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第5話「レイトノルフ村」

 村長室。広い部屋の中には、役場の他の部屋や廊下よりも若干豪華な内装だった。左奥には本棚が並び、難しそうな本が並んでいる。たまに本ではなく、何かのトロフィーが並んでいることもある。

 中心には応接用の机といす、カーペットは赤く高そうだ。そして部屋の中心奥には、歴代村長が座って仕事をしてきたのであろう年季の入った机といすがある。そしてそこに座る人物こそがきっと村長、エガリプなのだろう。ヒナは村の長である人物にある程度の威厳を予想して部屋の中に入った。

 現実と予想は必ずしも一致するとは限らない。ヒナの視界に映る村長エガリプは、細身の老人だった。しかし、顔が見えない。なぜなら村長は今突っ伏しているからだった。

「…そ、村長さん?」ヒナはその様子を見て、一瞬心配した。すると扉の音とヒナの声を聴いて、エガリプは顔を上げる。その表情は、どこにでもいそうなおじいちゃんだった。

「おや、こんなかわいいお嬢ちゃんが村に来とる。見ないでおくれ、わしは今お昼寝の時間なのじゃ」

「…お昼寝?」

「…エガルプさん、さぼりですか。」セレスがあきれたように声をかける。するとエガリプは焦ったように体をシャキッとさせた。

「な、なんだねセレス君。来ておったのか。早く言ってくれなくては困る。ノックはしたのかね」

「してたよ?」ヒナが言うと、エガリプはバツが悪そうに頭をかいた。

「はあ。まあいいです。村長、二点報告がありまいりました。入室の許可を。」

 セレスが背筋を伸ばし、真剣な表情でエガリプに話しかける。その表情からエガリプが本当に統治者であり、ただのおじいちゃんではないということをヒナは感じ取り、セレスと同じように背筋を伸ばした。エガリプはその様子を見て、威厳を保つかのような姿勢になる。

「うむ、ご苦労。しかし、わしは眠いから後にしてくれ」

「…」真剣な表情のまま固まるセレス。

「…」あっけに取られるヒナ。

「…ぐぅ」また突っ伏して寝るエガリプ。沈黙は数秒続いた。


 + + + + +


「で、何の用じゃ。」

 セレスにしこたま怒られたエガリプはもはやただのおじいちゃんだった。セレスは呆れながらも応接用のいすに座り、エガリプと向かい合う。ヒナはセレスの横のいすにちょこんと座った。

「はあ、これで村が回ってるんだから凄いんでしょうね。」

「うむ、もっと崇めてもいいぞ」

「田舎だから成り立っているんですけどね。…実は、この子、ヒナのことなんですが…」本題に入るセレス。エガリプはちらっとヒナを見る。ヒナはエガリプに小さくお辞儀をした。エガリプはヒナに笑いかけた。

「これくらいの孫がわしにもいたらのう。わしのところは男ばかりじゃし、どうじゃヒナちゃん。孫にならんか?」

「…え?」

「何言ってんだあんたは…」戸惑うヒナにため息をつくセレス。それを見てエガリプは大きく笑った。

「がはははは!冗談じゃ冗談。…してその娘…。銀髪に青い目か。この辺の者じゃあないのう。」

(私、青目なんだ。)

「ええ。エクナゴラの民族に銀髪は見ないですし…」

「…獣人でもない、ということはセーニザルの出ではないだろうな。」

「イノツルグの可能性は?」

「あそこの者が迷い込むことなどまずありえんじゃろう。そうなると…。」

 突然始まった真剣な会話にヒナは驚く。知らない用語がたくさん出てきたが、内容から察するに国、または地方のものなのだろうとヒナは推察した。ちなみにどれも彼女の記憶にはない地名ばかりだ。

「…ヒナちゃんだったか?君はどこから来たのかな?」エガリプはヒナに優しく声をかける。ヒナは答えに迷ってしまう。しかし、それを察したセレスが代わりに事情を説明してくれた。

「彼女は、トラトス大森林で見つけたのですが、記憶をなくしているようなのです。」それを聞くとエガリプは目を見開いて驚いた。

「なんと、トラトス大森林でか。ならばなおさら奇怪な話だ。残る故郷の線は、東大陸のことを考えないのであればイブネじゃったが、ここにイブネから子どもが来るにはちと遠い。」

「まあ、ここにきている時点で、どの国も遠いですけどね。…で、相談なんですけど。」

 セレスがエガリプをまっすぐ見据える。エガリプはその表情を見て何か察したようだ。大きくうなづいた。

「うむ、いいだろう。孫を嫁に出すのは気が引けるが、お前さんなら安心じゃ。」

「ちがうわ!この子をしばらくこの村においてもらえませんかって聞こうと思ったんですよ!」

 エガリプは怒るセレスを見てまた大きく笑った。ヒナは、エガリプがセレスをからかっていると気づいてつい笑ってしまった。

「なんだ、そんなことか。もちろんいいに決まっておろう。…ヒナちゃん、ゆっくりしていきなさい。」

「あ、ありがとうございます。」ヒナはおずおずと頭を下げる。セレスはなんだかんだ許可が下りたので、良しとしたようだった。

「それじゃあ、俺と村長は仕事の話をするから、ヒナはルリグのとこで待っててもらえるか?」

「えええ?まだ話あるのかセレスよ!わしはもう疲れたぞ」

「本題はこっちです!しっかりしてくださいエガリプさん!…それじゃあヒナ、いいかな?」

「…うん!下で待ってるね。」

 ヒナは、嫌がるエガリプと、エガリプを取り押さえようとするセレスに背を向け、村長室の外に出た。


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