調理場へ
「それと、これなのですが…
今言ったように、聖女不在となりますので、皆様だけで討伐も行く事になるてしょう。
その時にでもお使い下さい」
私はかご一杯の自家製回復薬と傷薬を渡しました。
「こんなに沢山もらえません。
フランチェスカ様の薬は大変高価な物ではありませんか」
「いいのです。
この国の材料で作ったものですし、これを持って帰るのは面倒なので、騎士団で使ってくだされば嬉しいです。
その代わり上の方達には内緒で」
高価だからこそ、宰相や他の貴族に知られれば差し出せと言われるだろう。
王子なんか特にね。
その辺はトレビス団長も分かっているから、ニヤリと笑って。
「ありがとうございます。
感謝いたします。結局この国を担っている方達より、聖女様の方が我々を気にかけてくれていたと言う事ですか」
と何だか悲しそうな顔をしました。
「いつかまた会える事を願っております」
そう言ってもらえた。
その後、皆さんを呼んでお別れをさせてくれました。
皆が私との別れを惜しんでくれている事は嬉しかった。
その後は調理場の方へ行きます。
「料理長、ちょっといいですか?」
こちらも晩餐の準備には、早いようで、皆でまったりしている所に顔を出せたようです。
「フランチェスカ様、何か作りに来たのですか?」
とニヤニヤされてしまった。
これには訳がある。
王子の嫌がらせで侍女たちの引き継ぎ連絡を邪魔されて、2日間誰も私の所へ来なかった事があります。
朝の支度用の水、食事、シーツの替えも何もかも部屋に持って来てくれるはずの侍女が誰も来ず困惑し、私はお昼まで待って調理場に行ったのです。
顔を洗う水がなくても、支度を手伝う人がいなくても、別にどうにかなるけど、食事を抜くのは正直きつい。
だから、調理場へ顔を出して料理長に理由を説明してみた。
すると、料理長も今朝誰も私の食事を取りに来ないから、どうしたのかと不思議に思っていたそうだ。
その日私は調理場で料理人達と食事を一緒にさせてもらい。
そのお礼に疲れの取れる特製のミルクプリンをご馳走した。
いきなり調理場に現れても、不審者扱いされて追い返されずに済んだ理由… それは、その日の数日前に調理場で誤って大きな怪我をした人がいて私が治療に出向いていたから。
だから、調理場の場所も分かっていたし、料理長とも顔見知りだったのは、不幸中の幸いだった。
今となっては、いい思い出だしそのお陰で調理場の皆ともとても仲良くなれた事件でした。