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第4話「新しい世界」

 森の外は、どこまでも続く大草原が広がっていた。ヒナの目には地平線すらも緑に見える。遠くに建造物もなく、世界中がこの草原で囲まれているかのように広い。初めて見る景色にヒナは目を輝かせた。

「…広い…」

「そうだな、ここはエクナゴラ王国南部のトラトス地方の草原だ。」

「エクナゴラ王国?」セレスの言葉にヒナは首をかしげる。セレスは、ヒナが本当に記憶を失っているということに確信をもった。

「おいおい、国のことも忘れてるのか?ここはエクナゴラ王国。西大陸最大の王国だ。」

「…ふうん。」ヒナは説明を受けてもしっくりくるイメージがわかなかった。まるで、初めて習った言葉のように。あの森にいたというのであれば、彼女はこの国の人間、そうでなくても、この世界のどこかの国の人間ということになる。しかし、今二人が立つこの草原の国にデジャブにも似た感覚は全くと言ってもいいほど無かった。

「ピンと来ていない、といったところか。まあ、考えるのはあとにしよう。今、ヒナには休息と時間が必要だしね。」

 セレスはそう言って草原の中を歩き始めた。ヒナは少し遅れて後を追った。


 + + + + +


「ついたぞ、ここがエクナゴラ王国最南端の村、レイトノルフの村だ。」

 草原を10分も歩いていると、すぐに建物がいくつも見えてきた。木の柵に囲まれた小さな村だ。セレスの歩む先には門とは言えない村の入り口があった。衛兵などの番はいないようだ。

 門を越え、村に入る。村を歩く人々を見つめ、ヒナが初めに感じたのは、のんびりした雰囲気だった。

「おかえり、セレスさん、ダエル!」

「ああ、ただいま!」住民がセレスに気づき声をかける。セレスはそれに笑顔で応答する。ダエルは嬉しそうに尻尾を振った。声をかけた男はセレスたちのすぐ隣に女の子tがいることに気づき首を傾げた。

「セレスさん、その子はどうしたんです?見かけない子ですね」

「やっぱりそうか…。この村の子ではないんだな。」

「ええ。その美しい銀髪にそんな目の色の子なんて、ここでは目立ちますからねえ」その住民の言葉でヒナは自分の髪色に気づく。

(目の色は何色なんだろう…。)

「こ、こんにちは」ヒナは少し緊張しつつも声をかける。すると男はにこっと笑って挨拶を返してくれた。

「こんにちは!ようこそレイトノルフへ、お嬢ちゃん!」

 ”お嬢ちゃん”という言葉に、ヒナはくすぐったい気持ちになる。ヒナは恥ずかしくなってセレスの後ろに隠れた。

「エガリプさんは、役場か?」

「だと思いますよ。今日は忙しいみたいで」

 エガリプという人物の居場所の話をした後、男とセレスは別々の道に進んだ。ヒナはセレスの後ろをついていった。

「エガリプさんって?」

「ここの村長さんだよ。仕事の報告と、君のことを話しておこうと思ってさ。」

「村長さん…。一番偉い人ってことね」

「ま、そういうことだ。」

 しばらく歩くと、村の中で一番大きいであろう建物が見えてきた。どうやら村の中心にある建物のようだ。木造の建物がほとんどの中、その建物だけはレンガでできていた、比較的新しい建物だろう。

「ここが村の役場だ。村のいろんなことをまとめたり、決め事を話し合ったりする場所だな。」

「へえー。」ヒナは初めて見る大きな建物に目を白黒させる。その様子を見てセレスは笑って言った。

「ここで驚いてたら、王都に行ったときは大変だな。」

「おうと?」

「ああ。エクナゴラ王国の中心の町だ。王都ニースっていう。俺はそこの出身なんだよ。」

「そうなんだ!いつか行ってみたいわ。」

「ああ、行ってみるといいさ。にぎやかで活気あふれる町だ。さて、じゃあ入るか。」

 二人は役場に入った。ダエルは役場には入れないようで、入り口で丸くうずくまる。中は数人の住民と、受付に二人の女性がいるだけだ。村の規模からすると、いつもこのような密度なのかもしれないが、会話している全員がにこやかにしていた。セレスはヒナを連れて受付の前に行く。

「あら、セレスさん。おかえりなさい。…あら、その子は?」

「ああ、ただいまルリグ。この子はまあ、迷子だ。」

「…?でもこの村の子ではないですよね。」

「ああ、どこから来たのかもわかってない状況だ。それも含めてエガリプさんと話したいんだが、いるか?」

「ええ、今は村長室で書類整理をしていると思いますよ。」

「了解、ありがとう」

 受付にいた、ルリグという女性はヒナと目を合わせ、にっこり笑った。

「こんにちは!お名前は?」

「こ、こんにちは、ヒナです。」

「ヒナちゃんね。私はルリグ。この村役場の受付嬢です。よろしくね。」

「よ、よろしくお願いします…」不安そうに返答するヒナを見てルリグは小動物を見るような目で身を乗り出した。ヒナは驚いて身を引く。セレスはあきれたようにため息をついた。

「おいルリグ、怖がらせるなよ」

「いやでも可愛すぎますって!…ああ、男女比8対2のこの村に、女の子がくるなんて!知ってますかセレスさん!今この村に若い女の子は数えるほどしかいないんですよ!そんな中、こんな天使が迷い込んでくるなんて…!これは天人様のお恵みなのよ!」

 ハイテンションでまくしたてるルリグに若干引きつつも、ヒナは自分が必要とされていると感じ、少しうれしくなった。

「はいはい、その辺にして、仕事にもどれルリグ。」

「もう、セレスさんはヒナちゃん独り占めですか?」

「違うそうじゃない。俺は保護者としてだなあ…」ルリグはプイっと左を向く。セレスはその様子にさらにあきれるのだった。

「まあ、いいです。ヒナちゃんはあとで愛でます。異論は認めません。」

「へ?」ヒナはぽかんとする。ルリグはさらに続けた。

「まあ私はで・き・る、女ですから。セレスさんに言われなくても、立派に仕事をこなしますよ!」

「ああ、そうしてくれ…。」

 ヒナはなぜか疲れたようにだらっと腕を下すセレスとともに二階にある村長室へと赴いた。

 扉の前に立つ。セレスはノックをしようとして、手を下した。そしてヒナの方を向く。

「ヒナ。エガリプさんは、いい人だ。」

「…?うん。」

「みんながみんな、ルリグのようなやつではないからな。」

「うん。…大丈夫だよ、私ルリグのこと嫌いじゃないから。」

「ならよかった。不器用だがあの子なりの歓迎の態度なんだ。」

「そうだね。」

 セレスはそう言うと、村長室の扉をノックして扉を開けた。


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