料理長の提案
「実は私お役御免になりまして、明日この国を出ていく事になりました。調理場の皆さんにはとてもお世話になったので、ご挨拶にきたんです」
「なんだって? それはもしかしてあの方のせいじゃないのか?」
ここの人達も王子の理不尽な振る舞いや私に対しての付きまとい行為をよく知っているのでこんな質問が帰ってきたのだ。
私は黙ってニッコリ笑う。
これだけで肯定の意味は通じた様だ。
「まったく、ろくでもねえ。
あんなのに仕えていると思うと嫌になるが…」
「しっ! 料理長どこで誰が聞いてるか分かりませんよ。
抑えて下さい」
私は料理長をなだめる。
私はもういなくなる人間だけど、この人達はいくら王子がボンクラでもここで働いて生きていかなければならないのだ。
どこにあちら側の人間がいるか分からないのだから、出来るだけこちらが不利になる発言は避けないとね。
「ふー、すまねぇ。
けど、寂しくなるな。
それに随分と急だな明日だなんて」
それは、さっきの王子の発言で、ここに居る必要がなくなったから、早々にお暇するんですけどね。
「ぐずぐずしていると、絡まれて面倒なんで」
「なるほど。 確かにな」
と料理長もすぐに理解してくれました。
この王宮には若い侍女が極端に少ない。
それは王子がすぐに自分の部屋に連れ込もうとするから。
何度も陛下や宰相が苦言を呈しても改善の兆しは見えないので、最初から若い娘は採用しないようにしているみたい。
今いる若い侍女はすでにお手付きになっても辞めずに反対に楽しんでいる猛者と王子が手を出さない好みのタイプではない子達。
王子はあれで案外誰彼構わず手を出す訳ではないようだ。
流石に自分の2倍は体重があろう体型の子や個性的な顔立ちの子には食指が動かないらしい。
あまり手を出す侍女が減ったから、余計に私に執着していたのかもしれない。
そんな裏の事情も騎士団長や料理長達は分かってくれています。
「そうだ、夜ここでお別れパーティーしよう」
「いいですね。では、今日の晩御飯は軽食でお願いします。
部屋の片付けをしたら、ここへ戻ってきますから」
私は自分の部屋に届けられる食事を簡単な軽食にしてもらって、部屋を片付けた後に調理場に戻ってくる約束をしました。
きっと今夜は私の好物を特別に用意してくれるのかな?
真夜中のパーティーが楽しみです。