居られる時間が少ない事だ…時間にして10秒位だろうが、今回に関しては良い方に傾いてるから大丈夫。だから、今回危惧すべきなのは海未の暴走だろうが、もうこれに関しては運に頼るしかない…嫌いだが、神頼みしか無いわけだ。こんな事なら、嫌いとか関係無しに千依と一緒に神社に行っとけば良かったと思った。
魂は後悔しながらも行動に移した。どんな事が起こったとしても一定のクオリティで仕上げる事が出来るのが魂のいい所だ…なにせ、死んでるから動揺も何も無いのだから。
⏰
彩怒「クッ…」
状況が、一転した
時間が経つ事に彩怒に疲労と傷が見えてきた。
彩怒(別にボクちゃん戦闘に特化してる訳では無いんだよねぇ…こういう戦闘はあいつの方が得意なんだけどなぁ…)
馬鹿の一つ覚えのように、千依が永楽を彩怒に向けて斬りつけようとする
彩怒「何度もそれやって…飽きないのかい?」
彩怒はまたも千依の後方に移動するが…
彩怒「おっと…それは予想外だね!」
千依が人間離れした行動をとる…上半身を180度回転させたのだ。これは彩怒も予想出来なかったらしく
彩怒「ゴファッ…!」
彩怒は永楽がぶつかる事によって激しく後ろに吹き飛ばされたが、幸運な事に、発砲スチロールとダンボールの山によって衝撃がある程度吸収された。
しかし、永楽がクリーンヒットした事によって体力が大幅に削られてしまった。
彩怒「ははは、痛いねぇ…もう吸血少年君は人間じゃなくて本物の吸血鬼になったのかい?」
またも挑発するが、やはり今の千依には聴いてなかったし、効いてなかった。
彩怒「…」
彩怒は魂を見る
彩怒(…キョンシー娘ちゃんは何をしてるのかな?吸血少女ちゃんの首をくっつけてるらしいけど…って、あれは御札かい?)
彩怒は目を見開いた。戦闘中にも関わらず、魂の方向を向いたのだ。それ程に、魂がやってる事に驚いたのだ
彩怒(完璧じゃないけどあれは…まさか、吸血少女ちゃんをキョンシーにする気かい?)
通常、キョンシーを作るのは人間の筈だ。それもその筈、普通はあの御札は人間以外触れないのだ。御札には封印と作成の2つがあるが、文字通り封印はキョンシーを封印する為の物、作成はキョンシーを作る為の物なのだから、キョンシーが触れないよう特殊な術を施しているのだ。それをキョンシー娘ちゃんは顔色一つ変えずに触っている…普通は体が崩れたり、耐え難い痛みが全身を襲っているはずなのに、だ。もしかしたらボクちゃんの考えが間違ってるとも思ったが、よくよく見るとキョンシー娘ちゃんの左腕が腐りかかってきている
彩怒「キョンシー娘ちゃん、何やってるんだい?」
分かってはいるが、聞かずにはいられなかった
魂「2人を助ける」
彩怒「そう、かい…」
彩怒は目の前の吸血鬼に目を向ける
圧倒的に有利なこの状況でさえ、目の前の吸血鬼は油断をしていなかった。律儀に警戒していたのだー
"ボクちゃんにはまだ何か奥の手があると思って"
彩怒「…」
彩怒(距離にして約5m…ボクちゃんは倒れていて満身創痍であり、動けない…対して、吸血少年君は体力は削れてるだろうが、傷は再生していて無傷か…まぁ、結構血はでているだろうな)
彩怒「カハハ」
大きい声で笑ってやろうと思ったが、もうその程度の体力でさえ出てこなかった…だが、"計算できた"
体力が無くても、ギリギリ計算する事ができた
彩怒(キョンシー娘ちゃん、ボクちゃんが出来るのは1回だけだよ…失敗したらおしまいだから集中しなよ?)
彩怒は自身の事を支えていた発砲スチロールを千依に投げつけたが、投げつける力が足りなくて千依に当たる前に止まってしまった。距離にして2m位しかとばなかった
千依「…」
4m
3m
千依は発砲スチロールを踏み潰してこちらに来る
2m
1m
そして、目の前
ボクちゃんは胸にぶら下げている懐中時計を握りしめ
彩怒「吸血少年君…君は何を…」
言い終わる前に鞘が抜かれた永楽が、心臓がある左胸を目指し…突き抜いた。
彩怒「あ、あぁ…」
彩怒が永楽で突き抜かれた時に思った事は、やっぱりボクちゃんは戦闘には向いてないという事だった。
千依「…」
千依(海未、ごめんな…仇は取れたけど、一緒に生きて脱出するという目標は達成出来なかったよ)
永楽を引き抜くと同時のことだった
カラン
千依「…?」
集中が途切れて最初に聞こえた音が、何かが落ちる音だった。僕は不思議に思って後ろを向いた時…何故か彩怒の懐中時計がライトがついてる状態で落ちていたのだった。そして、ライトの光の先に"海未がいた"
千依「なぁ…!?」
海未「千依も報われないとね」
その言葉だけを遺し、海未はまたも膝から崩れ落ちた
間違えるはずは無い、ちゃんと海未だった。言動も、声の音程も、親譲りのタレ目も、笑った時のえくぼも、柑橘系の香りも…全てが海未だった。
その時だった
彩怒「やっと戻ったねぇ…話を聞く準備は出来たかい?まぁ、その前に吸血少年君にはこれを食らってもらおう」
千依「え!?」
後ろを振り向くとそこには、胸の傷が消えておりピンピンしてる彩怒がいた…僕の顔を殴ろうとしている彩怒の姿があった
千依「いづぅ!?」
しかし、今までに食らってきた攻撃のせいで慣れてしまったらしく、怯むぐらいしかしなかったが
だが、急の連続で怒りの感情がでてこなかったので、良い方に転がったのだろう
千依「な、なんで生きてんだ?」
彩怒「聞きたいなら教えてやるけど…その前に2つ!吸血少女ちゃんは安心しろ!それと、自分の心配をしなくていいのかい?」
彩怒(やっぱりボクちゃんはこういう裏をかく方がいいねぇ)
千依「あっ」
そういえばもうそろそろ始まってもおかしくないのを思い出した…道央が残した兵器の事を
彩怒「既にボクちゃんは手を打った…あとは君の運次第だよ」
千依「なら大丈夫だ…神頼みしてきたからな!」
彩怒「へぇ、どんな神様か気になるねぇ」
彩怒がそういった時、千依は思い出した…あの、大きなムカデの事を話そうとしたその瞬間…現れた
"僕が会った、大きなムカデが"
千依「なんでここに!?」
彩怒「ん?どうしたのかい、そんなに驚いて」
千依「…え?」
千依(…まさか、彩怒達には見えてない?何故僕にしか見えてないんだ…いや、もしかして…"信仰する"って言ったから僕に姿を見せてるのか?確かにあの時も魂ちゃんは見えてなかったし…)
その大ムカデは何かをするわけでも無く、ただ何かを待っている。
彩怒「どうしたんだい?…何か変な奴でもいるのかい?」
彩怒は周りをキョロキョロと見渡す
彩怒「ボクちゃんには見えないねぇ」
千依「い、いや、なんも無いぜ」
その時は急に来た
千依「…ガハッ!?」
千依(体が動かない!?声も出せない…あっ、これ死ぬやつだ)
千依も海未と同じく、膝から崩れ落ちた
魂「千依!」
千依(あれ、目がおかしくなってるのかな…魂ちゃんの左腕が無いような気がするんだけど)
千依の目はおかしくなってなんか無かった。目の前の事実は本当の事だった。既に魂の左腕は御札に命を込めた時に腐り落ちたのだった
千依(なんでこんな所で死ぬんだろうな…まだ僕は何も達成する事が出来てないんだ…それ、なのに…)
自分の意思とは真逆に、瞼がおちていく
千依(…大ムカデが近づいてきてんなぁ…なんでだ?)
僕の意識はそこで途切れてしまったが…最後の瞬間にみえたのは、大ムカデが僕の体に近づいたところだった
第1幕 終了