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四つの門扉 

これは、とある人から聞いた物語。


その語り部と内容に関する、記録の一篇。


あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。

 扉。この言葉を聞いたとき、君はどのようなイメージを持つだろうか?

 出入り口。異なる世界と世界をつなぐもの。そして大いなるハードル。

 いずれにせよ、ここをくぐることでこれまでの世界の常識が通用しない、別世界へ入ることは間違いないだろう。

 家の玄関ひとつをとってみても、日本では靴を脱ぐかどうかの境目であり、場合によっては上着を脱いだり、帽子をとったりするだろう。

 すでにそれは異なるルールに縛られる場所で、我々は幼いころよりその常識を叩きこまれて生きてくる。


 しかし、中には慣れない、突発的な扉をくぐってしまうケースもある。

 そうしたときに、どう対処すればいいか。我々は多く、その方法を求めるものだ。

 僕が昔に体験したことなんだけど、聞いてみないか?



 その年の寒さは、いつもよりも早くやってきた。

 一日で夏から冬へ急変した気候は、多くの子供たちを半袖短パンから長袖長ズボンの姿へ早変わりさせた。

 その中でも元気な格好のまま、学校へ姿を見せる子だっている。

 そう、僕だ。

 この服装が皆無というわけじゃなかったけれど、昨日に比べればぐんと数が少ない。まるで時代に取り残された人のようだ。

 でも、当人である僕はそこまで気にしていない。

 自分の過ごしやすい服をまとって、何が悪いのか。ましてや制服などない環境で、他人に合わせる必要があるのか。

 僕はそろって進むみんなに紛れて、校門をくぐろうとした瞬間だった。



 鳥肌が、立つかと思った。

 冷たい風が吹き寄せたかと思ったけれど、違う。無温に感じる、肌とほぼ同じ暖かさ。

 その空気が、前に出ている指先、つま先へ触れたかと思うと、一気に身体の内へ、芯へ駆け巡った。

 時間にして、秒を数えるほどもなかったと思う。でも、確かに。

 羽扇が柔らかく、身体全体をなぞった気がした。腕、足、腹、胸、頭と、ひと息にだ。

 歩きながら振り返るも、そこにいるのは僕に続いて入ってくる生徒だけ。

 いずれも長袖長ズボン。僕の感じたなでられた感触に、とまどうような色は見受けられない。

 僕しか、あれを感じていないのだろうか?

 そっと、もろにさらしている腕をなでてみる。先ほど感じたものには、ほど遠い手触りだった。

 風邪の予兆だろうか。その割にのどの痛みや鼻水、熱などはないのだけれど。

 念のため、その日から数日間は厚着をしながら体調に気を配る僕だったものの、特に体調が悪くなることはなく。

 むしろ汗をかいて、気分を害するときの方が多くて、また元の服装へ戻してしまったんだよ。


 けれど、抜け目なく2回目が来た。

 その服装を戻した日の、やはり校門をくぐる時だ。

 今度は撫でるというより、ぎゅっと握られたかのよう。より身をこわばらせるような力を、僕はまた肌に感じた。

 今度は、固まるのを周りのみんなも見ただろう。やや怪訝そうな表情を見せながら、僕を追い抜いていく。

 ただひとりをのぞいては。

 僕と同じクラスで、かつ同じような元気な服装をした子だ。

 彼の方は、どうやら僕よりひどい。そっとみんなの流れから外れたかと思うと、靴ひもを結びなおす時のようにかがみ込んでしまう。

 しかし、彼の今日履いている靴はマジックテープ。はがれた様子もない。

 

 駆け寄ってみて、すぐ異変に気付いたよ。

 彼の服から出ている手足には、いくつもの青あざができていたから。

 しかもひとつひとつの範囲が広く、まるでブルーベリーのジャムを、ナイフで伸ばして塗り付けたかのようだ。

 それらを隠さんとするように、何度も手でこする彼に、僕は自分の感じたものを伝える。

 ひょっとしたら、僕と同じようなことを味わったかもしれなかったからだ。その予想通り、彼は返してくれた。

「今回で、3回目だ」と。



 僕たちは2人して、保健室の先生へ相談しにいく。

 クラスメートの状態を見て、目を丸くした先生はこれより暖かくなるまでの間、まわりの皆と同じ、厚着をして登校することをすすめてくれた。

 風邪の予防ももちろんだが、僕とクラスメートの体験していること。こいつは先生が学生のときにも、まれに見られた症状なのだという。

 当時の先生は「四門をくぐる」と聞いたとか。



「この世にはときどき、外からこの世にあるものを調べにくる存在が現れる。

 そいつは自分の力の及ぶところに『門』を設けて、条件に合致する者が出てくるのを待ち受けるの。その対象は、身体全体をなぞられるような感触を覚えるわけ。

 まるで入国審査のゲートみたいよね。そして、目をつけられた人間は最大で4回の『審査』を受ける。それは回数を重ねるごとに、厳しさを増すの」


「あと一回……」


 クラスメートが自分のあざを、あらためてなでる。

 これより強いものが来るのだとしたら、それは……。


「4回目は最悪、命を落とす恐れが出てくる。先生の友達もそうなって、すぐ病院に運ばれて、何日も意識を失ったわ。

 四と死。縁起でもない話よね。けれど、他にもちらほら聞いたところ、肌を減らす面積を減らした人は、この追及を免れることができたらしいのよ」


 なにかあったら、すぐに来なさいと保健の先生の言葉を受け、僕たちはその日から皆と合わせた厚着をするようになる。

 先生の言葉通り、何日経っても追加の「検査」を受けることはなかったが、気になることが一点ある。

 その話に出てきた、外の者たちはこの世界の者を審査して何をするのだろうか、と。



 答えは寒さも温む、春先の日にちらついた。

 用心して厚着をする僕らが、並んでみんなと一緒に校門をくぐったとき。

 ただひとり、その波に隠れるように逆走してきた子が、クラスメートにぶつかり、そのまま外へ出ていったんだ。

 クラスメートが思わず尻もちをつきかけるほど強い当たりだったが、それを支えながら僕は見た。

 早足でぐんぐん遠ざかっていくその姿は、このクラスメートとうり二つであることを。


 先生のいう審査は、標的としたものを門のくぐり際にスキャンして、そっくりなものを生み出すためにやっていたのだろう。

 それを4回やると、本物は表舞台に立てなくなり、代わりにそっくりさんがまかり通る、と。


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